artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours

会期:2015/07/25~2015/09/23

国立国際美術館[大阪府]

日本では11年ぶりの大規模個展、会場は大阪オンリー、そして展示プランも作家自身がデザインするとあって、開催前から大きな話題となっていた本展。筆者は約1年前に同じ会場で行なわれたアンドレアス・グルスキーの個展と対比しながら鑑賞したが、グルスキーが強固・厳格・冷徹であるのに対して、ティルマンスはその逆であるような印象を受けた。もちろんティルマンスも妥協のない制作を行なう作家に違いない。しかし、どれだけ厳格なプランに基づいた作品であっても、繊細で柔軟でしなやかで、目前に現われた事象を一人称で受け止めるような作家性が感じられたのである。これは筆者の偏見かもしれないが、ドイツの写真といえば、ザンダーにせよ、ベッヒャー派にせよ、緻密なコンセプトに基づく厳格な作風が持ち味である。そうした土壌からティルマンスのような表現が生まれたことに興味をそそられる。

2015/07/24(金)(小吹隆文)

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他人の時間 TIME OF OTHERS

会期:2015/07/25~2015/09/23

国立国際美術館[大阪府]

日本、シンガポール、オーストラリアの美術館等が共同企画した国際企画展。アジア・オセアニア地域のアーティストを知る機会はまだまだ少なく、20作家の仕事を見られたこと自体に意義を感じた。今後関西でも同様の機会が増えることを期待している。作品は多様だったが、それぞれの国の歴史や社会問題に触れた作品が多い。現代アートと社会の影響関係でいえば、アジア・オセアニア地域のほうが日本よりも密接なのかもしれない。個人的に特に印象深かったのは、キリ・ダレナ、ホー・ツーニェン、サレ・フセイン、アン・ミー・レー。なかでも、実在したスパイの数奇な運命を描いたホー・ツーニェンの映像作品《名のない人》には大いに引き込まれた。

2015/07/24(金)(小吹隆文)

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三田村陽「hiroshima element」

会期:2015/07/21~2015/08/08

The Third Gallery[大阪府]

関西在住で、広島とは縁もゆかりもない三田村陽。彼は約10年間にわたり月に一度広島を訪れて、スナップ写真を撮影し続けた。その作品をまとめた写真集『hiroshima element』の発行を記念して開催されたのが本展だ。広島は原爆と共に語られることが多いが、三田村は既成概念を避け、あえて白紙の状態から広島と向き合った。もちろん原爆にまつわる情景を撮った作品もあるが、あくまでも一モチーフに過ぎない。だとすれば、「なぜ広島なのか」との問いが脳裏をよぎるが、三田村は「むしろ自分もそれを知りたいのです」と言わんばかりに「わからなさ」を隠そうとしないのだ。むしろ戸惑いや問いかけの連続こそが彼の作品の本質であり、被写体と真摯に向き合う姿勢の積み重ねこそが作品の魅力なのだろう。「なぜ広島なのか」と思った人は、その問いかけこそ自分が既成概念にとらわれている証だと気付かされるに違いない。

2015/07/21(火)(小吹隆文)

プレビュー:ミロコマチコ「たいようでみんなまっか」

会期:2015/08/13~2015/08/18

京阪百貨店守口店7階京阪ギャラリー[大阪府]

2012年に「第18回日本絵本大賞」を受賞、2014年には「第45回講談社出版文化賞絵本賞」と「第63回小学館児童出版文化賞」を受賞するなど、いまもっとも注目されている若手絵本作家、ミロコマチコ。彼女が、百貨店では初となる大規模個展を開催する。ミロコの故郷である大阪府枚方市は京阪電車沿線の郊外都市であり、同じ沿線の守口市にある京阪百貨店での個展開催は、本人にとっても特別な感慨があるだろう。展覧会は「太陽」をテーマにした新作約40点に過去の大作を加えて構成。初日午後1時から行なわれるライブペインティングをはじめ、ワークショップ、ゲーム企画、サイン会と関連イベントも充実している。

2015/07/20(月)(小吹隆文)

プレビュー:横尾忠則「続・Y字路」

会期:2015/08/08~2015/11/23

横尾忠則現代美術館[兵庫県]

2000年以降の横忠則の絵画作品を代表する「Y字路」。それは、彼が故郷・西脇を訪れた際に撮影した1枚の写真から始まった。写真には懐かしい風景が写っているはずなのに、郷愁から切り離された見知らぬ夜の風景にしか見えず、この経験を元に一切の私的要素を排した新たな絵画制作が始まったのだ。本展では横尾が2006年以降に制作した「Y字路」作品を中心に展覧。温泉地を巡ってゆかりのモチーフを詰め込んだ「温泉」シリーズ、全国各地の美術館での公開制作、闇夜のY字路を描いた実験的作品「黒いY字路」、Y字路をオーロラが包み込んでいく情景を描いた「オーロラ」という4系統を軸に展開される。近年の横尾の軌跡が窺える興味深い企画だ。

2015/07/20(月)(小吹隆文)