2019年12月01日号
次回12月16日更新予定

artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

ウィリアム・モリス 原風景でたどるデザインの軌跡

会期:2017/02/25~2017/03/26

福井市美術館(アートラボふくい)[福井県]

「近代デザインの父」と言われるウィリアム・モリス。彼のデザインは日本でも親しまれ、150年以上を経た今でも人々の生活のなかで生き続けている。本展はそのモリスのデザインとともに彼を育み彼が愛した英国の風景を、写真家 織作峰子が撮影した写真を通して味わう展覧会。写真や映像のほか、テキスタイル、壁紙、椅子、刊本などおよそ100点が出品されている。
モリスが学生時代を過ごしたオックスフォード、結婚して構えた「レッド・ハウス」、画家ロセッティと共同で借りた「ケルムスコット・マナー」、工房を開設したマートン・アビー、モリスのデザインを生み出した場所は何処もまるで楽園のようで、木々や花々、小鳥や小動物に囲まれた静かで美しい場所ばかりである。確かに、この世界には荘厳で古典的な装飾よりも素朴でシンプルなデザインが似付かわしく、化学染料による機械捺染よりも天然染料を使ったブロックプリントが相応しい。本展での収穫は、あたかも英国の現地に足を踏み入れたかのような臨場感を味わえたこと、そしてモリスのデザインにおける信条を素直に理解できたことであった。[平光睦子]

2017/03/02(木)(SYNK)

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額装の日本画

会期:2017/02/25~2017/04/02

栃木県立美術館[栃木県]

美術館が自館のコレクションをどのように紹介するのか。展覧会を見るときには作品と同等、あるいは以上にその切り口に興味を惹かれる。画家や団体、モチーフやジャンル、時代や様式等々、多様なテーマ設定を考え得るとはいえ、作品もしくは作家が中心になることが一般的だろう。そういう点からすると、栃木県立美術館のコレクションによる企画展はやや異色かもしれない。昨年の「学芸員を展示する」(2016/1/6-3/21)の主題はタイトルの通り、蒐集・調査・展示・保存といった、美術館学芸員の仕事をコレクション作品を通じて見せるもの。照明の色味による作品の見え方の違いや、カンバスの裏側を見せるコーナーなど、工夫された構成が印象的だった。
今回の「額装の日本画」もまたタイトルの通り。かつて掛軸や巻物、屏風などの形式で鑑賞されてきた日本画は、近代になって西洋画の影響あるいは展示空間としての洋風建築の普及に合わせて額装されるようになっていった。本展は和紙改良と大判化が日本画の大画面化に果たした役割、団体展と出品規定、表現の変遷などを横軸に、「表装替え」や近年の「脱・額装」まで、栃木県立美術館の日本画コレクションによって額装の変遷を見せる。企画を担当した志田康宏学芸員によれば、美術館の所蔵品記録に額縁のデータが含まれないなど、額装の歴史的変遷を辿る上では困難もあるという。絵画作品の写真撮影は額を外した状態で行われ、図録等にも額縁が付いた状態で掲載されることは稀だ。そのため、作品がいつの時点で現在の額に収められたのかを同定することが難しい。そもそも額を選んだのは画家なのか、画商なのか、蒐集家なのか。本展に団体展等に出品された比較的大型の作品が多いのは、展覧会出品時から額が替えられていないだろうという推測のためでもあるという。展覧会会場の写真、画家や額縁商の記録などを丹念に追っていけば、変化の様相をさらに詳しく知ることができるかもしれない。
近年の「脱・額装」は日本画・洋画に共通する現象ではないだろうか。パネルの側面にまで描かれた作品は、画材のテクスチャーによる脱・平面とはまた違った形で絵画を立体化、物質化する。他方で脱・額装には、作品の取り扱いを難しくする側面がある。額という保護枠がなければ、気軽に作品を吊ったり掛け替えたりすることができないではないか。というわけでギャラリーでよく見かけるようになったのは作品よりひとまわり大きい箱形の額だ。その性格としては額というより作品ごと移動可能な壁面といった趣。近年の動向を見るだけでも、額装のありかたは絵画をめぐる多様な要因とリンクして変化してきたことが分かる。とても面白い着眼点の企画だ。[新川徳彦]


