artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

六甲山国際写真祭2015

会期:2015/08/21~2015/08/30

六甲山カンツリーハウス ROSE WALK、TENRAN CAFE、デザイン・クリエイティブセンター神戸 KIITO、Gallery TANTO TEMPO、GALLERY 4、KOBE 819 GALLERY[兵庫県]

2013年に第1回が行われた「六甲山国際写真祭」。その特徴は、海外から招いた著名なレビュワーたちによる公開ポートフォリオレビューやワークショップを重視していることであり、プロ志向の若手写真家たちに国内では得難い機会を提供している。しかし、内容が高度であることと、会場が六甲山上ということもあり、一般的な認知度は低いのが実情だ。今年は展示部門が強化され、神戸市中心部のギャラリーなど4会場でも写真展が行われた。特にデザイン・クリエイティブセンター神戸 KIITOでの展示は、林典子の「キルギスの誘拐結婚」など注目作が多く、イベントの存在を広く知らしめる効果があった。問題は同祭が今後どのような方向性を取るかである。ターゲットを絞って高度なイベントを目指すか、それとも多くの一般市民が訪れる間口の広いイベントを目指すか。筆者は前者を支持する。後者は他の地域でも代替可能であり、特に首都東京には敵わない。公開ポートフォリオレビューという強力なコンテンツを持つ「六甲山国際写真祭」は、純化路線を推し進めることでステイタスを確立すべきではなかろうか。なお、今回筆者が取材をしたのは写真展のみである。

2015/08/23(日)(小吹隆文)

20世紀琳派 田中一光

会期:2015/08/18~2015/10/29

京都dddギャラリー[京都府]

今年6月から7月にかけて奈良県立美術館で大規模な「田中一光展」が行われた。その直後に京都で別企画の「田中一光展」。京都が琳派400年で沸いているのは知っているが、なぜこの時期に? というのが事前の正直な気持ちだった。いざ本展を見てみると、田中が琳派から受けた影響を、主題、技法、色、形などの要素から明らかにしており、約120点という規模も手伝って見応えのある内容に仕上がっていた。また、「琳派とデザイン」「永遠の琳派」など田中自身が琳派について語っている文面の一部がパネル展示されており、彼にとって琳派がいかなる存在なのかが明瞭に伝わった。奈良の回顧展に対し、京都はテーマ性の強い企画展。短期間に異なる観点から巨匠の世界を概観できたのは、贅沢な体験だった。

2015/08/21(金)(小吹隆文)

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プレビュー:WAKAYAMA SALONE 2015

会期:2015/09/13~2015/10/12

和歌山市、海南町、高野口町、高野山の15会場ほか[和歌山県]

現代アートの動きが乏しかった和歌山で、「アート」と「旅」をキーワードにした地域アートイベントが初開催。和歌浦、加太、和歌山城、高野山といった観光名所を含む会場を巡りながら、アート、クラフト、デザイン、プロダクト、建築、インスタレーションなどの展示を楽しむことができる。また、クラフトビールフェア、ナイトマーケット、音楽ライブイベント、映画上映会など、夜間にも関連イベントが行なわれるとのこと。出品作家は、金氏徹平、西光佑輔、contact Gonzo、伊藤彩、河合晋平、永沼理善、エリカ・ワード、リッカルド・ピノバーノ、和歌山建築チームなど、国内外の30組以上を予定。

2015/08/20(木)(小吹隆文)

プレビュー:六甲ミーツ・アート 芸術散歩2015

会期:2015/09/12~2015/11/23

六甲山カンツリーハウス、自然体感展望台 六甲枝垂れ、六甲ガーデンテラス、六甲有馬ロープウェー、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、六甲ケーブル、天覧台、グランドホテル六甲スカイヴィラ、旧六甲オリエンタルホテル 風の教会、プラス会場[TENRAN CAFE][兵庫県]

神戸・六甲山の自然とアートの魅力を散歩感覚で味わえると好評のイベント。6回目となる今回も、六甲山上のさまざまな施設を舞台に、作品展示やイベントが開催される。今回特に注目したいのは、新たに会場に加わった「グランドホテル六甲スカイヴィラ」と「旧六甲オリエンタルホテル 風の教会」。特に「風の教会」は建築家・安藤忠雄の代表作でありながら、ホテルの閉鎖にともない長らく非公開になっていた。アートファンのみならず、建築ファンにとってもこの機会は見逃せない。六甲山は都会に隣接する山だが、いざ出かけてみると豊かな自然が保たれており、気分転換にもってこいだ。日帰りでお手軽に地域アートを楽しみたい方にもおすすめしたい。

2015/08/20(木)(小吹隆文)

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モノクロスナップの魅力展

会期:2015/07/04~2015/08/30

入江泰吉記念奈良市写真美術館[奈良県]

入江泰吉が昭和20年代から30年代前半に制作した「昭和大和のこども」と、昭和から平成の大阪の街や人を撮り続けている阿部淳の「市民」、近藤斉の「民の町」を展示。入江73点、阿部740点、近藤106点という大規模な展示となった。入江といえば大和路の美景を捉えた端正な作品の印象が強いが、本展の作品は別物。昔の奈良の風景や生活が活写されており、なにより子供たちが愛らしい。それに対して阿部と近藤の作品は、大阪のぎらついた街と人間に肉薄しており、それでいてどこか夢幻的な風情も感じられるものだった。同館ではこれまでもっぱら入江の作品を展示しており、本展のような企画は珍しい。今年から館長に就任した百々俊二氏の効果だろうか。館の魅力を高めるためにも、他の作家の企画展をどんどん行なうべきだ。

2015/08/09(日)(小吹隆文)

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