artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

宇山聡範「after a stay」

会期:2012/05/28~2012/06/02

Port Gallery T[大阪府]

ビジネスホテルの客室の一隅を撮影した写真が並んでいた。日陰の室内は全体的にブルーがかった色調で、生活感がまったく感じられない。一瞬、トーマス・デマンドのようにつくりものの空間を撮っているのかと疑ったほどだ。意外だったのは、どこでも同じようなものだと思い込んでいた客室が、実はホテルごとにバリエーションが豊かなことだ。宇山は撮影の仕事で国内各地を飛び回るうちに、これまで自分がホテルの客室に注意を払っていなかったことに気付いたという。つまり、“あまりにも当たり前すぎて、視界に入っているだけで何も見ていない空間”が本作のテーマである。そのため、作品には徹底して個性や感情が省かれている。そのひんやりした虚無感も本展の見応えであろう。

2012/05/28(月)(小吹隆文)

プレビュー:淀川テクニック個展─はやくゴミになりたい

会期:2012/06/16~2012/07/08

ARTZONE[京都府]

大阪・淀川を拠点に活動し、河川敷のゴミを素材にした作品で知られる淀川テクニックが、京都に登場。過去の代表的な作品やドキュメンタリー映像と共に、鴨川で収集した素材による新作インスタレーションを展示。また、鴨川でワークショップを行ない、拾ったゴミの履歴書を制作する。実は関西での発表が少なかった彼らだけに、この機会は貴重である。

2012/05/27(日)(小吹隆文)

プレビュー:対話する美術/前衛の関西

会期:2012/06/09~2012/07/29

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

1972年の開館以来、現存作家の展覧会を積極的に開催し、作品を収集してきた西宮市大谷記念美術館が、開館40周年を記念してそれらを一堂に展覧する。作家は、須田剋太、津高和一、元永定正、白髪一雄、村上三郎、松谷武判、植松奎二、藤本由紀夫、石原友明、パラモデルなど17作家で、戦後から今日に至る関西の現代美術を振り返るラインアップとなっている。関西では、地元の現代美術作家を紹介する企画展の不足が慢性化している。館蔵品による一種のレビュー展とはいえ、小さな市立美術館が気を吐く姿には頼もしい。

写真=パラモデル《残存と消失の風景♯001》2010年

2012/05/27(日)(小吹隆文)

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植松奎二 展 軸─重力・反重力

会期:2012/05/26~2012/06/23

ギャラリーノマル[大阪府]

ベテラン作家の植松奎二が、1970年代から80年代初頭に集中的に制作していた木材とジャッキによるインスタレーションを再構成した。画像を見ると3本の木材に黄色い布地をくくりつけたように見えるが、実際は木材2本を縦に並べた状態×3であり、布地は木材の接続面に挟まれている。木材とジャッキが放つ剛性のテンション(push)と、布地の柔らかな曲線が醸し出す柔性のテンション(pull)の対比が美しい。また、紡錘形の鉄板を10枚積み上げた形の大作や、ドローイング、小品、記録映像も展示されていた。このような企画は本来美術館で行われるべきものだが、残念なことにいまの関西ではそうした企画はほとんど行なわれない。意義深い企画を実行した画廊に拍手を送りたい。

2012/05/26(土)(小吹隆文)

國府理 展「水中エンジン」

会期:2012/05/22~2012/06/03

アートスペース虹[京都府]

画廊の展示室は巨大な白い水槽で占拠されていた。水槽には鎖で吊られ、多数のパイプやコードが接続された自動車のエンジンが沈められている。始動させると、くぐもった音を発しながら生き物のように蠢くエンジン。その姿は捉えられた未知の生物のようだ。また、福島第一原発の現状を暗喩していることは誰の眼にも明らかであろう。エンジンを水中に沈めるという荒業ゆえ、会期前半にはトラブルが頻発したが、後半には見事に持ち直して本来の姿を観客に見せることができた。昨年来、多くの美術家が原発事故にコミットした作品を発表してきたが、本作は私が見たなかでは最良の表現物である。

2012/05/24(火)(小吹隆文)