artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

瀬戸内国際芸術祭2016 大竹伸朗《針工場》

会期:2016/10/08~2016/11/06

豊島・家浦[香川県]

第3回をむかえる瀬戸内国際芸術祭もいよいよ最後の会期、秋会期がスタートした。瀬戸内の島々ではすでにお馴染みとなった大竹伸朗が、ここ豊島でも新作を発表している。旧メリヤス工場跡を舞台に、宇和島の造船所に放置されていた漁船用の木型を逆さまに置いた作品である。全長17メートル、一見して保存状態もよく造形としても堂々とした存在感を放つそれは、実際には約30年間にわたって放置されていた廃棄物のようなもので、強度に乏しく、そのままのかたちで輸送するために内側に鉄骨を組んでFRPを塗り重ねなければならなかったという。豊島到着後は、島の人々の協力をえながら港から人力で牽引した。
大竹伸朗は1990年代に愛媛県宇和島にアトリエを構えている。瀬戸内では、直島の家プロジェクトでかつての歯科医院を作品化し、女木島では休校中の小学校でオブジェ等の作品を手がけている。いずれの作品もパワフルなコラージュで、平面ではないものの、その印象は画家(ペインター)の仕事の延長線上にあった。それらと比べると、本作はシンプルで整然としている。入り口付近を除いて、何ひとつペイントされていない。しかしいつものあの荒ぶる勢いを抑制したというよりも、芸術祭のコンセプトをそのまま具現化してみせたかのような作品で、そこには、海と島と、瀬戸内の人々のかつての営みが感じられた。[平光睦子]

2016/10/09(日)(SYNK)

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柳原良平 海と船と港のギャラリー

会期:2016/08/20~2016/11/06

横浜みなと博物館[神奈川県]

今年4月1日、2015年8月17日に亡くなったイラストレーター・柳原良平(1931-2015)の油彩画、切絵、イラストレーションなど4,848点が横浜市に寄贈された。本展はその中から主に船や港に関する作品約150点を展示する企画。柳原は小学生の頃から船が好きで船の絵を描いていたという。1968年には至誠堂から『柳原良平の船の本』を出版。色紙を使った切絵からはじまり、やがて油彩、リトグラフへと表現のスタイルを拡げていった。柳原が壽屋(現・サントリー)時代に産みだしたキャラクター、アンクルトリスに代表されるように、彼が描く人物は二頭身。船は寸詰まりにデフォルメされたり、スケールが極端に強調されたりしているが、その描写が正確な知識に裏づけられたものだということも本展で知った。子供の頃に柳原良平のイラストレーションに魅力を感じたのは、描かれているものが細部に至るまで正確だったからだということにいまさらながら気がつかされた。また、柳原が描くイラストレーションで、色面の輪郭がとてもシャープなのは、カミソリで紙を切って貼る切絵の手法ゆえということも、恥ずかしながら本展で知った。大学時代に柳原が上野リチから学んだ手法がそのヒントになったのだという。[新川徳彦]

2016/10/08(土)(SYNK)

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月─夜を彩る清けき光

会期:2016/10/08~2016/11/20

渋谷区立松濤美術館[東京都]

いきものにとって太陽が不可欠なことはいうまでもないが、視覚的には太陽よりも月のかたちが意識に上りやすく思うのはそれが満ち欠けによって日ごとに姿を変える存在だからだろうか。明治時代に太陽暦が採用されるまで、日本ではながらく太陰暦が用いられ、月の満ち欠けによって生活のサイクルが決まっていたことも、月の姿に意識的になる理由であろうか。本展はそうした日本人の生活と深い関わりを持つ月をモチーフとした絵画、工芸品を7つの章に分けて紹介するテーマ展。第1章は「名所の月」。中国湖南省の洞庭湖の上空に浮かぶ秋月を描いた《洞庭秋月図》から始まり、浮世絵に描かれた近江八景《石山秋月》、名所江戸百景など広重が描いた月へと至る。「月」に注目すると橋の下に満月を配した広重《甲陽猿橋之図》の構図がひときわすばらしい。第2章は文学。月に関わる詩歌や物語を絵画化した作品のなかで注目すべきは竹取物語であろうか。第3章は月にまつわる信仰で、月天像が紹介されている。第4章は「月と組む」。月と山水、月と美人、月と鳥獣など、月と組み合わせることで作品には季節や時間帯が含意される。広重《月に雁》のように季節は秋が多いが、中には朝顔や桜花との組み合わせもある。第5章は月岡芳年が月を主題として描いた「月百姿」。第6章は武具と工芸。月はしばしば刀の鐔のモチーフに用いられているが、出品作品のなかでは棚田に映る三日月を意匠化した西垣永久《田毎の月図鐔》が興味深い。第7章「時のあゆみと月」には暦や十二カ月を主題にした作品が並ぶ。なお、会期中の11月14日には満月が地球に近づく「スーパームーン」を見ることができるそう。それも今回は68年ぶりに月が地球に最接近するとのことだ。[新川徳彦]

