artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
束芋:断面の世代
会期:2010/07/10~2010/09/12
国立国際美術館[大阪府]
横浜美術館で開催された個展の巡回だが、会場構成と一部の作品の展示スタイルが異なっており、横浜とは一味違う仕上がりとなった。特に迷路のような導線は、束芋の世界観とシンクロして効果的だった。映像作品は前半の団地をテーマにしたものと、後半の内省的な作品に二分されるが、筆者は後半の作品に可能性を感じた。デビュー以来、現代社会に対するシニカルな批評性云々で語られてきた束芋だが、その固定化した肩書きをもうそろそろ外してもよいのでは。展覧会の中間部には新聞小説『惡人』の挿絵がずらりと並んでおり、実に壮観。線の魅力こそ彼女の最大の魅力だと改めて実感した。また、『惡人』からインスパイアされた映像インスタレーション《油断髪》が放つ不穏な気にも圧倒された。
2010/07/09(金)(小吹隆文)
Trouble in Paradise 生存のエシックス
会期:2010/07/09~2010/08/22
京都国立近代美術館[京都府]
京都市立芸術大学の創立130周年記念事業に協賛して開催された企画展。アートと生命、医療、環境、宇宙などの諸学問が交流する12のプロジェクトを通して、脱領域的な表現(=未来の芸術?)の可能性を問うた。実際、展示物を見ると、光と音の変化が脳の血流に与え、その数値がフィードバックして光と音が変化していくシステムや、二重軸回転する巨大な円盤で身体の感覚を撹乱する装置、切り立った山脈のようなインスタレーション、JAXAとの協働で無重力空間における庭のあり方を探ったプロジェクトなど、およそ美術展らしくない造形物が並んでいる。同時に、多数の講演会、シンポジウム、ワークショップなどが組まれており、展示と同等の比重がかけられているのも本展の特徴である。こういう挑戦心に満ちた企画は、画廊ビジネスでは不可能だし、アートセンターの手にも余る。まさに美術館以外では行なえない先進的な挑戦として評価されるべきであろう。正直に言うと若干アカデミズム臭が気になったのだが、それは筆者の偏見かもしれない。
2010/07/08(木)(小吹隆文)
TKG Projects ♯2 伊藤彩
会期:2010/06/25~2010/07/10
TKG エディションズ京都[京都府]
サントリーミュージアム[天保山]で開催された「レゾナンス 共鳴」展にピックアップされ、一躍注目を浴びた伊藤彩。作品が持つ、どこか書き割り的なレイヤー状のパースペクティブに興味を持っていたのだが、会場に置かれた資料を見てその謎がやっと判明した。彼女はアトリエで、布地、マケット、ドローイングや写真を切り抜いた立て版古状の小オブジェなどを組み合わせて情景を作り、その情景を撮影した画像を元に作品を描いていたのだ。一見イマジネーションのみで描いたように見える作品が、実は綿密な計算に基づいて描かれていたことを知りビックリした。本展は“思春期男子の部屋”という設定で、絵画と立体によるインスタレーションが展開されていたが、空間の濃密さも「レゾナンス」展より向上しており、小規模ながら見応えのある個展となった。
画像:《妄想くん》2010年 59.4 x 84.3cm oil on canvas
2010/07/06(火)(小吹隆文)
中岡真珠美 展
会期:2010/07/05~2010/07/17
O ギャラリー eyes[大阪府]
中岡の作品は一見抽象画に見えるが、実はアトリエ周辺の風景などを組み合わせて再構成したものだ。ところが新作では作風が一転、採石場や道路沿いののり面など、モチーフがあからさまに登場していた。これにはアトリエの移転が大きな影響を与えている。今まで大阪の中心部に構えていたアトリエを、1年間限定で日本海沿いの田舎町に移したのだ。新アトリエでの制作はあと半年間続くので、彼女の作風が更なる進化を遂げる可能性もある。次の個展でどんな作品が見られるのか、今から楽しみだ。
2010/07/05(月)(小吹隆文)
ロトチェンコ+ステパーノワ─ロシア構成主義のまなざし
会期:2010/07/03~2010/08/29
滋賀県立近代美術館[滋賀県]
ロシア構成主義の巨匠ロトチェンコは知っていたが、彼の妻ステパーノワも優秀な作家だったとは、恥ずかしながら知らなかった。2人の代表作が見られた本展は、絵画、立体、舞台美術、書籍、ポスター、プロダクト、建築、写真など170点が並び、質・量ともに大いに充実。良い意味で予想を裏切ってくれた。作品はロシアのプーシキン美術館及び遺族の所蔵品で、前者もほとんどが遺族から寄贈されたものだ。前衛美術はソビエト時代に弾圧されたはずだが、遺族はどうやって作品を守ってきたのだろう。公にしなければ当局も黙認してくれたのか、それともレジスタンス的に密かに守り続けたのか。ロシアから来日した学芸員に質問したのだが、こちらの真意がうまく伝わらなかったのが残念だ。
2010/07/02(金)(小吹隆文)