artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
愛すべき海辺の観光の今・昔
会期:2015/10/10~2015/11/23
横浜みなと博物館[神奈川県]
江戸末期から現代まで、東京から三浦半島、江ノ島、大磯、伊豆、伊豆諸島まで、横浜を中心とした海辺のレジャー、観光の歴史とこれからを、浮世絵、印刷物、写真、ポスターなどで紹介する展覧会。とくに海水浴発祥の地、大磯に関する資料が興味深い。幕末から明治にかけて、西洋医学の影響から海水浴は医療行為として伝えられた。衛生思想の普及にも尽力した陸軍の軍医総監・松本順(1832-1907)は海水浴の効能を説き、1885(明治18)年に大磯に日本で初めての海水浴場を開設している。三代歌川国貞「禱龍館繁栄之図」(1891)は、松本順の発案で開設された大磯の旅館に松本と親交があった歌舞伎役者たちを招いたときに描かせたもので、この錦絵が東京で販売されたことで大磯に多くの海水浴客が訪れることになったという。「大磯海水浴富士遠景図」(明治後期)には着物姿で岩場に立つ女性の横に麦藁帽子と洋風の全身を覆う縞の水着を着た女性が描かれる一方で、波間には上半身が裸の女性が描かれているところが面白い。京浜地区から三浦半島、湘南地区へ、行楽地としての海水浴場の展開は、鉄道会社が制作した絵地図やポスター、広告に顕著に現われている。戦後は工業化の進展により、東京や横浜にあった海水浴場は姿を消し、人々は三浦半島や湘南、伊豆半島へと足を伸ばすようになる一方で、東京湾では観光船による遊覧が登場している。歴史の紹介だけではなく、埋め立て、開発、そしてこれからの観光資源としてのウォーターフロントまでを取り上げているところ、とてもよい企画である。[新川徳彦]
関連レビュー
2015/11/20(金)(SYNK)
まちがやって来た──大正・昭和 大田区のまちづくり
会期:2015/10/25~2015/12/13
大田区立郷土博物館[東京都]
東京23区で3番目に人口が多い大田区
東京湾に面した地域は漁業で、内陸部は近郊農業として江戸から明治にかけて発展してきたこの地域は、どのようにしてこれほど急速に街へと変貌を遂げたのか。本展は戦前期における地域の変化の様相を「市街地化」「交通公共インフラ」「工場」「学校」「住宅地」「流行と文化」「天災と人災」という七つのテーマに分け、文書、写真、地図、模型などの史資料を用いて考察している。もちろん実際のできごとはどれかひとつのテーマに収束できるものではない。たとえば、天災や人災は人がいるところに起きるのであって、それは市街地化、住宅地の拡大の結果でもある。天災は間接的にも影響している。関東大震災のころはまだ開発途上であった大田区地域には、被害が大きかった都心から工場や学校、人家、寺院などが移転してきた。昭和初期には同潤会が雪が谷など区内4箇所で住宅を分譲している。他方でこれらの施設が人を受け入れることができたのは、震災前からすでに区画整理事業などによって農地が市街地化しつつあったからだ。臨海部には海上輸送の便もあって工業が展開し、労働者のための社宅が建設され青年学校が設けられる。工業の発展は戦時期において地域の経済を発展させたが、米軍による空襲という人災を招くことになる。こうした地域の発展と人口増の因果関係は一方通行とは限らない。私鉄路線の敷設は人口増の結果でもあり原因でもある。上水道の敷設や道路建設といったその他のインフラ整備もまた、人口増と相互関係にあることが示されている。
展示構成はとても工夫されている。最初に七つのテーマをパネルと史料で概説することで相互の関係を示し、のちに個々のテーマを事例で掘り下げる。また、大正から昭和初期に作家たちが暮らした馬込文士村の史料、漁業、軽工業の展開などは既存の常設展示を企画展示のなかに上手く取り込んでいるのだ。[新川徳彦]
2015/11/19(木)(SYNK)
GKグラフィックス30周年企画展
会期:2015/10/27~2015/11/07
Gallery 5610[東京都]
