artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
人づくりプロジェクト展2016 「あたらしいケシキ」
会期:2016/10/13~2016/10/18
AXISギャラリー[東京都]
商業施設、博物館、展示会などの空間のデザインと施工を手がける丹青社では、毎年、デザイン専門職以外も含むすべての新入社員が外部のクリエイターや職人たちと協働してひとつのプロダクトをつくりあげる課題を課しているという。本展はこの新入社員育成プログラム「人づくりプロジェクト」の成果展。最初にクリエイターが新入社員に対してプロダクトのコンセプトをプレゼンするところからはじまり、それをふまえて新入社員2、3人ずつのチームに分かれ、クリエイターと協働する。制作期間や制作費などの制約のなかでクリエイターたちのコンセプトを具体化し、協力会社の助けを得てひとつのプロダクトに仕上げる。会場に並んだプロダクトはいずれも非常に完成度が高い。個人的には鈴野浩一(トラフ建築設計事務所)と協働した「DOZO BENCHI(ベンチ)」、橋本潤(フーニオデザイン)の「Swinging String(テーブル)」に魅力を感じた。完成度が高い理由は、これが教育目的のプロトタイプにとどまらず、市販も視野に入れた本気のものづくりだからだ。とはいえ、これは「ものづくりプロジェクト」ではなく、あくまでも「人づくりプロジェクト」。この場合、新入社員は「クライアント」でもあるクリエイターたちがつくりたいと思うモノ、譲れる部分、譲れない部分を理解してものづくりの現場に橋渡しし、限られた予算と制作期間で可能な限りクオリティを高めたものをつくる、そのプロセスそのものが成果だ。社長、全役員へのプレゼンを経てプロジェクトは完了し、新入社員はそれぞれの部署に配属される。プロダクトの諸権利はクリエイターが持ち、製品化のためのメーカー、職人とのコネクションもできる。新入社員にとっても、参加クリエイターたちにとても魅力あるプロジェクトだ。[新川徳彦]
2016/10/13(木)(SYNK)
国立カイロ博物館所蔵 黄金のファラオと大ピラミッド展
会期:2016/10/01~2016/12/25
京都文化博物館[京都府]
「ピラミッド」をテーマに、国立カイロ博物館が所蔵する100点余りの発掘品・副葬品・宝飾品を展示している。見どころのひとつは「アメンエムオペト王の黄金のマスク」(前993-984年)、一枚の金の板から打ち出したマスクには、精巧なガラスでできた象嵌の目がはめ込まれており、技術の高さと美しさに驚く。もうひとつが、「アメンエムペルムウトの彩色木棺とミイラ・カバー」(前1069-945年頃)。蓋の木地の上には、びっしりと隙間なく描かれた様々な図像による装飾が見える。生と死・宇宙・信仰などを示す象徴に満ちたその装飾には、目が惹きつけられる。19世紀西欧のデザイナーたちが、エジプトの装飾様式にあれほど魅入られて、折衷主義的に装飾を用いたのにも頷ける。女性にとっては、ジュエリーのデザインも見逃せないだろう。黄金やラピスラズリ・トルコ石のビーズ、貴石でできたヒエログリフ、愛らしい動物モチーフなどで作られる襟飾りは、繊細な技術と独創性が際立つ。古代エジプトのきらびやかな工芸品の技術・デザイン性にも注目。[竹内有子]
2016/10/13(木)(SYNK)
アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち
会期:2016/10/22~2017/01/15
国立国際美術館[大阪府]
イタリアのアカデミア美術館が所蔵する、15-17世紀のヴェネツィア派の絵画を約60点紹介するもの。本展は、ルネサンス黎明期のジョヴァンニ・ベッリーニ、カルロ・クリヴェッリ、ヴィットーレ・カルパッチョ等から始まり、16世紀にヴェネツィア絵画の黄金期を築いたティツィアーノ、同世紀後半に活躍したティントレット、ヴェロネーゼ、バッサーノの三巨匠、そして共和国の統領など高位官職者や女性たちの内面までをも映し出すかような肖像画の数々、17世紀バロック様式への架け橋となった後継者たちの作品、による5つの柱から構成される。見どころは、ティツィアーノの《受胎告知》(1563-65頃、サン・サルヴァドール聖堂所蔵)。4メートルを超える巨匠の作品は、やはりとても迫力がある。もうひとつ同じように晩年の作ながら、《聖母子(アルベルティーニの聖母)》(1560頃)も合わせて、聖母とイエスの深い精神性に満ちた表情の交感性に魅入られる。通覧すれば、レオナルドやミケランジェロのようにデッサンと構図を重んじたフィレンツェ派と、着彩を重んじ感覚に訴えるヴェネツィア派との違いがよく理解できる。見応え充分な展覧会。[竹内有子]
