artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
没後20年 泉茂の版画紀行
会期:2015/07/07~2015/08/16
BBプラザ美術館[兵庫県]
1951年に瑛九らとともに前衛芸術団体「デモクラート美術家協会」を結成するなど、戦後関西現代美術界の中心的存在として活躍した泉茂。本展では、彼の業績を1950~90年代までの作品約80点で回顧した。筆者は彼の晩年にあたる1990年代に大阪・番画廊での個展で何度か作品を拝見し、1996年に伊丹市立美術館で行なわれた個展にも出かけている。本展はそれ以来の機会だが、泉の画業を概観でき、とても有意義な機会であったと思う。特に1960年代(パリ時代)から80年代の作品は、シャープな造形美と豊かな感性が絶妙に混じり合い、今見ても十分新鮮である。泉は1970年に大阪芸術大学の教授に就任し、以後多くの後進を育て影響を与えた。本展を見てその理由がわかるような気がした。
2015/08/07(金)(小吹隆文)
横尾忠則 続・Y字路
会期:2015/08/08~2015/11/23
2000年以降の横尾作品を代表するモチーフである「Y字路」。それらのうち、2006年以降の作品を中心に約70点を展示している。出展作品の中心を成すのは、「温泉」、「公開制作/PCPPP」、「黒いY字路」、「オーロラ」と題したシリーズだが、筆者が特に注目したのは「黒いY字路」である。本作は、いったん克明に描いた絵を黒く塗りつぶしているのが大きな特徴。展示室(照明を極端に絞っている)に入った瞬間はそれこそ真っ黒で、何を描いているのかほとんど判別できない。しかし、5分ほど経つと目が慣れてきて、突如イメージが浮かび上がるのだ。見えるものをあえて見えなくした時、人はそれでも何かを見つけようとする。そしてイメージが現われた瞬間、現われた図像に驚くと同時に、「見る」ことに対する再考を迫られるのである。この感覚はメディア経由では絶対味わえない。会場に出かけて直に体験することをおすすめしたい。
2015/08/07(金)(小吹隆文)
Art Court Frontier 2015 #13
会期:2015/08/01~2015/09/12
アートコートギャラリー[大阪府]
美術界の第一線で活躍中のキュレーター、アーティスト、ジャーナリスト、批評家などから出展作家1名を推薦してもらう形式で、2003年から始まった同展。今までは10数組のアーティストが参加していたが、今年から作家数を約半数に絞り、1組当たりの空間を増やしてよりダイナミックな展示を目指すことになった。今年の出展作家とその推薦者は、contact Gonzo(安部美香子:朝日新聞記者)、谷口嘉(以倉新:静岡市美術館学芸課長)、東畠孝子(豊永政史:デザイナー)、堀川すなお(吉岡恵美子:インディペンデント・キュレーター)の4組。いずれも質の高い展示を行なったが、肉弾戦のようなむき出しのパワーを放ったcontact Gonzoが一歩抜きん出ていたように思う。東畠孝子と堀川すなおは、作品と展示室の天井高がややミスマッチだった印象。その点、谷口嘉は渡り廊下を選んで正解だった。
2015/08/01(土)(小吹隆文)
田中愛子 PAINTING Solo Exhibition
会期:2015/07/25~2015/08/21
THE TERMINAL KYOTO[京都府]
花や植物をモチーフにした半抽象画を制作する田中愛子。彼女のテーマは「絵画のここちよさ」を表現すること。モチーフは線と色彩に純化され、重なり合い響き合うことで不規則な揺らぎを放ち、「絵画のここちよさ」へと繋がっていく。田中は昨年に美大の大学院を修了したばかりの若手で、個展も3度しか経験していないが、今回大きなチャレンジを行なった。京都の繁華街・四条烏丸に程近い昭和7年築の京町家で大規模な個展を行なったのだ。作品数は絵画とドローイング合わせて18点。うち1点は約2メートル×約4メートルの大作で、他にも長辺2メートル超が1点、同1メートル超が2点あり、広大な屋敷の土間、床の間、板間に飾られていた。重厚な京町家に負けない作品を揃えてきたのは敢闘賞もので、今後の彼女の活躍が大いに期待される。
2015/07/28(火)(小吹隆文)
堂島リバービエンナーレ2015 Take Me To The River
会期:2015/07/25~2015/08/30
堂島リバーフォーラム[大阪府]
大阪市の堂島リバーフォーラムで隔年開催される同展。4度目となる今回は、英国からトム・トレバーをアーティスティック・ディレクターに招き、15組のアーティストの展示を行なった。展覧会タイトルの「テイク・ミー・トゥー・ザ・リバー」は、会場が堂島川に面していること、鴨長明が『方丈記』で記した「行く川のながれは絶えずして~」、ギリシャの哲学者ヘラクレイトスの「万物流転」などにちなんでいるが、特に重要なのは、スペイン出身の社会学者マニュエル・カステルが著書『ネットワーク社会の出現』で指摘した「流れの空間性」である。この説によると、グローバル化した社会では従来の地縁的なセルフ(自我)が衰退し、流動的なネットワークに依拠したセルフが現われるとのこと。池田亮司の巨大な映像・音響作品や、自らの家を金融商品化するフェルメール&エイルマンスなどは、まさに「ネットワークに依拠したセルフ」を具現化したかのようだった。一方、関西を拠点に活動するアーティスト集団プレイや、下道基行、島袋道浩の作品は「旅」がキーワードになっており、牧歌的な詩情が強く感じられる。このようにいくつもの「ザ・リバー」を提示した本展だが、読解力を要求する作品が多いので、現代美術ビギナーにはややハードルが高かったかもしれない。しかしこの機会にそうした作品に好感を持つ人が少しでも増えてくれればと思う。また本展では、過去3回と比べて建物のバックヤードを大胆に活用していた。普段は入れないエリアを探検する感覚が味わえたのも楽しかった。
2015/07/24(金)(小吹隆文)