「綾」──美しい織物の表情──をテーマに、これからのコミュニケーションデザインの可能性を提案する展覧会。さまざまなメッセージが込められた牛乳パッケージの提案や、薄いディスプレイを搭載しインタラクティブに変化する未来のカレーのパッケージは、人とモノとのコミュニケーションの可能性を示す。「こえのかたち」という装置は人の個性や感情をテキストメッセージに反映させるもの。画面に表示されたテキストを読み上げると、音声に含まれる抑揚、ニュアンスによってその文字の視覚表現が変化するのだ。「COTOCATA」という積み木を使ったゲームは、2人のプレイヤーのうち、片方が手元のカードに示された形を言葉で指示し、相手はその言葉を頼りに積み木の箱から必要なパーツを選んで形を組み上げるもの。実際にプレイさせてもらったが、ものの形を視覚ではなく言葉で伝えることの難しさを実感すると同時に、どのような言葉を選べば相手に伝わるのかということを考えされられる、良くできたゲームなのだ。
パッケージ、ブランディング、CI、サインなどのグラフィックデザインを手がけるGKグラフィックスが、1985年にGKインダストリアルデザイン研究所から独立して今年創立30周年を迎えたことを記念して開催された企画。当初は過去の仕事を見せる展示も考えられたというが、このような未来を見せるデザイン展は2013年に世田谷美術館で開催された「榮久庵憲司とGKの世界展」と共通するGKらしさを感じる企画であった。周知の通り、今年2015年2月にGKグループの創設者・榮久庵憲司氏が亡くなった。本展示とそこに現われた未来は、偉大な経営者亡き後のグループのこれからを示すものと考えることもできるかもしれない。[新川徳彦]
関連レビュー
2015/11/18(水)(SYNK)
武器をアートに──モザンビークにおける平和構築
会期:2015/10/17~2015/11/23
東京藝術大学大学美術館[東京都]
アフリカ・モザンビークで独立後の1975年から1992年まで続いた内戦によって国内に残された大量の武器を回収するために、武器を農具と交換する「銃を鍬に」というプロジェクトが行なわれた。集められた武器は爆破・解体され、その一部がアート作品の素材となって制作されたのが、今回展示されている金属彫刻の数々。解体された銃でつくられている椅子のほか、読書する人、楽器を弾く人などが表現されているのは、平和な暮らしへの転換をイメージしているのだろうけれども、いっそギターの代わりに銃を持たせて人間の愚かさを作品によって記憶させてもよいように思った。あるいは農具を持たせるのはベタに過ぎるだろうか。と書いたのは作品自体にあまり魅力を感じなかったことと、銃を鍬に代えるというこのプロジェクトがアートとどのように結びつくのかが不分明だったからなのだが、モザンビークという国とその苦難の歴史を知り、平和を築くためのプロジェクトを知らしめるという点において、展覧会という形式がとても有効であることを認識した。[新川徳彦]
2015/11/18(水)(SYNK)
新発見の高麗青磁──韓国水中考古学成果展
会期:2015/09/04~2015/11/17
大阪市立東洋陶磁美術館[大阪府]
韓国国立海洋文化財研究所が調査した高麗青磁に関する最新成果を紹介する展覧会。大阪市立東洋陶磁美術館が有する館蔵品の参考出品を含め、およそ200点の資料が展観された。興味深いのはこれが水中考古学に依拠して、海底から発掘された遺物であること。14世紀の船沈没「新安船」が1970年代後半に発見されて以来、沈没船から引き揚げられた陶磁器は数万点に上る。それらの資料は高麗青磁の生産・流通経路・編年・用途等がその水中発掘物から徐々に判明してきた様子を物語っている。「青磁獅子形香炉蓋」などあまり例を見ない力強い造形作品から、「青磁瓜形水注」や「青磁象嵌菊牡丹柳蘆竹文梅瓶」のなだらかで優雅な曲線を描く形、青磁皿の各種にみられる自然を写した陰刻文様の美しさ、木簡や船に積載された稲・粟・蕎麦等の具体的な出土品までを実見できる。発見された約800年以上も前の品々が、ほぼ当時の状態を保ちながら海中に眠っていたことに思いを馳せると、ロマンをかきたてられる。[竹内有子]
2015/11/14(土)(SYNK)