artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

プレビュー:梅佳代 写真展 ウメップ

会期:2010/10/02~2010/10/15

HEP HALL[大阪府]

ギミックなしの天然パワーで見る人すべてを笑顔に変える梅佳代の写真。それは一見キワモノに見えて、実は「決定的瞬間」(by カルティエ=ブレッソン)の正しい後継者と言えよう。大阪では3年ぶりに開催される彼女の個展を前に余計な理屈は要らない。ストレートな写真をストレートに受け止めて、明日を生きるエネルギーを充填しよう。最新写真集『ウメップ』に掲載された作品に加え、2010年に撮影したスナップ約1,500点を時系列に展示。さらに大型プリント、等身大パネル、映像、ドローイングなど、約1,700点のてんこ盛りでお届けする。

2010/09/20(月)(小吹隆文)

六甲ミーツ・アート「芸術散歩2010」

会期:2010/09/18~2010/11/23

六甲ガーデンテラス、六甲山カンツリーハウス、六甲高山植物園、オルゴールミュージアム ホール・オブ・ホールズ六甲、自然体感展望台 六甲枝垂れ、六甲ケーブル(駅舎、車両内)、六甲山展覧台[兵庫県]

都会に隣接した豊かな自然環境であり、阪神間の在住者には身近なレジャースポットでもある六甲山。アートを触媒にしてその魅力を再確認してもらうと開催されたのが、この「六甲ミーツ・アート『芸術散歩2010』」だ。出品作家は国内外の41組。山頂の風を利用した藤江竜太郎のオブジェ群《Red or White》(公募部門で大賞を受賞)や、山頂から平野に向けて大声を叫んでもらうよう設置された西村正徳の《メガメガホン=オオゴエのフキダシ》など牧歌的なものから、植物園のガラス室をまるごと使用した太田三郎の《六甲山ハウス》、蓑虫そっくりのコスチュームに身を包んで木の枝に吊り下げられながらツイッターに書き込み続ける角野晃司の《蓑虫なう》など周辺の環境に溶け込んだ作品まで、実に多彩だった。しかし、それら作品を見ながらも一番記憶に残るのは、六甲山の自然や谷をわたる風、山上から見下ろす雄大な景観である。アートと自然が仲良く共存し、最終的に六甲山の魅力を再確認してもらうという主催者の意図は見事に果たされた。なお、山頂へは自動車でも行けるが、企画の趣旨を尊重して、電車、バス、ケーブルカーを乗り継いで出かけることをおすすめしたい。7つの会場のうち六甲ケーブル六甲山上駅以外は隣接しているが、山だけにアップダウンが思いのほか激しい。運動不足の身には少々応えるので、その点あらかじめご注意を。

2010/09/18(土)(小吹隆文)

吉田重信「心の虹」

会期:2010/09/13~2010/09/25

楓ギャラリー[大阪府]

普段はガラス張りの入口から展示の様子が見える楓ギャラリーだが、本展ではガラスを真っ赤に塗り潰しており中が見えない。展示室に入ると室内は真っ暗。照明は入口から一番遠い角に灯る赤いランプだけだ。しばらく経つと目が慣れてきた。床には子ども用の靴が無数に並んでいて、どれも赤い光の方を向いている。その情景はさまざまな解釈が可能だ。例えば、火の前で暖を取る人々、礼拝、弔いの儀式、小さな希望にすがる群衆……。また、時期が時期だけに9.11のことを連想したし、昨今頻発する幼児虐待事件も思い出した。多義的な解釈を受け入れる懐の広さが本作の魅力だ。靴を集める際に地域との連携も図りやすい作品なので、プロジェクトとして各地で開催されれば良い思う。

2010/09/13(月)(小吹隆文)

藤本英明 展

会期:2010/08/28~2010/09/10

ギャラリーヤマキファインアート[兵庫県]

兵庫県出身で、現在は沖縄を拠点に活動している藤本英明の関西初個展。その作品は、パネルにアクリル絵具を何層も塗り重ね、表面をサンドペーパーで削り出してイメージを浮かび上がらせるというもの。通常のペインティングでは得られない独特の質感があり、古い写真を見た時のような人の記憶をくすぐるニュアンスがある。特に逆光の情景は画面に光が満ち溢れており、非常に美しかった。

2010/09/09(木)(小吹隆文)

滝本ユサ─2010─Pastart展

会期:2010/09/07~2010/09/12

ギャラリー北野坂[兵庫県]

薄い色調の線を並べ帯状にして、それらを複数重ね合わせて幾何学的な形態をつくり出した版画作品。本人は細い線をパスタに見立てており、それゆえ「pastart」という造語を展覧会タイトルに掲げている。線には若干の歪みがあり、並べ方も時折ズレをつくってアクセントをつけている。まるで音符が整然と並んだ楽譜を見ているようだ。作品から漂うクールなリズム感が心地よい。

2010/09/09(木)(小吹隆文)