artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
プレビュー:植松奎二 展 軸─重力・半重力
会期:2012/05/26~2012/06/23
ギャラリーノマル[大阪府]
ベテラン作家の植松奎二が、新作展ならぬ温故知新の個展を開催。彼が1971年から約10年にわたり集中的に制作していた木材とジャッキを用いたインスタレーションを、現在の視点から再構成、他3点の作品とともに展示する。本展は「過去をみつめ、未来をみる」をテーマに掲げている。単なる再制作やリバイバルではなく、過去の作品から現代、そして未来へつながるビジョンを抽出し、表現の可能性を改めて問い直す機会なのだ。長く第一線で活動を続けてきた植松だからこそ可能な企画であり、当時の作品を知らない世代にとっても刺激的な機会となるだろう。
2012/04/20(金)(小吹隆文)
プレビュー:今村源・袴田京太朗・東島毅「Melting Zone」
会期:2012/05/05~2012/06/02
アートコートギャラリー[大阪府]
菌糸をモチーフにした浮遊感のある立体やドローイングなどで知られる今村源、彫刻らしからぬ素材使いで知られ、近年はアクリル板を積み重ねて形をつくり出すシリーズを発表している袴田京太朗、巨大なサイズと尋常ではない重量感、物質感を持つ絵画を制作する東島毅の3人展。各自がそれぞれ占有空間を持つのではなく、互いに混ざり合い、浸食し合ってジャム・セッションのような展覧会をつくり上げるというのだから期待が高まる。その場その時にしか生まれえない美しきカオスを味わいたい。
2012/04/20(金)(小吹隆文)
小島瑛由 初個展「風神雷神ズ漫画」
会期:2012/04/17~2012/04/29
アートライフみつはし[京都府]
京都精華大学出身のストーリーマンガ家が、マンガ屏風というジャンルを開拓。風神と雷神の伝承をもとにした作品を発表した。展示室の左右には四曲一隻の屏風があり、正面には二曲一双の屏風を配置。左右からそれぞれ風神と雷神の物語が巨大なコマ割漫画として描かれ、正面の二曲一双の屏風で両者が相まみえる。吹き出しはなく絵だけで物語を表現しているが、古典的題材なので老若男女問わず親しむことができる。また、オタク臭が希薄なのも門戸を広げるうえで有効だろう。屏風の造作が雑なのが惜しかったが、そこさえクリアすればアートとマンガをつなぐユニークな表現として彼の代名詞になるだろう。
2012/04/17(火)(小吹隆文)
Mètis─戦う美術─
会期:2012/04/07~2012/05/20
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]
日常社会や常識などで、これまで当たり前だったはずの常識が大きく揺らいでいる現在、「私たちが生きてゆくために、どうすれば日々の営みを意義あるアクションに変えてゆくことができるのか」をテーマに、6組の作家(伊東宣明、中田有美、佐藤雅晴、高須健市、ヒョンギョン、Weast)が集った。タイトルやテーマからメッセージ色の濃い展覧会を予想したのだが、実態は極めてドキュメント的でパーソナル色の強いものだった。それは、各人が自分なりのやり方を日々実践することでしか世界は変わらないというメッセージなのであろうか。作品では、自分の胸に聴診器を当て、鼓動のリズムに合わせて肉塊を叩き続ける伊東宣明の作品と、内面に蓄積された負のエネルギーを暴発させたようなヒョンギョンの作品に共感。他の作品も見る者の感性に爪を立てるような挑戦的なものが多く、全体として気迫のこもった企画展だった。
2012/04/15(日)(小吹隆文)
すべての僕が沸騰する 村山知義の宇宙
会期:2012/04/07~2012/05/13
京都国立近代美術館[京都府]
ベルリン留学時にダダや構成主義などの新興芸術に強い影響を受け、1923年の帰国後に爆発的な勢いで、絵画、コラージュ、トランスジェンダーなダンスパフォーマンス、建築、デザイン、舞台美術、前衛芸術集団「マヴォ」結成などの活動を展開した村山知義。その圧倒的なエネルギーとインパクトを、初めて本格的に紹介するのが本展だ。1988年に開催された「1920年代日本展」で彼の存在を知ってから20年余、遂にこの機会が訪れたことに感慨を禁じえない。現存作品が少ないため、写真資料が多いなど難点もあるが、展覧会が行われたこと自体に意味があるのだ。本展を機に今後一層研究が進み、彼の真価が鮮明になることを期待する。
2012/04/06(金)(小吹隆文)