artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

桑島秀樹 展「TTL(Through The Lens)」

会期:2012/07/14~2012/08/04

YOD Gallery[大阪府]

写真作品4点を展覧。それらは、グラスやデキャンタなどのガラス器を緻密に積み上げ、バックライトを当てて大判カメラで撮影、その画像をもとにデジタル技術で多層レイヤーをつくり、銀塩カメラと同様の方法でプリントしたものだ。ウルトラバロック建築や曼荼羅を思わせる超高密度な世界が眼前に広がる。しかもそこには、ガラス特有の透明感や陰影もしっかり表現されているのだ。桑島は大阪在住ながら関西以外での発表が多く、地元の画廊が彼を取り上げるのは珍しい。これだけの技量をもつ作家が地元で知られていないのはあまりにも惜しい。本展を機に、彼の個展が定期的に行なわれることを希望する。

2012/07/14(土)(小吹隆文)

東明 展「groundwork」

会期:2012/07/10~2012/07/22

アートスペース虹[京都府]

ビニールシートや布地などでつくられたパラシュート型オブジェと、ブルーシートを何層も折り畳んで、どこをカットしてもハニカム構造が出現するシート状の作品、空気を孕むと半球状に膨らむ一辺約1.2メートル四方の作品を出品。パラシュート型の作品は空中に投げると空気を孕んで円錐形や動物の姿になり、着地後もしばらくは形態を留め続ける。玩具のような面白さがあり、大人げなく何度も投げて遊んでしまった。素材や構造への関心が深く、プロダクト的な側面も持つのがこれらの作品の特徴だ。それだけに今後の展開次第ではアートの枠を超えた広がりをつくり出せるかもしれない。

2012/07/10(火)(小吹隆文)

黒田征太郎の73回目の夏の自由画展

会期:2012/07/09~2012/07/21

番画廊[大阪府]

イラストレーターの黒田は、1990年代のニューヨーク在住の頃からアトリエの机をクラフト紙で養生し、絵を描いたりメモを記していた。本展ではそれらクラフト紙の上に新たにペインティングを加えた作品「自由画」10点を展示した。作品の印象は、「みずみずしい」の一言。奔放なイマジネーションが縦横無尽に展開されており、彼が今年で73歳ということが信じられない。正直言って最近は黒田の存在を忘れがちだったが、このオッサンまだまだ侮れんなと、思いを新たにした。

2012/07/09(月)(小吹隆文)

リアル・ジャパネスク 世界の中の日本現代美術

会期:2012/07/10~2012/09/30

国立国際美術館[大阪府]

泉太郎、大野智史、貴志真生也、佐藤克久、五月女哲平、竹川宣彰、竹﨑和征、南川史門、和田真由子という、1970~80年代生まれの若手作家9名をピックアップして、日本の現代美術の一断面を提示している。プレスリリースによると、彼らを選んだ背景には、欧米美術の行き詰まりに伴う価値観の多様化、1960年代生まれの美術家の仕事の超克、美術情報の氾濫という課題認識があり、それに対して、欧米追従や日本趣味への回帰、ショーアップした展示という安易な方向性を取らずに独自路線を歩む作家を選んだとのこと。つまり、1990年代末から2000年代にかけての美術動向に対するアンチテーゼを多分に含む企画展なのだ。正直、本展に対する私の態度はまだ決まっていない。ただし、泉、貴志、和田以外の作家は初見だったので、新鮮な気持ちで臨めたのは確かである。また、国立国際美術館で近年に行なわれた日本の現代美術展はすべて担当学芸員が異なるので、彼らの顔を思い浮かべながら企画趣旨の差異を楽しんだ。とにかく本展にはもう一度出かけて、自分なりに気持ちの整理をつけねばなるまい。

2012/07/09(月)(小吹隆文)

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KATAGAMI Style 世界が恋した日本のデザイン もう一つのジャポニスム

会期:2012/07/07~2012/08/19

京都国立近代美術館[京都府]

本展は、染色で模様を染める際に用いられる型紙が、欧米でどのように受容され展開したかを探るもの。約400点にも及ぶ膨大な展示品と、約3年間にわたる綿密な調査に基づく、ヘビー級の内容を持つ展覧会だった。展示品は、型紙や衣裳、見本帳に始まり、陶器、ガラス、壁紙、家具、ポスターなど多岐にわたる。つまり、染色展ではなく総合的なデザイン展である。事実、欧米諸国が布地ではなく型紙を欲したのは、未知のデザインソースに対する関心からだという。ヨーロッパ諸国での受容の差異も興味深く、英国では産業主導だったのに対し、フランスでは美術家や工芸家が率先したという。また、日本とほぼ同時期に統一国家が形成されたドイツでは型紙がデザインの教材として受容されたそうだ。今までジャポニスムといえば、浮世絵や陶磁器ぐらいしか思い浮かばなかったが、実は型紙こそがジャポニスムの中核だったのかもしれない。

2012/07/06(金)(小吹隆文)

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