artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours

会期:2015/07/25~2015/09/23

国立国際美術館[大阪府]

ドイツ出身の写真家ヴォルフガング・ティルマンスの大規模な展覧会が行なわれた。作家自身がデザインした展示空間の中に200点近い作品が展覧された。1980年創刊のカルト的人気を誇る英国ファッション&カルチャー誌『i-D』に寄稿し、若者文化を代表するアイコン的存在なだけに、作家のいまの生な感覚にひっかかるものとはどのようなものか期待大であった。本展では、スナップ風に撮られたポートレイト、旅先での風景や日常のモノから、大阪でのデモの様子、拡大されたブラウン管の画面、天文学への関心を思わせる星空、セクシュアルなヌード、抽象的な絵画にも見えるものまで、作家独特のエッセンスが満載。作品はインクジェットプリンタによるもので、多様なジャンルとサイズの写真が空間にちりばめられ、展示スタイルもテープやクリップで留めただけ。旧来のアート概念を覆す方法を用いた斬新な作品群である。建築デザインをする人なら、2台のプロジェクターを用いて一度に複数の建築や街の写真を投影する《Book for Architects》に興味を惹かれるはず。昨年のヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展で話題となった作品だ。[竹内有子]

2015/09/04(金)(SYNK)

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トーベ・ヤンソン──ムーミンと生きる

会期:2015/07/25~2015/09/27

あべのハルカス美術館[大阪府]

「ムーミン」シリーズで知られるフィンランドの児童文学作家、トーベ・ヤンソン(1914-2001)の生誕百年を記念して行なわれた回顧展。本展では、挿絵とマンガ原画のほか、これまで紹介されることの少なかった彼女の油彩画作品を見ることができる。事実、芸術家の両親のもとで育ったヤンソンは「画家」としての自負があった。出展作の「自画像」数枚に表わされた印象的な本人の姿を見ると、その様子がうかがい知れる。1930年代のシュルレアリスムの影響を受けた絵画から60年代の抽象表現への取り組み、そして75年に描かれた、本質を抉り出すような強烈な筆致の自画像までが展観されるが、なにより際立つ特徴はその色彩の豊かさ。ムーミン物語における線描・白黒の挿絵のイメージからは、予想できない。他方、油彩画とグラフィックアートに共通するのは、「物語」を内包するかのような作品世界。日本では、ヤンソンの文学とは異なるアニメキャラクター・デザインによるムーミンのほうが有名だろう。それに代わるイメージ、つまり北欧の豊かな自然を背景に、夢幻的な世界観をもつヤンソンの創作活動の全貌が提示された展覧会だった。[竹内有子]

2015/09/01(火)(SYNK)

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篠原ユキオ HITOKOMART展 in TOKYO

会期:2015/08/24~2015/08/29

Gallery 5610[東京都]

2015年3月にニューヨークで開催した個展の作品を中心に、新作を加えた展覧会。「HITOKOMART」とは、20代の頃からヒトコマ漫画を描き続けてきた漫画家・京都精華大学教授・篠原ユキオの命名によるもので、「ヒトコマ漫画」と「アート」とを合体させたもの。風刺であったり、ユーモアであったり、ときに楽しく、ときに深く考えさせられる。アクリル絵の具で描かれた作品は、アイデアが決まると片手に筆、片手にドライヤーを持って、複数の作品を同時進行で数時間のうちに描いていくという。作品も、描き方も、ヒトコマ漫画家ならではのスピード感か。[新川徳彦]

2015/08/28(金)(SYNK)

帯vol.2──ひらく

会期:2015/08/20~2015/08/27

帯屋捨松[京都府]

京都西陣の帯屋捨松の、いまは使われなくなった旧工場や倉庫を会場に東京藝術大学院絵画専攻油画研究分野第2研究室の学生8名による展覧会が開催された。このプロジェクトは帯屋捨松のご主人と第2研究室との出会いからはじまったという。西陣は、周知のとおり、歴史ある織物の街。かつては西陣界隈に鳴り響いていたという力織機のリズミカルな機械音も、いまでは建物の奥から漏れてくるばかりになった。本展の会場でも、織機や糸車といった使われなくなった道具や機材が当時の活気を語っている。製造現場が海外等のほかの場所に移ったのであってすべてが消えてなくなったわけではないものの、やはりそこには寂しさのようなものが漂っている。
さて今回の展覧会では、この場に定期的に滞在して「帯」の魅力を再発信するという、東京藝術大学油画第2研究室の、2012年から続く活動の成果が披露されている。帯、帯を織る糸、帯の紋図、刺繍糸、帯にまつわる神話、そして織機など、学生たちの細やかな感性でその場から受け止めたものが思い思いの手法で表現された。作品はそれぞれに周囲の空間と一緒になって、また、会場全体がひとつの作品のようでもある。会場となった旧工場の隣にはいまも営業を続ける帯屋捨松の店舗に隣接しており、その町家建築も「景観重要建造物及び歴史的風致形成建造物」に指定される歴史的な建物である。活動と休止が重層する西陣の街に、いまとこれからを生きる若いクリエーターたちの作品がよく映えていた。[平光睦子]


