artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
中村協子展「孤独なフェティッシュ(Dear Henry)」
会期:2015/11/24~2015/11/29
アートスペース虹[京都府]
自分のアンテナに引っかかった対象物を事細かに観察し、ドローイングや絵画(文章や記号を含む)に仕立て上げる中村協子。彼女の作品の特徴は、独特の着眼点を持つこと、不器用さを残した線を引くこと、大量の作品を制作することだ。本人はいつも冷静で落ち着いたパーソナリティ─の持ち主だが、作品はとてもエキセントリックで、そのギャップが際立つ。2010年以来の個展となる今回は、絵ではなく約80点のドール服を出品。それらはいずれも、アウトサイダー・アートの著名作家ヘンリー・ダーガーの作品に登場する少女たちの服装を再現したものだ。ダーガーは孤独な人生を過ごし、亡くなる直前まで誰にも知られず長大な物語と挿絵を作り続けた。中村はドール服を作ることで、ダーガーの孤独に寄り添おうとしたようだ。また本作のテーマには、制作中のアーティストが抱える孤独、幼子を持つ母(中村もその一人)が感じる孤独も含まれているように思う。一見可愛らしいドール服の裏には、孤独を巡る考察が幾重にも張り巡らされているのだ。
2015/11/24(火)(小吹隆文)
第5回 陶画塾展/陶画塾展─うつわ─
会期:2015/11/24~2015/11/29
ギャラリーマロニエ/ギャラリーにしかわ 地域:京都府[京都府]
四君子、山水、花鳥、小紋など、やきものの絵付けを勉強するために若手陶芸家が集った陶画塾。メンバーは京都市立芸術大学と京都精華大学の卒業生が中心で、講師は両校に縁のある佐藤敏が務めている。ギャラリーでの展覧会は今回で5度目だが、18作家の作品が展示室の壁面を埋め尽くす様は壮観そのもの。特定の画題を描いていても各人の個性が滲み出るので、絵画展として十分成立している。しかも今回は塾生たちが実際に絵付けした陶磁器の展覧会も同時開催された。年々レベルアップしていく陶画塾に、今後も目が離せない。
2015/11/24(火)(小吹隆文)
今村源+東影智裕 共生 / 寄生─Forest
会期:2015/11/07~2015/12/05
ギャラリーノマル[大阪府]
菌類をモチーフとした立体作品で知られる今村源と、動物の頭部を細密な毛並みととともに表現する東影智裕が、「共生 / 寄生」をテーマにコラボレーション展を開催。京都市立芸術大学美術学部教授の加須屋明子がキュレーションを担当した。展示は、鉄パイプが林立する足場の上に巨大な鹿の頭部を配した2人の共作を室内中央に配し、周囲をそれぞれの作品が取り巻くように構成。別室では版画作品も見られた。彼らがモチーフとする菌類と毛並みは、「世界をわけ隔てる曖昧な境界」に存在する。それは異界への出入口であり、無数の主が複雑な関係を結びながら共存共栄するために必須の仕組みと言える。会期中にパリで同時多発事件があり(11/13)、人間社会に共生の精神が失われつつあることが露わになった。偶然とはいえ、そうしたタイミングで本展が行なわれたのは非常に示唆的である。
2015/11/14(土)(小吹隆文)
高木智子・山下拓也展「他人のセンス」
会期:2015/11/13~2015/12/19
アートコートギャラリー[大阪府]
画家の高木智子と、立体、インスタレーション、写真などを制作する山下拓也。ジャンルも作風も異なる2人に共通するのは、他人の感性や視点を取り込んで表現を展開させることだ。今回高木が発表した《ベップ》シリーズ20点(エスキース2点を含む)は、大分県別府市で制作した一連の作品で、町中で出合ったショーケースに並ぶ誰かの収集物と飾り付けを、あざやかな色彩がせめぎあう彼女特有の描法で表現している。一方山下は、ネットオークションで入手したキャラクター人形を背面から撮影した《ばいばいの写真》6点と、発泡スチロール製の立体と映像を組み合わせた作品2点を出品した。両者の作品は、「他人」の介在がオリジナリティを生み出すのが特徴で、その結果社会の思いがけぬ一断面を浮き彫りにしている点も興味深い。気鋭の若手による充実した2人展であった。
2015/11/14(土)(小吹隆文)
[世界を変えた書物] 展 大阪展
会期:2015/11/06~2015/11/23
グランフロント大阪北館 ナレッジキャピタル イベントラボ[大阪府]
金沢工業大学が所蔵する理数工学系の歴史的名著の初版本や、科学者の論文、書簡など130点以上を紹介。会場構成は、アンティークな図書館を模した導入部「知の壁」、中心部に目次のオブジェを据え、そこから枝のように展示が広がるメイン展示の「知の森」、エンディングのインスタレーション「知の変容」並びに映像ブースであった。筆者は理系が苦手なので書物の内容は理解できないが、会場に満ちている「知の殿堂」的雰囲気や、人類が脈々と受け継ぎ発展させてきた知の歴史には大いに魅了された。また、書籍自体もオブジェとして美しかった。同コレクションは、今後一大学の枠を超えて国家的な財産になるだろう。散逸や海外流出が起こらないことを切に願う。また、今後も学外で展示する機会を設けてもらえればありがたい。
2015/11/05(木)(小吹隆文)