artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
プレビュー:美術工芸の半世紀──明治の万国博覧会展[I]デビュー
会期:2015/10/31~2015/12/06
久米美術館[東京都]
明治政府の殖産興業政策の下、日本は海外に向けて多様な美術工芸品を輸出した。万国博覧会に参加し賞を受けることはそうした品々を対外的にアピールする貴重な場であった。全3回を予定するシリーズの第1回は、1873(明治6)年に日本が近代国家として初めて参加したウィーン万博、1876(明治9)年のフィラデルフィア万博、1878(明治11)年の第3回パリ万博が取り上げられる。陶磁、七宝などの工芸品が紹介されるほか、「博覧会の父」と言われる佐野常民、「博物館の父」田中芳男、そして岩倉使節団の一員としてウィーン万博を視察した久米邦武──佐賀出身の久米邦武・桂一郎父子は、有田焼の万博出品、企業化、海外輸出にも助言していた──らの事績にも触れられるという。明治の美術工芸の再評価が進み、欧米から里帰りした工芸品の展覧会が各地で開催されている昨今であるが、明治政府の中枢にあって輸出工芸を政策的に支えた人々にも焦点を当てる本展は、注目すべき展覧会になるのではないだろうか。[新川徳彦]
2015/10/28(水)(SYNK)
平成27年度学習院大学史料館開館40周年記念「名品続々!教科書を彩る学習院コレクション展」
会期:2015/10/03~2015/12/05
学習院大学史料館[東京都]
学習院大学史料館の開館40周年を記念する本展は、所蔵品のなかから私たちが歴史の教科書で読んだり見たりしたことがあるコト、ヒト、モノに関連する「名品」を、おもに時代別に五つのパートに分けて紹介している。アンソロジー的構成であるが、学習院の教育の歴史と史料館40年の蓄積がうかがえる好企画である。「うるわしの原始・古代」のパートでは応神陵古墳出土と伝えられる水鳥の埴輪や、学習院の教材として用いられた縄文土器のレプリカ。「中世の美意識」ではフランス文学科で教鞭を執った辻邦生の『西行花伝』の特装本と作中に登場する「蹴鞠」の実物など。「近世社会に投じられた波紋」では「武州世直し一揆」関連文書。「花開く近代」ではキヨッソーネによる大久保利通などの肖像版画やラグーザによる「山尾庸三像」、皇室ゆかりの品々。そして「学習院の哲学者たち」では、西田幾太郎、鈴木大拙が柳田謙十郎に宛てた書簡が出品されている。
とくに興味深く感じた資料を二つあげる。ひとつは「笏(しゃく)」である。有名な聖徳太子像や、束帯姿の人物像が胸の前に掲げ持つ細長い板──笏──は、威儀を整えるための形式的なものと思っていたが実用的な用途のある道具だという。公家にとって、儀式を間違いなく滞りなく進めることはきわめて重要なことで、そのために笏の裏側に次第を書き付けた紙──笏紙──を貼りつけ、必要に応じてこれを参照したという。つまり笏はカンニングペーパーとしての役割をもっていたのだ。展示には教材用の掛図として明治42年に制作された複製の「聖徳太子像(唐本御影)」と、西園寺家寄託史料の笏、笏紙(江戸時代初期)が出品されている。
もうひとつは、ドルメン教材研究所が昭和25年ごろに制作販売していた縄文土器のレプリカである。明治大学考古学研究室の支援を受け、原型の制作は濱田庄司が担当したほか、レプリカの底面に押された「D」の文字の銘印は芹澤長介の父である芹澤銈介がデザインするなど、制作には民藝運動に関わりのある人びとが携わった。精緻なレプリカであるが高額な商品であったことで販売は伸び悩み、予定されていたシリーズは途中で打ち切られ、ドルメン教材研究所は昭和26年頃に解散した。現存が確認されている製品は、学習院大学史料館を含めて2例のみなのだという。[新川徳彦]
2015/10/21(水)(SYNK)
鉄道遺構・再発見 Rediscovery──A Legacy of Railway Infrastructure
会期:2015/08/27~2015/11/21
LIXILギャラリー1[東京都]
1990年から文化庁により幕末から第二次世界大戦前までの産業・交通・土木を対象に「近代化遺産」の調査が始まり、93年には本展でも紹介されている群馬県の碓氷峠鉄道施設と秋田県の藤倉水源地水道施設が重要文化財として初めての指定を受けている。以来、日本の近代化を支えてきた構造物の保存活動はかなり市民権を得てきたのではないだろうか。本展はそれら近代化遺産のなかでも、産業構造の変化、自動車輸送への転換によってその用を失った鉄道の遺構に焦点を当てた企画展である。廃線探訪は鉄道趣味の1ジャンルとして確立した地位を占めている。古地図にあたり、廃線になったり線路が付け替えられた跡を調べ、現地を訪ねて道路や宅地になった線路跡を歩き、駅舎や橋梁などの遺構を探す。こうした趣味のホームページはネットを探すとたくさんヒットする。鉄道の盛衰はその地方の産業の盛衰と軌を一にしている。