2016/10/07(金)(SYNK)

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ドレッサーの贈り物─明治にやってきた欧米のやきものとガラス

会期:2016/09/27~2016/12/18

東京国立博物館本館本館 14室[東京都]

1873年(明治6年)に開催されたウィーン万国博覧会に、明治政府は初めて公式に参加。西洋技術を学ぶために多くの人材を派遣し、博覧会出品作品など多数を参考資料として購入した。しかしながら、1874年3月20日未明、日本からの出品作品や現地で購入した品々を積んで日本に向かっていたフランス船ニール号が伊豆半島西岸で沈没。乗員・乗客90人のうち救助されたのは4人。翌年に積荷の一部は引き揚げられたものの、大部分は海に沈んでしまった。この悲報を聞いたサウス・ケンジントン博物館(現・ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)の館長・フィリップ・クンリフ=オーウェン(Sir Francis Philip Cunliffe-Owen, 1828-1894)が、ヨーロッパの美術工芸品を集めて日本に贈ることを提唱。集められた300点を超える贈り物を携えて1876年(明治9年)に来日したのが、イギリスのデザイナー、クリストファー・ドレッサー(Christopher Dresser, 1834-1904)だった。贈り物の中で最も数が多かったのはやきものとガラスで、ドレッサーはその選定・収集に深くかかわっていた。これらの品々は工業用の見本として使用されて大部分が散逸。現在、東京国立博物館には58点、京都国立博物館には5点が収蔵されているという。本特集展示には東博が所蔵するこれらの陶磁器とガラス器、およびドレッサーに関わる工芸品、ニール号からの引き揚げ品など48点が展示されている。「贈り物」の陶磁器はイギリスおよびドイツ製。中でも目を惹くのはドイツでつくられた、16世紀フランスの陶芸家ベルナール・パリッシーのグロテスクな器の写し。当時ドイツではこのようなヨーロッパの古い陶器の写しが流行していたという(こうした流行が宮川香山の高浮彫がヨーロッパで人気を博した背景にあろう)。イギリス製の磁器フィギュアにはマイセンやセーブルの影響が見える。ドレッサーがデザインしたイギリス・ミントン社の器もある。色ガラスの小品はオーストリア製、デカンタや花瓶などの透明なガラス器はイギリス製だ。これらの贈り物はいずれも当時の超一流の美術工芸品というわけではなさそうだが、19世紀後半ヨーロッパにおけるデザインの流行と日本との関わりを見ることができる興味深い史料だ。[新川徳彦]

関連レビュー

世界に挑んだ明治の美──宮川香山とアール・ヌーヴォー:artscapeレビュー|SYNK(新川徳彦)

2016/09/30(金)(SYNK)

2016 イタリア・ボローニャ国際絵本原画展

会期:2016/08/20~2016/09/25

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

絵本の原画「イラストレーション」のもつ力はすごい。作品を見ながら微笑んでしまう展覧会はなかなかないからだ。本展は、イタリアのボローニャで開催されている子どもの本専門の国際見本市の催しとして始まった、併設コンクールの全入選作を集めた展覧会。さらに今年は記念すべき50回目を迎え、ボローニャ展50年の歩みを各年の図録と年譜で振り返る展示もされている。
今回は61か国3,191点の応募の中から77名が選出され、うち日本人は10名という快挙である。日本の入選作には、墨を効果的に使ってユニークなキャラクター造形をしたもの、あらかじめキャラクターを万年筆や絵具で描いて点線で切り取れるようにして、それらを組み合わせて街の様子を再構成したアイディアのもの、「色」のイメージから敷衍して世界の都市風景を表象したものなど、独特な感性が目立った。展示作品は5点一組になっているから、一つひとつに物語があり、短い絵本を見るようで楽しい。時代を感じるのは、デジタル作品が意外に多かったこと。手仕事と組み合わされて、表記されなければわからないほど、繊細で柔らかな質感があるものもある。そのほか、刺繍や木版画の素朴なものまで、イラスト技法の多様性にも目を瞠った。[竹内有子]

2016/09/17(土)(SYNK)

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