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小吹隆文のレビュー/プレビュー

松谷武判の流れ MATSUTANI CURRENTS

会期:2015/10/10~2015/12/06

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

日本画家として美術家のキャリアを始め、その後関西の前衛美術グループ・具体美術協会に参加、1966年に渡仏し、以後パリと兵庫・西宮を拠点に活動を続けてきた松谷武判。彼の仕事を概観する個展が、地元・西宮で開催されている。展覧会は新作と旧作がほぼ半々で構成されており、旧作ではボンドによる膨らみや円環と鮮やかな彩色が特徴の1960年代~70年代の作品や、若き日本画家時代の作品を見ることができる。また、鉛筆の線で画面を塗り潰した作品は、1980年代の作品から新作までが並び、その一貫性と多様性を浮き彫りにした。松谷の個展は2002年にも同館で開かれているが、そのときは新作・近作展だった。10数年を経て、同じ場所で回顧展が行なわれたことを感慨深く思う。西宮市がある阪神地域には他にも注目すべき美術家がいるので、近隣の芦屋市、伊丹市の美術館も含めて、地元作家を取り上げる機会を増やしてほしい。

2015/10/09(金)(小吹隆文)

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琳派イメージ展

会期:2015/10/09~2015/11/23

京都国立近代美術館[京都府]

今年の京都は琳派400年を記念した企画が目白押しだが、本展もそのひとつ。琳派の影響が色濃い近現代の絵画、工芸、版画、ファッション、グラフィックなど80件を紹介している。出展作家は、加山又造、田中一光、神坂雪佳、十五代樂吉左衞門、冨田渓仙、上村淳之、池田満寿夫、福田平八郎など。展覧会末尾にはマティスの作品もあったが、これはいかなる解釈だろうか。マティスは極端にしても、「この人が琳派?」と首をかしげる作品がいくつかあり、我田引水の感を抱いた次第。その一方、「自分はどれほど琳派を知っているのか」と自省することもしばしば。私淑で受け継がれてきた琳派は、そもそも曖昧な部分を持っている。しかし、それを言い訳にするのは良くないだろう。筆者にとって本展の意義は、我が身を振り返る機会を得たことだ。

2015/10/08(木)(小吹隆文)

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星野暁展「土と手の間から」/星野暁展「BLACK HORSE IN THE DARK──始原の知覚」

会期:2015/09/25~2015/10/31

艸居/アートコートギャラリー[京都府/大阪府]

陶土を指や掌で押すプリミティブな行為が集積した形状と、黒陶による漆黒の色合いを特徴とする陶オブジェで知られる星野暁。彼の国内では久々の個展が京都と大阪で開催された。順序が逆になるが、後発の大阪展では上記手法の新作群を出展。なかでも、気象図の台風を思わせる3つの渦巻きを壁面に配し、それぞれの手前に塔柱を配した《走泥──水と土の記憶》は、天地約5.4m×左右約17.6m(2辺合計)の大作ということもあり、強烈な存在感を放っていた。一方、先発の京都展では、釉薬を用いた作品が目を引いた。それらは形状こそ従来と同様だが、オブジェの頂上部から掛けられた白い釉薬が下部まで流れ落ち、窪みに溜まっている。一般的な陶芸の対極を行く作風で知られる星野だが、本作は陶芸への接近が感じられる。今後の展開が気になるところだ。

各会期:
「土と手の間から」艸居[京都府]2015/09/25~2015/10/11
「BLACK HORSE IN THE DARK──始原の知覚」アートコートギャラリー[大阪府]2015/10/06~2015/10/31

2015/10/03(土)/2015/10/06(火)(小吹隆文)

花岡伸宏「Statue of clothes」

会期:2015/09/26~2015/10/18

MORI YU GALLERY[京都府]

断片化されたモチーフや異なる素材をコラージュした彫刻作品を制作する花岡伸宏。本展でも、具象的な木彫の一部、布地、板、角材などを組み合わせた作品を発表している。それらは、生理的な反応を誘発する不条理な造形物であり、美術史を参照したクリティカルな表現であり、複数の異なるジャンル(彫刻、絵画、染織など)を融合する独自の試みであるが、その一方で、もっともらしい批評を軽やかにかわすナンセンスな遊戯に見えなくもない。こうした両義性こそ、花岡作品の魅力のコアであろう。ただし、最近の彼の作品は馬鹿馬鹿しさが少し後退して、スタイリッシュな方向に振っている印象がある。初期作品でご飯を用いたときのように、こちらを唖然とさせてほしいのだが、それは浅薄なスペクタクル願望なのだろうか。

2015/10/03(土)(小吹隆文)

熊田悠夢「木彫展──モーメントの稜線」

会期:2015/09/29~2015/10/04

同時代ギャラリー[京都府]

丘陵地帯のなだらかな稜線を思わせる板状の木彫と、同様の形状を天部に配した収納具、お盆、レリーフ、観客が操作するからくり仕掛けのような作品などを出展。それらには部分的に漆が用いられている。作品に接近し、稜線部分に目線を合わせると、それこそ自分が丘陵地帯を歩いているような気分に。爽快な風が駆け抜け、青空を雲が流れていく場面が脳裏をよぎる。この伸びやかで気持ちのいい作品をつくる熊田は、京都市立芸術大学大学院で漆工芸(木工)を専攻する新進作家だ。変に屈折していないのが彼女の良いところ。このまま真っすぐ成長して、独自の世界を花開かせてほしい。

2015/10/03(土)(小吹隆文)