artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
井川健個展
会期:2015/09/05~2015/09/13
祇をん小西[京都府]
流麗な曲線美を特徴とする井川健の漆オブジェ。しかし新作は、クワガタムシを思わせる一対の角のような形状や、老木の樹皮のような複雑な凹凸を持つフォルムへと変化していた。実はこれらの素材はヤシの葉。井川が現在住んでいる佐賀には街路樹としてヤシが植えられており、風の強い日の後にはヤシの樹皮が道路に落ちているのだという。本作は、形状の面白さはもちろん、複雑な形状での漆の仕上げなど、技術的な見所も多い。井川が京都から佐賀に移って約7年、地元の素材を駆使することにより、彼は新たな段階に入った。
2015/09/12(土)(小吹隆文)
六甲ミーツ・アート 芸術散歩2015
会期:2015/09/12~2015/11/23
六甲山上のさまざまな施設を舞台に現代アート作品の展示を行い、アートと六甲山の魅力を同時に満喫できるイベント。6回目を迎える今年は約30組のアーティストが出品し、会期中にはパフォーマンスやワークショップなど多彩な催しも行われている。筆者が毎年楽しみにしているのは、六甲高山植物園から六甲オルゴールミュージアムに至るルート。ここでは、貝殻のような陶の小ピースを森の中に散りばめた月原麻友美の《海、山へ行く》と、旧六甲山ホテルの電気スタンドを組み合わせて光と音がコール&レスポンスする久門剛史の《Fuzz》がお気に入りだった。また、六甲有馬ロープウェーで大規模なインスタレーションを行っている林和音の《あみつなぎ六甲》と、六甲ガーデンテラスで光とオルゴールを駆使した作品を夜間に展示している高橋匡太の《star wheel simfonia》もおすすめしたい。そして、今年にはじめて会場となった旧六甲オリエンタルホテル・風の教会では八木良太が音の作品《Echo of Wind》を出品しており、安藤忠雄建築との充実したコラボレーションが体験できる。作品、展示、環境、ホスピタリティが高いレベルで安定しているのが「六甲ミーツ・アート」の良い所。関西を代表するアートイベントとして、胸を張っておすすめできる。
2015/09/11(金)(小吹隆文)
海峡を渡る布 初公開 山本發次郎染織コレクション ふたつのキセキ
会期:2015/09/09~2015/10/18
大阪歴史博物館[大阪府]
大正から昭和戦前にかけて大阪で活躍した実業家・山本發次郎(1887~1951)。彼は美術品コレクターとしても知られており、佐伯祐三や墨蹟のコレクションは有名だ。しかし、染織品のコレクションは知る人ぞ知るものであり、それらが脚光を浴びたという点で本展は意義深い。展示物はインド・東南アジアの染織品約100点+資料。19世紀の品が中心だが、17~18世紀の品も含まれており、なかには世界に2例しか現存しない超レア物もあった。それらの多くは布地のまま展示されているが、一部は上衣という衣装に仕立てられている。緯絣、紋織、バティック、更紗、印金などの技法が駆使された布地は美しく、エキゾチックな染織デザインの魅力をたっぷりと堪能できた。布地は傷みやすく保存が難しい。長年にわたり保存・修復作業を行ってきた所蔵元(大阪新美術館建設準備室)の労をねぎらいたい。
2015/09/08(火)(小吹隆文)
後藤靖香「かくかくしかじか」
会期:2015/09/04~2015/10/03
TEZUKAYAMA GALLERY[大阪府]
1982年生まれながら、戦争体験をテーマにした絵画を制作する後藤靖香。そのベースには、幼少期より祖父や大叔父から戦争体験を聞き、過酷な時代を生き抜いてきた人々の強さに惹かれた経験がある。作品はしばしば壁面を覆うほどの超大作となり、ダイナミックな線描も相まって圧倒的な存在感を放っている。本展では、戦争画家として従軍した藤田嗣治、松本竣介、小磯良平ら8名の画家をテーマにした作品を発表。プロローグ的なニュアンスが感じられ、今後このテーマがどこまで発展するかを期待させる内容であった。戦争を知らない世代が戦争を描く時、そこには必然的にリスクが発生する。後藤はそのリスクをどこまで跳ね返し続けることができるのだろうか。いや、そんなことを考える当方こそ、既成概念にとらわれているのかもしれない。
2015/09/04(金)(小吹隆文)
池本喜巳 写真展─幻影床屋考─
会期:2015/08/20~2015/09/20
Bloom Gallery[大阪府]
鳥取市を拠点に活動し、山陰の消えゆく風景や人物を写真に収めてきた池本喜巳。彼は1983年より個人商店をテーマにしたシリーズ「近世店屋考」を制作しており、本展の作品はそれらのうち床屋をまとめたものである。驚くべきは各店の個性的なたたずまいだ。ある店は、外観は古民家で、内部に土間を改装した店舗があり、順番を待つ客は畳の間で火鉢に当たりながら談笑している。またある店は、アンティーク家具のような立派な椅子を使い続けており、別の店では極度のタコ足配線がクモの巣のように垂れさがっている。筆者は幼少時に関西のそこそこ田舎で育ったが、それでもこんな床屋は見たことがなかった。特に古民家系の店舗は興味深く、文化人類学的にも貴重な資料ではなかろうか。撮影時から30年前後が経つ今、こられの床屋のうちどれだけが現存しているのだろう。
2015/08/27(木)(小吹隆文)