廃墟趣味とはまた違い、鉄路の跡は歴史の証人であり、人々のノスタルジーの感情をかきたてるものがある。「鉄道遺構・再発見」はそうした廃線探訪の楽しみも包含しつつ、遺構が文化的な資源として再活用されている事例を紹介している。とくに大きく取り上げられているのはかつて高知県にあった魚梁瀬森林鉄道の遺構である。1911年に開通したこの森林鉄道は1963年に廃止されるまで、山で伐採した木材を輸送するほか、林業に従事する人びとやその家族たちの交通手段としても利用されてきた。各所に線路跡が残されているほか、橋梁やトンネルは道路に転用されて現役のインフラとして活用されている。また1988年に森林鉄道にかかわりのあった人たちなどによって「森林鉄道を語る会」が開催されて以来、村おこし事業として機関車や客車を復元して走らせるなどの活動が行なわれ、観光資源としての活用が模索されてきたという。このほか、鉱山の盛衰と橋梁技術の多様性を証言する栃木県の足尾線、横浜港・横浜駅の歴史とともに変化し現在は遊歩道になっている横浜臨港線跡、ワイン貯蔵庫として利用されている中央線・深沢トンネル跡など、他の鉄道遺構の保存、活用の手引きとなろう事例が多数紹介されている。[新川徳彦]
2015/10/20(火)(SYNK)
琳派400年記念 植物園 de RIMPA「PANTHEON──神々の饗宴」
会期:2015/07/25~2015/10/25
京都府立植物園[京都府]
琳派400年記念展として、京都府立植物園の観覧温室「鏡池」を会場に開かれた本展。会期前の5月26日からはじまった序章「雷神──黒い太陽」をかわきりに、7月25日からは1章「フローラ降臨」が、8月13日からは3章「風神の塔」が、そして9月から最終章「New Generation Plant」がはじまりいよいよクライマックスをむかえた。9月27日から10月11日の期間にはライティングと音楽を交えた光の饗宴が催され、展覧会のフィナーレを飾った。
鏡池という舞台上、むかって左には放電パフォーマンスをする《雷神》、右には頭上の風車の発電によって水を吸って吐きだす《風神の塔》、そして中央には静かに微笑む《フローラ》。巨大な3体のオブジェはヤノベケンジの手による。そして、フローラを囲んで水面から突きだして伸びる植物のようなオブジェは増田セバスチャンの作品《New Generation Plant》である。最終章の夜間のライトアップは高橋匡太が担当した。3人のアーティストの共演である。
植物園は、日中、市民の憩いの場である。来園者が散歩や写生、写真撮影など思い思いに過ごすなかで、3メートル以上もの高さはあろうかと思われる巨大オブジェたちはどことなく場違いで落ち着かないように見える。しかし、夜間のライトアップでは一転。街灯すらおぼつかない暗闇の園内を進むと、ライトに照らされた木々が現われ、さらに進むと赤、緑、青などのカラフルな光、「ひかりの実」3,000個が木々に灯ってファンタジックな世界を演出している。そしてメインステージの鏡池では、ぼんやりと光に浮かぶ観覧温室を背景にオブジェたちは音楽に合わせてライトアップされ、雷神はバチバチと放電し、水面の植物には光の花が開き、フローラのドレスはカラフルに輝いている。音楽が佳境に入ると、なんとフローラは立ち上がってそれまで閉じていた目を開くのである。5月から5カ月間をかけて盛り上がってきた本展もこのエレクトリカル・ショーをもって幕を閉じ、冬の植物園が静けさを取り戻すのかと思うと少々名残惜しいような気がした。[平光睦子]
2015/10/20(火)(SYNK)
マカオのアズレージョ──ポルトガル生まれのタイルと石畳
会期:2015/09/04~2015/11/17
LIXILギャラリー大阪[大阪府]
世界遺産/旧ポルトガル植民地・マカオの街並みの様子を写真・映像・実物タイル7組をとおして紹介する展覧会。小規模ながらも展示からは、ポルトガルと中国文化が混じり合う異国情緒を感じることができる。ポルトガルからもたらされた「アズレージョ」という装飾タイルと「カルサーダス」という石畳の文様。マカオの街に見える装飾は、東西文化の幸福な融合を示しているようだ。アズレージョは16世紀から制作され始めた多彩色のタイルだが、マカオでは白地に青色単彩が多いのは中国の好みによるそうだ。青花の染付を想起させる。石畳自体はヨーロッパで伝統的な道路舗装でもあるが、カルサーダスは19世紀にリスボンでつくられ始めた、白と黒の石灰岩を使って道路や広場にはめこんで文様をつくるもの。マカオの場合は、そこに中国独特のモチーフ(貨幣や漢字等)が使われていて面白い。展示されている実物のタイルは、17-19世紀にポルトガルで制作された多彩色と単色のもので、西洋の装飾文様の時代ごとの変遷をも見て取ることができる。例えば使用されている植物モチーフは、自然主義的な表現から抽象的な幾何学的表現に変化している。[竹内有子]
2015/10/17(土)(SYNK)