2019年12月01日号
次回12月16日更新予定

artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

武田五一の建築標本──近代を語る材料とデザイン──

会期:2017/03/10~2017/05/23

LIXILギャラリー大阪[大阪府]

京都高等工芸学校(現:京都工芸繊維大学)図案科教授に続き、京都帝国大学(現:京都大学)工学部建築学科の創設に尽くして教授を務め、関西の近代建築を牽引した武田五一(1872-1938)の業績を紹介する展覧会。武田の建築・デザイン教育に見られる近代性を、上記二つの大学で収集された教育標本と資料から読み解いている。そのひとつめが建築「材料」に対するまなざし。国内で新しい技術により量産され、建築素材に用いられるようになったタイル、ガラス、テラコッタ、近代の生活で必要になった水栓金具や錠前などの採集サンプルが展観される。どれも西欧における先行例を踏まえつつ、武田ら教育者たちによって建築標本としてコレクションされたものである。また大学教育で国内外の建築史・美術工芸史を教えるために使われた模型、建具雛形、彼の学生たちが記した講義ノートからは、当時最新の建築デザインの動向を西欧で学んできた武田の幅広い知見を見て取ることができる。興味深かったのは、武田が講じた色彩学の課題作品。彼は学生に蝶の実物標本から、色彩の構成と羽の模様の図化までさせている。武田の浩瀚な知識とデザイン実践の先進性に驚かされる。[竹内有子]

2017/04/01(土)(SYNK)

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六本木開館10周年記念展 絵巻マニア列伝

会期:2017/03/29~2017/05/14

サントリー美術館[東京都]

絵巻物は幅60センチメートルほどに広げた画面を左から右へ、順に送りながら鑑賞するものだ。しかしながら、文化財となってしまったそれらを、私たちが本来のスタイルで鑑賞することは難しい。美術館や博物館の展示では、絵巻物を広げた状態で、それもしばしばスペースの制約によって一部分のみを、期間を区切って場面替えしながら鑑賞することになる。では本来の鑑賞スタイルを再現しようとするならば、どのような方法が考えられるだろうか。複製品を手にとって見られるようにするか。高精細な画像をタブレット等のタッチパネル式のディスプレイに表示して、観覧者が画面を左右に送りながら鑑賞する方法も見たことがある。ただ、いずれにしても絵巻物を鑑賞するのは現代に生きる私たち自身だ。それに対して本展は、かつて熱心に絵巻物を集め、描かせ、鑑賞した「絵巻マニア」たちの視線、絵巻物受容の様相を辿ることによって絵巻物鑑賞の追体験を試みる、極めて歴史的なアプローチの展覧会だ。展示自体はオーソドックスなもので、「絵巻マニア」たちに関する史料と、それらに言及されている絵巻で構成されている。取り上げられている「絵巻マニア」は、後白河院、花園院、後崇光院・後花園院父子、三条西実隆、足利歴代将軍など。なかでも興味深いのは、絵巻を蒐集したり描かせるばかりではなく、作品を貸し借りしたり、手控えに自ら写しを制作した「マニア」の存在だ。室町時代の絵巻マニア、後崇光院(1372-1456)・後花園院(1419-1470)父子の場合、後崇光院の日記には親子での貸し借り、息子が他所から借りた絵巻が父親に又貸しされた様子などが記録されている。室町幕府第六代将軍足利義教(1394-1441)もまた、後崇光院・後花園院父子の絵巻物貸借の輪に加わっていた。さらに、第九代将軍足利義尚(1465-1489)のマニアぶりは特筆される。義尚は各所から絵巻を借り上げ、それは「絵巻狩り」と称すべき様相を呈したという。しかも気に入った作品は手元に残し返却しないこともあったため、義尚からの要求に対して絵巻を所有していた公家や寺社は早期の返却を条件にするなど、召し上げを警戒していた様子がうかがわれるという。史料上の制約から、本展のようなアプローチで見ることができる人物は「絵巻マニア」の一部に限定されざるを得ないだろうが、非常に興味深い視点であることは間違いない。[新川徳彦]

2017/03/28(火)(SYNK)

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台北 國立故宮博物院──北宋汝窯青磁水仙盆

会期:2016/12/10~2017/03/26

大阪市立東洋陶磁美術館[大阪府]

