artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
Tiles──一枚の奥ゆき、幾千の煌めき
会期:2015/12/26~2016/01/06
Bunkamura Gallery[東京都]
愛知県常滑市にあるINAXライブミュージアム「世界のタイル博物館」が所蔵するタイルコレクションの一部を、歴史や用途、装飾などをテーマに展示する出張展。展示では過去から現在までのタイルを四つのテーマに分けて紹介している。第1は「Dot」。円形や正方形のタイルによって文様や絵を表わすもの。その起源は紀元前3500年ごろの古代メソポタミアの神殿にあり、そこでは3色の円錐形をしたやきものを積み上げることによって壁面に文様を表現したという。ほかにタイルモザイクによる東郷青児の《裸婦》などが出品されている。第2は「Geometry」。偶像崇拝が禁じられているイスラムの建築では、幾何学文様がタイルモザイクによって表現されたほか、タイルそのものを正三角形や六角形、星形などの形状にして組み合わせることも行なわれた。イスラムの影響を受けた15世紀スペインでは、幾何学模様を表わしたものも登場している。第3は「Motif」。おもに花模様のタイルが取り上げられているが、それは単独でも鑑賞できると同時に、何枚も並べていくことで空間をつくり出す文様としての機能をも持っている。第4は「Metamorphosis」。複数のタイルを並べることによって生まれる模様は、ただ繰り返しパターンの面白さだけではない。1枚のタイルに施す文様に工夫を凝らすと、複数のタイルを並べたときに、多様な組み合わせパターンを生み出すことが可能になる。組み合わせかたによってまったく異なる表情を見せる建築家・デザイナーのジオ・ポンティによるタイルは、映像によってその組み合わせの妙を見せる。
展覧会の副題に「一枚の奥ゆき、幾千の煌めき」とあるように、タイルは1枚1枚を絵としてみることもできるし、幾何学的文様のタイルを組み合わせることで空間をつくり出すこともできる。やきものであるが故に耐水性耐久性を持つ機能的な建築材料であると同時に、空間を装飾したり、物語や歴史、宗教的教訓を伝える絵画としての役割も併せ持つことができる素材でもある。本展ではそうしたタイルの歴史と現在、デザインと意匠、用いられ方のヴァラエティがコンパクトにまとめられていた。[新川徳彦]
2015/12/26(土)(SYNK)
駅弁むかし物語──お弁当にお茶
会期:2015/12/08~2016/03/21
旧新橋停車場「鉄道歴史展示室」[東京都]
たとえ旅行であってもビジネスであっても、鉄道の旅における楽しみのひとつはお弁当。そのお弁当──駅弁のはじまりにはいくつかの説があるそうだが、通説では明治18(1885)年の宇都宮駅が最初とされていて、すなわち2015年は駅弁誕生130周年ということになる。その記念すべき年に始まった本展は、駅弁史、駅弁制度概説から始まり、明治から戦後昭和30年代までの駅弁掛け紙、陶製弁当容器、汽車土瓶と呼ばれるお茶の容器と関連資料で構成されるとてもマニアックな構成。駅弁掛け紙については以前まとまった資料を見たことがあるが
、本展では各駅の鯛飯弁当の掛け紙を集めたコーナーが興味深い。また今回の企画で目を見張るのは汽車土瓶の数々で、総数100点を超える。その一部は鉄道歴史展示室が所在する旧新橋停車場から出土した明治時代の土瓶。益子焼、信楽焼、常滑焼、瀬戸焼、美濃焼などで、駅名が書かれた汽車土瓶専用品のほかに、山水や草花などの簡単な絵付が施されたものもある。形状としては、絃の付いた円形の土瓶型、土瓶型でも湯飲みが蓋の代わりになっているもの、円筒形や八角形のもの、文字や絵柄が浮き彫りになっているものなど、ヴァラエティに富む。土瓶型から多様な形に変化したのは、轆轤成形から型を用いた鋳込みに代わったからだ。