artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

松井沙都子「ブランクの住空間」展

会期:2015/09/18~2015/10/04

Gallery PARC[京都府]

ギャラリーの展示室には、天板にカーペットとフローリング風のクッションフロアを貼り付けたテーブルに、1面ないしは2面の壁を取り付けた立体《ホームインテリア》が2点。他には写真作品と、壁材と木材と照明器具から成る壁掛け式の立体作品が出展されていた。展示の中心となる《ホームインテリア》は、規格化された現代日本の生活空間をシンボライズしたものだ。筆者自身、公団住宅(5階建ての団地)で人生の半分近くを過ごしてきたので、この作品が持つリアリティを心底から実感できる。快適だが薄っぺらい住環境、ルーツを喪失した根無し草、といったところか。しかし、そんな場所でも長く住むと愛着が湧くのが人間だ。本作を見て、図らずも自分の人生をプレイバックした。見た目は華奢で仮設的な作品だが、その背後にあるものは意外と重い。

2015/09/22(火)(小吹隆文)

プレビュー:奈良・町家の芸術祭 はならぁと2015

会期:2015/10/10~2015/11/03

《はならぁと ぷらす》五條新町、生駒宝山寺参道 《はならぁと こあ》宇陀松山、八木札の辻、今井町[奈良県]

古都・奈良の古い町家が残る地区を舞台に、毎年秋に行われているアートイベント。前回からアートディレクターに就任した山中俊広は、展示をキュレーターによる企画展を主体とする《こあ》と、一般参加作家の作品展《ぷらす》の2系統に分離するなど、数々の変更を実施した。2年目の今年は、その真価が問われる重要な回となる。また今年は、《こあ》のキュレーターを、美術、音楽、演劇、デザインという異なる4ジャンルの専門家に任せており、例年以上に多彩な展開が期待される。《こあ》の3エリアを結ぶシャトルバスを毎日2往復運行し、交通の便が悪い地域へのサービスを拡充するのも嬉しいところだ。出展作家数は、先にスタートする《ぷらす》が、生駒宝山寺参道エリア13組+五條新町エリア6組、後発の《こあ》が、宇陀松山エリア22組(キュレーター2名)+八木札ノ辻エリア23組(キュレーター1名)+今井町エリア20組(キュレーター1名)である。

各会期:
《はならぁと ぷらす》2015/10/10~2015/10/18
《はならぁと こあ》2015/10/24~2015/11/03

2015/09/20(日)(小吹隆文)

プレビュー:鉄道芸術祭 vol.5 ホンマタカシプロデュース もうひとつの電車~alternative train~

会期:2015/10/24~2015/12/26

アートエリアB1[大阪府]

京阪電車「なにわ橋駅」構内という独特のロケーションを生かし、鉄道と芸術をテーマにした「鉄道芸術祭」を毎年開催しているアートエリアB1。今年は写真家のホンマタカシをプロデューサーに迎え、駅、ホーム、車両などの鉄道環境や、京阪電車沿線を独自の視点でリサーチした作品展示を行う。出品作家はホンマの他、黒田益朗(グラフィックデザイナー)、小山友也(アーティスト)、NAZE(アーティスト)、PUGMENT(ファッションブランド)、蓮沼執太(音楽家)、マティアス・ヴェルムカ&ミーシャ・ラインカウフ(アーティスト)の計7組。ホンマは6月から断続的に大阪に滞在し、京阪沿線でカメラオブスキュラの手法で作品を制作、それらのうち光善寺駅のカメラオブスキュラを限定公開する他、小津安二郎へのオマージュ、リュミエール兄弟の作品上映などを行う。他のゲストアーティストたちは、写真、模型、映像、ドローイング、音響作品を出品する予定だ。

2015/09/20(日)(小吹隆文)

ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム展

会期:2015/09/19~2015/11/23

兵庫県立美術館 ギャラリー棟3F[兵庫県]

近年、日本の美術館では、マンガやアニメをテーマにした企画展が増えている。その理由は、日本の文化シーンにおいて、マンガ、アニメの存在が無視し難いほど巨大になったことが挙げられる。また、これまで美術館に来なかった客層を取り込む、美術館の動員実績を上積みするためにマンガ、アニメを利用するなどの思惑もあるだろう。その理由がいずれにせよ、これまでのマンガ、アニメ展は人気作家・作品の個展がほとんどだった。その点で本展は、1989年(手塚治虫の没年)以降の日本のマンガ、アニメ、ゲーム史を概観している点で画期的だ。展示構成はマンガが少なめで、アニメとゲームに多くを割いていた。特にゲームにここまで注力した企画は極めてレアで、それだけでも開催の価値が感じられる。この神戸展は先に行われた東京展よりも会場が狭かったため、縮小版になってしまったのが残念だ。それでも本展が関西で行われた事実は、今後重要な意味を持つだろう。

2015/09/18(金)(小吹隆文)

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パラレルワールド または私は如何にして世界を愛するようになったか

会期:2015/09/09~2015/10/18

京都芸術センター[京都府]

ベテランと若手が出会い、互いに触発し合うことをテーマとする展覧会。今回はフランス出身のピエール=ジャン・ジルーと、アメリカ出身のカンガワ ユウジンが、対照的な映像作品を見せてくれた。ジルーの作品は、1959年に黒川紀章らが提唱したメタボリズムの建築を、現代の東京に挿入したもの。実写とCGを組み合わせた精密な映像は、不思議なリアリズムと祝祭感をもって見る者に迫る。一方カンガワは東北の山岳信仰を取材し、冬の雪山や森、植物、滝などと、天体の運行を捉えた映像を表裏2面のスクリーンで同時に上映。水墨画を思わせる渋いモノクロ映像で、一種形而上とも言える世界を出現させた。ともに日本で取材をしながら、まったく逆方向とも言える対照的な世界観を見られるのが本展の面白さである。

2015/09/15(火)(小吹隆文)

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