artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

篠山紀信展 快楽の館

会期:2016/09/03~2017/01/09

原美術館[東京都]

原美術館の展示室、庭で撮影されたヌード写真の巨大なプリントが、まさに撮影されたその場に展示されているというサイト・スペシフィックなフォト・インスタレーション。モデルのメイクは完璧。肌は白く滑らかでラブドールのよう。1枚の写真に同じモデルが複数登場していることも、作りものであるかのようなイメージを強めている。展示を見たのが最終日だったこともあり、会場には多くの人々が訪れていた。男性よりも若い女性の方が多かったのではないだろうか。ベビーカーの家族連れもいく組か。写真も、それを見る人々の目線も明るく乾いている。淫靡なところもなければ後ろめたさも感じられない。なので思うのだ。「快楽の館」の「快楽」とは何だろうか。誰にとっての「快楽」だったのだろうか、と。[新川徳彦]

2017/01/09(月)(SYNK)

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RAKU MASAOMI 彫刻家 樂雅臣展

会期:2017/01/02~2017/01/17

美術館「えき」KYOTO[京都府]

新進の彫刻家、樂雅臣(1983~)は第十五代樂吉左衛門の次男として、樂茶碗で知られる名家、樂家に生まれた。本展は2016年に制作された最新作、26点を中心とした展覧会。石の彫刻作品はどれもシンボリックで抽象的な形をしている。素材はジンバブエブラックという黒い御影石とオニキスという大理石の2種類で、会場はジンバブエブラック製作品を展示した暗いスペースとオニキス製作品を展示した明るいスペースに分かれている。石という素材のどっしりとした重量感を充分に活かした作品には堂々とした存在感が感じられ、「雄刻」「雌刻」「稲妻」「雷」「雨風」「新芽」「雲海」「雷鳴」といったタイトルからはそれらが自然や生命といった極めて本質的なテーマのもとで創作されたことがわかる。京都国立近代美術館の「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」展と会期が重なっていることは偶然ではあるまいが、当代、樂吉左衛門作と次代襲名予定の樂篤人作の茶碗も会場の一角を飾っており、樂家に伝わる創造力の広がりと可能性を感じる展覧会でもあった。[平光睦子]

2017/01/08(日)(SYNK)

茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術

会期:2016/12/17~2017/02/12

京都国立近代美術館[京都府]

樂家の樂焼のはじまりは今から450年前、千利休の指示のもと長次郎がつくった樂茶碗にまでさかのぼる。当代の吉左衛門で十五代を数えるという。本展では一子相伝という形態で途切れることなく脈々と受け継がれてきた、樂焼の技術と精神性を味わうことができる。2015年にロサンゼルス・カウンティ美術館ではじめて開催され、その後、エルミタージュ美術館、プーシキン美術館を巡回し、この度京都での開催となった。初代から当代までを余すことなく網羅した出品作には、重要文化財や茶の湯の名家に伝わる名品が含まれる。いずれも茶道の精神性、「侘び」に通じるといわれる樂茶碗で、色や模様のない、黒あるいは茶一色の手捏ね成形の茶碗である。当代吉左衛門の作品が出品の三分の一以上を占めており、ひとりの作家の30年間あまりの作風の変化を目の当たりにすることもできる。一つひとつの作品に刻まれた挑戦と葛藤の跡には歴史を受け継ぐ重責を跳ね返すかのようなエネルギーと気迫が感じられた。[平光睦子]

2017/01/08(日)(SYNK)

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ゲーム・プラン展──ボードゲームの再発見

会期:2016/10/08~2017/04/23

V&A Museum of Childhood[ロンドン(英国)]

子供博物館は、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館の分館。サウスケンジントン(同本館)初期の建築の一部をロンドン東部のべスナルグリーンに移築し、1872年に当時のプリンス・オブ・ウェールズ(ウェールズ公)によって開館された。文字通り子供のためのミュージアムで、展示されているのはノスタルジーを感じさせる多彩なヴィンテージのおもちゃと子供の生活を巡る日用品。なんといっても見事なのは、19世紀の上流階級が持っていたドールハウスのコレクション。細部まで忠実に作りこまれた大きなサイズのドールハウスは、当時の建築とインテリアを知るうえで大変参考になる。今回の企画展は、歴史的な「ボードゲーム」の変遷をテーマとしている。一口にボードゲームと言っても、歴史をさかのぼれば古代エジプトに遡る。以来、千年以上に及ぶ今日までのゲーム発展の歴史を、100点以上に及ぶ世界から集めた展示品で丁寧に跡付けている。デザインや美的観点にも着目しているので、子供から大人まで十分楽しめる内容だ。会場の最後では、いろいろな種類のボードゲームが置かれているので実際に遊ぶこともできる。ハイテクガジェットの全盛時代にあって、たくさんの親子連れが、和やかな雰囲気の中でボードゲームを楽しんでいる様子がとても印象的だった。[竹内有子]

2017/01/08(日)(SYNK)

新設常設展「Designer Maker User」

デザイン・ミュージアム[ロンドン(英国)]

テムズ河南岸にあったデザイン・ミュージアムが、昨年11月にケンジントンに移転し、再オープンした。ミュージアムの広さは以前に比べ3倍に増大、2つの特別展のスペースに加え、新しく無料の常設展とデザイナー・イン・レジデンスの場が設置された。そもそもこのミュージアムは、20世紀の近代デザインを展示することを目的に、1989年に創設された。今回できた常設スペースは「Designer Maker User」と銘打たれ、デザイナーと作り手と使い手の社会文化的諸関係を明示しながら、デザイン製品の生産から消費までの物語を紡ぎだそうとする。展示デザインにも意外性があってハイセンス。イタリアのVespa(スクーター)が頭上に展示されたり、液晶画面による説明パネル、さらに3面の大スクリーンには映像作品と言ってもよいほど凝った、デザイン関係者のインタビュー/ドキュメンタリー作品が投影されていたりする。来館者同士やミュージアムのスタッフも気さくに会話に加わって、会場は大いに盛り上がっていた。なお移転地はコモンウェルス・インスティチュート(英連邦協会)の跡地で、モダニズム建築としての歴史的価値も高い建物。今回の移転はテレンス・コンラン卿(ミュージアム設立者・デザイナー・実業家)の莫大な寄付によって可能になったそうだが、改装後の見事な内装はさすが。吹き抜けを活かしつつ階段などは木製の調度で仕上げ、非常にドラマチックな空間となっている。二つあるミュージアムショップも楽しいうえに、展示は大変充実、また立地も便利になったので、訪英の際はぜひ来訪をお薦めする。[竹内有子]


左:常設展「Designer Maker User」入口(筆者撮影) 右:会場風景

2017/01/08(日)(SYNK)