会場風景

関連レビュー

プレビュー:額装の日本画|SYNK(新川徳彦):artscapeレビュー

2017/03/02(木)(SYNK)

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石の街うつのみや 大谷石をめぐる近代建築と地域文化

会期:2017/01/08~2017/03/05

宇都宮美術館[栃木県]

近年は「餃子の街」として知られる宇都宮(最近はジャズの街としても売り出しているらしい)は、古くは建物や外構の建材として用いられる大谷石の産地。ちなみに駅前に立つ「餃子像」は大谷石製だ。宇都宮美術館開館20周年・市制施行120周年を記念する本展は、宇都宮の地場産業である大谷石に、美術や建築のみならずさまざまな角度からスポットを当てるとてもユニークな展覧会である。
大谷石を用いた建築といえば、スクラッチタイルと大谷石とを外装・内装に用いた特異な建築、《(博物館明治村蔵)旧・帝国ホテル ライト館》がすぐに思い出される。本展でも展示室入り口ロビーに帝国ホテルの柱が据えられている。設計者のフランク・ロイド・ライトが当初候補に挙げていた石は「石川県江沼郡那谷村」の「菩提石」だったという。それが「大谷石」になったのは、「見た目より丈夫」「極めて廉価」「採掘が容易」「産出量は多い」「販路は日進月歩で拡大中」、「電力を用いた機械による採掘の計画あり」ゆえのようだ(本展図録、50~51頁)。石材のような重量物を利用するには、産地から建築現場までの輸送を考えないわけにはいかない。その点、大谷石には明治末から大正初めまでに輸送の便が整備されていた。明治19年(1886)には日本鉄道の上野宇都宮間が開通。明治23年(1890)に日光線が開通。また、大谷周辺には石材輸送のための人車軌道が敷設され、大正初めには蒸気機関車が牽く軽便鉄道が登場。すなわち帝国ホテルが設計される以前に、すでに大谷石は産地から東京までの鉄道輸送が行なわれていたのだ。石の切り出しが体系的に行なわれ、多くの職人がいたことも大谷石が利用された理由のひとつ。ライトは石材の調達に石屋を通さず、大谷で土地を買い上げ、職人を雇って石を採掘し、東京の現場で加工と設置を行なった。その採掘場跡は現地では「ホテル山」と呼ばれているそうだ(ライトはスクラッチタイルの製造も常滑の自前の工場で行なっている)。そうした職人をひとつの現場に確保できるだけの規模が、この産業にはあったのだ。そして関東大震災で帝国ホテルの損傷が軽微であったことで、建材としての大谷石の人気が高まっていく。
このようにひとつの建築を切り口にしただけでも、産業としての大谷石の魅力が見えてくる。展示は川上から川下へ、すなわち第1部で大谷石の地質学的側面の解説を行い、第2部で石材産業と輸送の変遷、大谷石による建築物が紹介される。第3部では大谷石と美術。川上澄生や清水登之をはじめとする地元画家の作品や、大谷を題材にした画家たちの作品、東松照明の写真。そして美術と密接に関係する建築作品として忘れてはならないのは、坂倉準三による《旧・鎌倉近代美術館》(写真展示)だ。各項目は独立した事象ではなく歴史の中で有機的に結びついているので、展示室の中を(あるいは図録のページを)行なったり来たりすることになる。地場産業の歴史と未来を丁寧に掘り下げる橋本優子学芸員による企画は、すでに2014年から美術講座やワークショップ、プレ企画やサテライト展示によって熟成されてきたもの。ロゴやチラシ、図録のデザインは勝井三雄、写真は大洲大作。[新川徳彦]


