artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
宇山聡範 写真展 LAND
会期:2010/09/06~2010/09/18
Port Gallery T[大阪府]
旅先で見つけた風景を4×5の大判フィルムで撮影した写真作品。畑を撮った作品が1点あるが、ほかは荒野のような世界だ。ただし、実際は荒野でも有名な観光地でもないという。ありふれた土地に“どこでもない風景”を見出したら、それを素直に撮影するそうだ。フォーカスが作品の一部に当たっているのも、自分の目線や何かを感受した地点を明確にするためである。地平線を高めにとった構図と大きく引き伸ばしたサイズが功を奏して、見応えのある作品に仕上がった。初個展としては大成功であろう。
2010/09/06(月)(小吹隆文)
「日本画」の前衛1938─1949
会期:2010/09/03~2010/10/17
京都国立近代美術館[京都府]
伝統的な日本画の美意識に飽き足らず、全く新たな日本画を創造しようとした「歴程美術協会」の活動を、約80作品で紹介。戦雲急を告げる1938年に結成され、洋画家をも巻き込んで、抽象、シュルレアリスム、バウハウスなどの美術運動を積極的に吸収しようと努めた彼らの表現は、今見ても非常に刺激的だ。歴程美術協会の活動は未だほとんど紹介されていないらしいので、国立美術館で正面切って取り上げた功績は大きい。
2010/09/02(木)(小吹隆文)
Kodama Gallery Project 24 八木修平“drive”
会期:2010/08/28~2010/10/02
児玉画廊[京都府]
まだ現役の美大生の八木が、注目の若手作家としてピックアップされた。主にアクリル絵具で描かれた絵画は、さまざまな技法や手法が駆使されて非常に複雑な画面を形成している。にも関わらず、混沌とするどころかむしろ透明感があり、豊穣な世界を描き出していた。テーマは自動車でドライブしている時などに得られる疾走感や爽快感をビジュアライズすることらしい。筆者自身は作品を見て特段の爽快感を得た訳ではないが、目まいを起こしそうな幻惑的な画面と、それを破たんせずに構築した作家の技量には驚かざるをえない。将来有望な新人と断言しておこう。
2010/09/02(木)(小吹隆文)
PRODUCT
会期:2010/08/28~2010/09/25
ギャラリーノマル[大阪府]
クリエイティブの分野でジャンルの垣根が緩やかになりつつある状況を受けて、画廊ゆかりの6作家(稲垣元則、大西伸明、田中朝子、中川佳宣、永井英男、名和晃平)に「プロダクト」を意識した作品の制作を依頼した。それぞれのスタンスにより作品の傾向はまちまちだが、ドローイングをカレンダー形式で展示した稲垣元則のプランは、日々ドローイングを続ける彼の制作スタイルとジャストフィットしており説得力があった。名和晃平のテレビや携帯電話にガラスビーズを貼り付けた作品は、実用性はともかくオブジェとしては魅力的。永井英男のスクリーンセーバーはそのまま製品化できるクオリティで最もプロダクト寄りのプレゼンだった。しかし、6人のなかで私が最も気に入ったのは田中朝子のルービックキューブ。6つの面に作品イメージが貼り付けられており、揃っても揃わなくても楽しいイメージの遊戯が行える。田中はほかにも「田中フォント」という自筆文字をフォント化した作品を展示しており、こちらも絶妙の出来栄えだった。
2010/08/30(月)(小吹隆文)
WANDERING PARTY公演「total eclipse」
会期:2010/08/26~2010/08/29
国立国際美術館[大阪府]
束芋の個展を開催中の国立国際美術館で演劇公演が行なわれた。束芋が「断面の世代」というコンセプトを発案するに当たり大きな影響を受けた劇団WANDERING PARTYの「total eclipse」である。1985年に実際にあった豊田商事会長刺殺事件が題材で、刺殺された男の半生、現場に居合わせた記者の証言などを組み合わせて現在と過去を交錯させながら進展する物語だった。劇団の主宰者で作・演出を担当したあごうさとしは、この事件にその後の日本人の精神的退廃の起源を見出したようだ。作品は会話劇で、圧倒的な量の言葉が息つく暇もなく繰り出されるため、観劇経験の乏しい私は流れについて行くのが精いっぱいだった。また、大学時代に事件をテレビ越しに目撃した身としては、この事件がその後の日本人の精神性に決定的な影響を与えたとまでは思えず、むしろ世代による受け止め方の差に強い興味を覚えた。
2010/08/25(水)(小吹隆文)