大正期には一時ガラス瓶が用いられたが、茶が入ると尿瓶のように見えると評判が悪く、すぐに陶製に戻ったという。ペットボトルが普及する前にはポリ容器の茶瓶が用いられた時代があるが、あれはプラスチック臭がして苦手だった記憶がある。陶製の弁当容器や土瓶は再利用もされていたようだが、大正期の新聞には「現在の土瓶等は好成績の時でも僅かに三割位しか満足に戻って来ず大部分は破壊されて了ふらしいから不経済至極」 とあり、基本的に使い捨てだったようだ。もうひとつ興味深かった展示は「駅弁マナー」。夏目漱石の『三四郎』に弁当の折を窓から放り出す描写があるように車窓からゴミを投げ捨てることが一般に行なわれていたいっぽうで、投げ捨てられる汽車土瓶などで線路工夫などが怪我をすることもあったそうで、弁当の掛け紙や土瓶には空の容器は座席の下に置くようにとの注意書きがある。大正期に鉄道院が出版していた『鉄道から家庭へ』と題したマナーブック にも同様の注意が記されているところ、これは深刻な問題であったようだ。本展図録巻末には明治大正期の時刻表から抜き出した年別の弁当販売駅一覧があり、こちらも相当にマニアック![新川徳彦]2015/12/17(木)(SYNK)
金銅仏きらきらし──いにしえの技にせまる
会期:2015/10/24~2015/12/22
大阪大学総合学術博物館 待兼山修学館[大阪府]
仏像の外観にみられる造形美を愛でる展覧会は数あれども、そのつくられ方を見て考える機会はなかなかない。本展は、5~9世紀における東アジアの金銅仏(青銅でつくり金メッキした仏像)の組成成分をX線で分析することで得られた成果を披露し、仏像の制作工程・技法を紹介するもの。序章では、東京国立博物館と東京藝術大学によって制作された興福寺仏頭の模型を例に、その鋳造プロセスを探る。原型(土型・蝋型)の種類、鋳型の固定方法、溶銅の注ぎ口・出口の作成法などは現在でも謎だそうだ。第1章では、東京藝術大学大学美術館、大阪市立美術館、逸翁美術館、白鶴美術館が所蔵する日本・韓国・中国・チベットのさまざまな金剛仏42体を展示し、蛍光X線分析などの詳細な調査結果が踏まえられている。最後の第2章では、如意輪観音半跏像が展観される。仏像の様式と技法に加え、組成比率から制作地域や年代を探求する手がかりとなる。飛鳥・奈良時代には金できらきらしていたであろう金銅仏の姿に思いを馳せつつ、その表現だけでなく、物質性・素地の色・金属の固さにも目が引き付けられた。[竹内有子]
2015/12/15(火)(SYNK)
Utsuwa et utsushi/うつわ と うつし
会期:2015/12/03~2015/12/20
京都芸術センター[京都府]
パリ日本文化館で2015年1月に開催された展覧会「Ustuwa et utsuahi」の帰国報告展。「『うつわ(器)』と『うつし(写)』うつろいゆく形の生命:モノのかたちの霊的伝播をめぐる新たなパラダイムにむけて」をテーマに、大西宏志、大舩真言、岡本光博、近藤髙弘ら4人の作品が展示された。映像から陶芸までそれぞれ作品の分野は異なるが、空虚(うつつ)を運ぶ容器である器、器によって移されること、複写、移動、映写、継承、交換、さらには取得や憑依まで、いずれも「うつる」「うつす」という本展のテーマを表わす作品である。
大西宏志の作品《Shrine Fish Lumiére》では、小さな厨子のなか置かれた小さなモニターにルイ・リュミエール製作の世界初の実写映画《工場の出口》が映し出されている。近藤髙弘の作品《Reduction》では、等身大に近い大きさの陶器の座像には顔がなくぽっかりと口をあけうつろな空洞をみせている。大舩真言の作品《Reflection field#3》では、窓からの光のなかに佇む小さな岩石が周囲に虚の空間をつくり出している。岡本光博の、ルイ・ヴィトンのモノグラムをモチーフにした一連の作品はパリの展覧会でも展示できなかったという、いわくつきの作品だ。そういえばこの作品は、2010年に神戸ファッション美術館で開催された「ファッション綺譚」展でも会期中に撤去を余儀なくされて話題となった。本展では「虚」というとらえがたいものに耽ってきたが、生々しい問題と結びつくこの作品で「現」の世界へと一気に連れ戻される思いがした。[平光睦子]