新井麻弓《町の片隅話収集屋》展示風景


立原真理子《工場の裏庭/真冬の網戸》展示風景


青木萌《絲景》展示風景


ゾエ・シェレンバウム《Lieu-du-long-chemin - 道之長乳歯神/帯屋捨松の地図》展示風景

2015/08/27(木)(SYNK)

ペコちゃん展

会期:2015/07/11~2015/09/13

平塚市美術館[神奈川県]

サブタイトルもなにもない、シンプルでストレートなタイトルの展覧会である。展示室もシンプルで、デパートメントで開催されるキャラクターものの展覧会のような派手さはまったくない。しかしこの展覧会、8月18日には2万人目の来場者を迎え、会期末までには3万人に達しようかという人気で、これまでの平塚市美術館の来場者記録の上位3位に入る勢いだという。一部の資料を除いて写真撮影が可能であることも口コミでの集客に資しているかも知れない。
 説明するまでもないだろうが、「ペコちゃん」は1950(昭和25)年に登場した洋菓子メーカー・不二家のマスコットキャラクターである。今年で生誕65周年ということになるが、1958(昭和33)年に公募で決まったキャラクター上の設定は「永遠の6歳」。ひとつ年上のボーイフレンド・ポコちゃんと、飼い犬・ドッグがいる。もともと同社の菓子「ミルキー」のキャラクターとして登場したが、立体化された身長1メートルほどの人形は不二家の洋菓子店やレストランの店頭に立ち、同社そのもののマスコットキャラクターとして認知されてきた(1998年にはペコちゃん・ポコちゃん人形は立体商標制度の第1号として登録されている)。なお、今回平塚市美術館でペコちゃん展が開催されることになった理由のひとつは、美術館の北側に同社の平塚工場が立地していることで、展覧会にも同社が全面的に協力している。
 展示前半はペコちゃんの歴史。代々の店頭用ペコちゃん人形やミルキーのパッケージ、ペコちゃんが登場するノベルティなどの資料のほか、ペコちゃんが登場したばかりの1950年代の店頭風景を捉えた写真が展示されている。田沼武能の写真に写っているのは、店頭に置かれたペコちゃん人形が持つミルキーの箱を狙う戦災孤児(1950年)。そのほか、アントニン・レーモンドの設計による伊勢佐木町店の建築や図面、レイモンド・ローウィによる不二家のロゴ(1961年)が紹介されている。興味深いのは、ペコちゃんは現役のマスコットなのに、展示がおもに昭和の世相、記憶という文脈で切り出されている点である。この視点は、2010年に不二家が銀座で開催した「ペコちゃんミュージアム」(2010/11/1~11/21)でも同様であった。企画側だけではなく、人々がペコちゃんというキャラクターには懐かしさ、ノスタルジーを見ているがゆえに、親子連ればかりではなく、年配の来場者が多く見られるのだろう。
 さて、過去の商品やオブジェを展示するだけでは骨董市の趣である。今回の展示の後半には過去と現在とを結ぶために、美術館ならではの仕掛けが用意されている。そのひとつは東京モード学園の学生によるペコちゃんの衣装コンテスト。平成生まれの学生たちがアイデアを競い、イチゴのショートケーキをテーマにした島川香織さんの作品が大賞を受賞した。ちなみに平塚市はイチゴの産地でもあるのだという。もうひとつは、年代もさまざま、扱う素材や技法も異なる17名の作家が制作したペコちゃん・トリビュートの作品27点。三沢厚彦の陶による《ペコ・ポコ・ドッグ》。展示には木製のちゃぶ台が使われているところ、やはりペコちゃんには昭和のイメージが強いのか。西尾康之の立体ペコちゃんは神楽坂のペコちゃん焼きを彷彿とさせる恐ろしげな表情。参加作家中最年長1951年生まれの金川博史の作品は、福田繁雄の切手によるモナリザに触発された切手貼り絵によるペコちゃん。2010年に制作された作品はペコちゃんの周囲を60円切手で埋め尽くしてその生誕60周年を祝している。鍛金の内田望はミルキーをつくる架空の装置を載せた牛の作品を出品している。牛の乳から絞られたミルクは背中に乗せた装置に送られ、砂糖などの原材料が加えられてミルキーとなる「仕組み」。牛の模様がミルキーの包み紙の模様であったり、ペロリと出た舌がペコちゃんと同じ向きだったり、そもそも「ペコ」が仔牛を表わす「ベコ」に由来していることをふまえていたり、細部に至るまで見ていて飽きない。川井徳寛《相利共生(お菓子の国~守護者の勝利~)》は、ヨーロッパの古典絵画に現われる天使のイメージにペコ・ポコを重ね合わせた作品。天使たちはペコポコの姿をお面の形でまとい、小道具や背景には不二家のさまざまなお菓子が描き込まれ、このまま不二家のイメージ広告としても使えそうだ。他の作家の作品も、視覚と味覚の記憶をさまざまな形で表現した面白いものばかり。ペコちゃんというキャラクターの強さと、シンプルなタイトルの奥に拡がる世界観がとても楽しい展覧会である。[新川徳彦]


展示風景


展示風景(東京モード学園の学生によるペコちゃんの衣装)


展示風景(手前:内田望《milky cow》、奥左:木原千春《Candy Girl》、同《ペコ16歳》、奥右:山田啓貴《ペコ立像6歳 1980年頃》)

2015/08/26(水)(SYNK)

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