artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

武蔵篤彦 展

会期:2012/05/03~2012/05/26

MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w[京都府]

本展のメインというべきは、3点の平面の大作と台形立方体が連続する柱状の作品1点だ。それらは不定形のパターンが連続する抽象画をデータ化してインクジェットプリントで出力し、その上から絵の具やメディウムを塗り重ねたものである。ジャンルの特定は難しいが、武蔵のこれまでの仕事から判断すればモノタイプ版画になるだろう。ほかには、ラムダプリントと絵画を組みあわせた2000年制作の作品なども発表されているが、それらは新作と対比するために出品されたと思われる。写真ではすでにインクジェットが普及しているが、版画でもこれだけの表現ができるとは知らなかった。美術史上、技術的発展が表現を一変させた例は幾つもある。今後、デジタル技術の発達は美術にどのような影響を与えるのだろう。そんな夢想へと誘われる機会だった。

2012/05/08(火)(小吹隆文)

柴田精一 展─ねじれた世界をねじあける

会期:2012/05/07~2012/05/26

ギャラリーほそかわ[大阪府]

柴田といえば、着色した紙を切り重ねて複雑な模様をつくり出す《紋切重》のシリーズで知られているが、板に風景や人物などを彫ったレリーフ作品も少数ながら展示していた。本展ではそのレリーフ作品ばかりが出品された。作品は実在の風景や人物、動物をモチーフにしているが、彼によると「現実の向こう側にあるもう一つの世界」がテーマになっている。また、作品の多くは表面が屈折している。そこに紙作品との関連性を見い出そうと思ったのだが、作者にあっさり否定されてしまった。本作についてはまだ自分の中で消化できていないが、彼の新たな側面として今後も注視したい。

2012/05/07(月)(小吹隆文)

高岡美岐 展

会期:2012/05/07~2012/05/12

O Gallery eyes[大阪府]

高岡美岐の絵画は、エモーショナルな筆致で絵具をどっぷりとキャンバスに塗りつけるのが特徴だ。以前の個展では、携帯電話で撮影した風景をもとに幾つもの水彩画を描き、そこからさらに選んだ構図を油彩画に仕上げると言っていた。その過程で風景は抽象化され、記憶や感情が画面に入り混じる。結果、彼女にしか表現しえない絵画世界が立ち現われるのだ。本展の作品は10年以上前に出かけた海水浴がテーマだが、前回の作品ほど抽象的ではない。どこか牧歌的な風情もあり、彼女の新たな世界を垣間見た思いだ。それでもぬめりのある分厚い絵具の質感や、ビュっと走る筆跡は健在。今時、こういう極太な存在感を持つ絵は貴重なので、このまま自分の世界を突き詰めてほしい。

2012/05/07(月)(小吹隆文)

立野陽子 展─明るさについての記憶

会期:2012/05/01~2012/05/12

ギャラリー16[京都府]

比較的短いタッチの三角形や四角形などが連続する抽象絵画を発表。彼女の作品はこれまでも一定の形態の反復に特徴があったが、ここまでペインタリーな作品はなかったのではないか。灰色がかった青や緑、茶色などで記号的表現が積層しているのだが、その色彩ゆえか、作品を見続けるうちにどことなく風景画に見えるのが不思議だった。また、画面の層構造が窺えるので、画家が作品とどのような対話を繰り返しているのか類推できる点も興味深かった。

2012/05/01(火)(小吹隆文)

ART KYOTO 2012

会期:2012/04/27~2012/04/29

国立京都国際会館アネックスホール、ホテルモントレ京都[京都府]

今年から名称を改め、会場も2カ所に増加した「ART KYOTO」。2会場はエリアは異なるが、地下鉄で直結しているため20分程度で移動できた。参加画廊は100に及び、ブース形式のゆったりしたスペースに大作が並ぶ国立京都国際会館と、ホテルの客室で小品をメインに展示するホテルモントレ京都という具合に性格分けもはっきりしていたので、これまでよりもバラエティに富んだアートフェアになったのではないか。つまり、グレードアップしたということだ。ただ、アートフェアの成否はあくまでも売上と動員であろう。その点、今回はまだ認知不足の感は否めない。来年以降も我慢強く継続して、関西に現代アートのマーケットを築くという目的を達成してほしい。また、今回は関連イベントとして「映像芸術祭 MOVING 2012」「ANTEROOM PROJECT」「Grassland」といった展覧会が京都市内各地で同時開催され、若手作家たちの自主企画「KYOTO OPEN STUDIO 2012」も同時期に行なわれるなど、ゴールデンウイークの京都は現代アートイベントの花盛りとなった。このような地域的盛り上がりをつくり上げることで、行政や地元経済界に観光資産としてのアートの価値をアピールするのも重要であろう。

2012/04/27(金)~29(日)(小吹隆文)