2015/12/15(火)(SYNK)
女子美染織コレクション展 Part5 KATAZOME
会期:2015/11/14~2015/12/20
女子美アートミュージアム[神奈川県]
旧カネボウコレクションを含む女子美染織コレクションから、型染めに関する資料と女子美における染織教育の系譜に関わる人びとの仕事を紹介する企画。4章に分かれた展示の第1章は「型紙」。錐彫り、道具彫り、突き彫りなどの技法による多様な文様の型紙が出品されている。第2章は「型染め」。型紙を用いた微細な文様の小紋染めは、遠目にはほとんど灰色の布にしか見えない。それにもかかわらず超絶的な文様の型紙をつくり、それを用いて丁寧に布を染める技術のあり方やそれを求めた人々の粋の感覚にはため息が出る。この章では琉球紅型も紹介されているが、それは第3章の「民芸と女子美の型染め」へとつながる。民藝運動に関わった染色作家・芹沢銈介が紅型に影響を受けたことは知られているが、芹沢は女子美術大学工芸科設立時のメンバーとして1960年3月まで工芸科で学生を指導している。このほか芹沢門下の小島悳次郎の作品と型紙、女子美学長も務めた柚木沙弥郎のタペストリーなど、女子美卒あるいは女子美で教鞭をとる作家たちの型染め作品が紹介されているほか、第4章では注染技法による作品も出品されており、型染めと型染めを応用した技法と女子美教育との関連が示される。
というように企画テーマとしては「型染め」の展覧会なのだが、個人的な興味からどうしても「型紙」に関心が向かってしまう。筆者が型紙に関心を抱いたのは、明治期に海外に輸出された使用済みの型紙がジャポニスムの美術・工芸品に与えた影響を探った展覧会「KATAGAMI Style」展(2012年、三菱一号館美術館ほか )がきっかけ。型紙は本来は染めのために用いられる道具であるが、文様が彫り込まれた渋紙はそれ自体がグラフィックデザインとしてもとても魅力的なのだ。このとき出品されていた型紙には突き彫りによる比較的大柄な文様が多かった記憶があるが(これは西欧で工芸デザインのモチーフとして用いられた図案の紹介が中心だったからだと思う)、女子美染織コレクションの型紙は、技法としては錐彫り(刃先が半円状の刀で開けた小さな丸穴を連ねて文様を表現する)と道具彫り(特定の文様の形につくられた刀を用いる)による超絶的な意匠が中心。江戸中期から後期にかけての型紙コレクション308点から40点が、今回の展覧会のために特注したというライトテーブルに、文様の種類ごとに分けて見やすく展示されている。このディスプレイもすばらしい。いずれこの方法で型紙だけの展覧会も開催してほしいほどだ。
ロビー会場には造形作家であり女子美術大学名誉教授の髙橋英子先生の型紙コレクションが展示されており、こちらもすばらしいものばかりであった。髙橋先生によれば、これらは20年程前に廃業する染物屋さんから入手したもの。退職後に少しずつ整理をはじめて、今回ようやくまとまった展示にこぎ着けたのだという。アクリルパネルに挟んで天井から吊った型紙と、めくって見ることができるように束ねた型紙とで、500点以上を出品したという。こちらは、錐彫りや道具彫り以外に突き彫りの型紙も多数あり、またその意匠も伝統的なものからモダンなものまでじつに多種多彩。着物文化の歴史を証言する貴重な資料である。[新川徳彦]
2015/12/14(月)(SYNK)