展示風景:旧・帝国ホテル ライト館柱

2017/03/02(木)(SYNK)

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世界のブックデザイン2015-16 feat.造本装幀コンクール50回記念展

会期:2016/12/03~2017/03/05

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

サイト:http://www.printing-museum.org/index.html
毎年ドイツで開催されている「世界で最も美しい本コンクール2016」および日本、ドイツ、オランダ、オーストリア、カナダ、中国のブックデザイン賞入選作品約180点を紹介する展覧会。例年と同様、各国の入選作品は手にとって見ることができる。展覧会がはじまって3ヶ月近くが経過し、作品によってはかなり傷みが出てるものもある。もともと不特定多数の閲覧を想定していない特殊な造本の作品はともかく、子供向けの絵本で本文がバラバラになってしまっているのはブックデザインコンクールの入賞作としていかがなものだろうか。だが、このように、装幀の表面的な美しさだけではなく、書籍を手にとって質感、重量感、造本の構造も見ることができるのは本展ならではだ。
会場全体の印象としては、奇抜な本よりも普通に美しい本が多い。とくに中国の本は昨年よりもさらに洗練されてきているという印象を受ける。これが中国のブックデザイン全体で生じていることなのか、コンクールの傾向なのかは分からないが、欧米的なデザインの価値観に近づいているように見えるのだ。デザインのグローバライゼイションといってもよいかもしれない。その一方で「世界で最も美しい本コンクール2016」で金賞・銅賞を受賞した二つの中国の本はいずれも奇抜な造りで、選者のエキゾチシズムを想像させる。
本展を企画した寺本美奈子・印刷博物館学芸員が注目する本のひとつは、「世界で最も美しい本コンクール2016」で金の活字賞を受賞したオランダの『Other Evidence: Blindfold』(Titus Knegtel)。この本は、ボスニア・ヘルツェゴビナ東部の町スレブレニツァで1995年に生じた大量虐殺の犠牲者を記憶するためもの。『Other Evidence』と題された分冊には犠牲者の資料、『Blindfold』と題された分冊にはそれぞれの検視報告が綴られている。中には遺体の写真も含まれているが、2色刷の資料、定型フォーマットの報告書は、生じた事実を感情的になることなく淡々と記録する。1枚1枚バラバラの紙に穴を開け割ピンで束ねた装幀は、これからも犠牲者の記録が追加されるであろうことを予想させる。
このほか、今回は日本の造本装幀コンクール50回を記念して過去の受賞作から約50点の書籍も展示されている(こちらは手にとって見ることはできない)。原弘、亀倉雄策、杉浦康平、中垣信夫らの手による美しい装幀が並ぶ。[新川徳彦]


会場風景

2017/02/23(木)(SYNK)

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プレビュー:額装の日本画

会期:2017/02/25~2017/04/02

栃木県立美術館[栃木県]

現代団体展や公募展の日本画、百貨店美術画廊の日本画コーナーを覗いてみると、洋画と同様に額装された作品が多く見られる。しかし、美術館や博物館で見る近代以前の日本画は、掛軸や屏風、絵巻物といった仕立てが中心だ。額装し、床の間以外の壁面に飾る日本画はいつ、どのようにして現われたのか。そこには、建築の洋風化、団体展、公募展の開催など、作品が展示される空間の変化が影響していることは想像に難くない。この展覧会では日本画額装の歴史を、日本画の見せ方をめぐる議論、抄紙技術の改良と和紙の大判化、団体展の興隆や出品規定の変遷、技法や画材の変化などを通じて辿るという。栃木県立美術館のコレクションによる企画だが、昨年の「学芸員を展示する」展(2016/1/9~3/21)がコレクションの見せ方としてとても工夫されていて面白かったので、今回の企画も楽しみにしている。[新川徳彦]

2017/02/20(月)(SYNK)

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