故宮博物院が所蔵する北宋時代(960-1127)の汝窯(宮廷用の青磁を焼成した窯)による青磁水仙盆を紹介する展覧会。現在、世界中に残る汝窯の青磁は90点ほど、そのうち故宮博物院は21点を所蔵しているという。伝世品中の最高傑作とされてきた、海外初公開の《青磁無紋水仙盆》が展示品の目玉である。全く貫入がなく、「天青」と称されるグレーがかった淡い青系の釉色に、過不足も何の破綻もなく完成された形状。美しい、の一言に尽きる。汝窯青磁をことのほか愛した清朝の乾隆帝は、とくにこの作品を賞玩し、底部には自らの詩を彫らせている。今回の展示の妙は、上記目玉作品と並んで、大阪市立東洋陶磁美術館が所蔵する汝窯《青磁水仙盆》と、《青磁無紋水仙盆》を真似て清朝の景徳鎮窯で作製された水仙盆が併置されていること。これらが一同に集合し公開される機会はなかなかない。清朝宮廷が旧蔵していた青磁は同博物院に多数あり、そのどれもが元に置かれた場所まで辿ることができるほど。しかし北宋時代における「水仙盆」の用途は、いまだによくわかっていない。いったいどのように使われたのだろうかと、想像がふくらむ。[竹内有子]

2017/03/26(日)(SYNK)

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江戸に長崎がやってきた! 長崎版画と異国の面影

会期:2017/02/25~2017/03/26

板橋区立美術館[東京都]

江戸中期から100年以上もの間に長崎で版行され、主に同地を訪れた人々の土産物として親しまれた版画──長崎版画(長崎絵)を紹介する展覧会。長らく中国やオランダとの貿易の窓口であった長崎の版画には、中国人やオランダ人の風俗、オランダ船をモチーフにしたものが多く見られる一方で、名所風景が描かれることが少なかったのは、これらの版画に求められていたのが江戸時代の人々にとってのエキゾチシズムだったからであろう。オランダ人の食事風景を描いた作品が人気だったというのも、江戸の人々の好奇心を物語っていて面白い。また、本場で学んだことを権威づけるためであろうか、江戸の蘭学者や蘭医がこれらの版画を購入して持ち帰ることもあったという。江戸の浮世絵と比べると比較的素朴で色数が限られているものが多いが、それがまた浮世絵版画にはない魅力だ。日本人は出島には自由に出入りできなかったので、じつは長崎在住の者であってもオランダ人を実見できる機会は限られていた。そのため他の絵師による肉筆画や版画をコピーしたり、想像で描いたりすることも頻繁に行なわれていた。それでも、江戸でペリー来航を描いた版画などに比べれば、オランダ人の姿は写実的に描かれているように思う。今回の展示でとくに興味深かったのは、長崎版画の再発見を取り上げたコーナーだ。開国とともに廃れていった「長崎版画(あるいは長崎絵)」が脚光を浴びたのは明治末期。明治40年代から昭和初期にかけて、南蛮、紅毛趣味が流行し、長崎版画の蒐集や研究が進んだ。長崎絵、長崎版画という名称で呼ばれるようになったのもこの頃だ。長崎版画に傾倒した人物のひとりが版画家の川上澄生で、なるほど本展に出品されている版画には川上澄生の作品を彷彿とさせるものがいくつもある。[新川徳彦]

2017/03/26(日)(SYNK)

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秋岡芳夫全集4 暮らしと家具

会期:2017/02/11~2017/03/19

目黒区美術館[東京都]

工業デザイナー秋岡芳夫(1920-1997)が関わった多彩な仕事をテーマ別に紹介するシリーズの4回目は「暮らしと家具」で、「進駐軍のための家具デザイン」(1946)、『家庭の工作』(1953)、《あぐらのかける男の椅子》(1983)が取り上げられている。時期が異なる3つの仕事だが、いずれもモノのデザインに対する秋岡の視線、思想を知ることができる事例だ。
秋岡芳夫は1939年に東京高等工芸学校に入学し、木材工芸科で木工、機械工学、建築、家具、室内装飾などを学び、卒業後は東京市の建築部学校営繕課に就職して学校家具の改良などに携わった。戦後は、商工省工芸指導所の仕事に関わるなかで、進駐軍家族住宅用家具の設計を行なった。しかしながら、秋岡はここから家具のデザインへとは進まなかった。進駐軍家族住宅用の家具は外国人の生活のための調度であり、進駐軍の担当者から椅子のデザインに幾度もダメ出しされるなかで「生活体験のないモノをデザインするのは間違いだ」ということに思い至ったのだ。秋岡が再び椅子のデザインを手がけたのは1980年代。その前、1977年に秋岡はグループモノ・モノから『くらしの絵本─日本人のイス:テーブル』という小冊子を出し、日本人の住宅と体型に合った寸法についての考えを提唱する。そうした思想から、低めで広い座面の《昼寝のできる女の椅子》(1981)、《あぐらのかける男の椅子》(1983)が生まれた。『家庭の工作』(雄鶏社、1953)は、身の回りにあると便利な日用品50数点のつくりかたを掲載した128ページの本で、秋岡が金子至、河潤之介らと工業デザイングループ「KAK」を結成した3ヶ月後に出版された。完成品だけではなく、モノの使用シーンが写真で示されていることや、ものづくりのための道具が写真入りで解説されているところは、まさしく秋岡がいうところの「関係のデザイン」を象徴する仕事だ。[新川徳彦]

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2017/03/17(金)(SYNK)

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