2016/10/12(土)(SYNK)
黒田泰蔵 白磁 写真 造本 印刷
会期:2016/09/28~2016/10/30
光村グラフィック・ギャラリー[東京都]
白磁の作家・黒田泰蔵の自選作品集『黒田泰蔵 白磁』(求龍堂、2015年3月)は、轆轤でひいたシンプル、シンメトリカルな造形の作品を、写真家・大輪眞之が7年に渡ってモノクロームのフィルムで撮影し紙焼きした写真を収めたもので、主題は黒田泰蔵の白磁であるが、それと同時に白磁の美しさを捉えた写真集でもある。印刷はモノクロ画像を3版に分けたトリプルトーン(ニス版を加えると4版)。紙の地の色(ミセスB-Fスーパーホワイト)が磁器の白で、自然光で撮影された白磁の柔らかな階調を3種類の特色インクで表現している。編集、造本設計、アートディレクションは木下勝弘。ページのサイズは横228×縦285ミリ。これは大型カメラで使われる8×10や4×5フィルムや写真印画紙とほぼ同様の4対5の比率で、本自体が写真の紙焼きを束ねたようなイメージを目指しつつ、菊全判用紙サイズを最大限に生かすサイズとして決まったという。各ページにはグリッドを設定してテキストや写真を配置。器の中心線は常にページの中心に配置され、器を置いた木のテーブルのラインも基本的にすべてのページで同じ高さになっている(この高さもグリッドに沿っている)。製本には渋谷文泉閣が開発したクータ・バインディングが用いられている。並製本であるがノドまでしっかりと開いて閉じにくく、背が浮いているのでカバーを掛けなくても背が折れて汚くなったりしない。作品を際立たせる緻密なデザイン、印刷、製本で、本書は第57回全国カタログ展で国立印刷局理事長賞と左合ひとみ賞を受賞、第50回造本装幀コンクールでは審査員奨励賞を受賞している。
本展は光村印刷が手がけた同書の造本から印刷までのクリエイション、1冊の書籍が出来上がるまでのプロセスを見せる展覧会なのだが、展示内容はそれにとどまらない。「白磁 写真 造本 印刷」というタイトルが示すように、黒田泰蔵の白磁作品、大輪眞之による写真の展示もあり、作品が写真となり作品集となるまでのすべてを俯瞰することができる。デザインに関してはグリッドシステムなどの解説、印刷に関しては本番で用いられたトリプルトーン印刷以外に、ダブルトーンやプロセスカラー印刷、スクリーン線数や用紙を変えて印刷したサンプル、製本見本などを並べてその効果の違いが比較できるようになっている。内容の点でも、見せかたの点でもとても印象に残る展覧会だった。
もうひとつ特筆しておくべきは本展のためにつくられた解説冊子『黒田泰蔵 白磁 造本設計』だ。『黒田泰蔵 白磁』を縮小した4対5のフォーマット、同様のグリッドシステム、本文で用いられた4版にCMY版を加えた7版、、クータ・バインディング製本。30ページ超の小冊子だが凝りに凝っている。なお会期終了後も造本と印刷に関する展示は当面継続するそう。期間と開館日はホームページでチェックしてもらいたいとのことだ。[新川徳彦]
2016/10/11(火)(SYNK)
瀬戸内国際芸術祭2016《豊島八百万ラボ》
会期:2016/10/08~2016/11/06
豊島・甲生[香川県]
第3回瀬戸内国際芸術祭では豊島会場にスプツニ子!らによる民家を改修した作品、《豊島八百万ラボ》が新たに加わった。
最初の展示作品は、スプツニ子!作《運命の赤い糸をつむぐ蚕─たまきの恋》。
金属製の鳥居をくぐって入場すると、神社のそれさながらに受付ではおみくじやお守り、絵馬が販売されている。その隣の絵馬掛けコーナーでは、願い事が書かれた多くの絵馬が風に揺れてカラカラと鳴っている。建物内部は研究室と展示室に別れているが、全体でひとつのインスタレーションといった様相である。展示室に設置されたモニターには、意中の彼の心を得るために、人が恋におちる成分といわれるオキシトシンと赤く光る珊瑚の遺伝子を導入したハイブリッド蚕をつかって媚薬効果のある赤い糸を開発するという、ドラマ仕立ての短い映像作品が映し出される。作者であるスプツニ子!本人も意中の彼役で出演するというおまけ付き。「恋愛」、「神頼み」、そしてそれらとは相容れないもののような「科学」、それらがみな一本の赤い糸でいとも簡単に繋げられるのである。[平光睦子]
2016/10/09(日)(SYNK)