artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

中之島図書館と野口孫市の建築術

会期:2016/10/26~2016/11/30

大阪府立中之島図書館[大阪府]

大阪「中之島図書館と野口孫市の建築術」展へ。ロトンダ+パンテオン+バロック階段としての中之島図書館、ピクチャレスク(展示では多視点の空間を近代的なデザインと踏み込んで解釈していた)の須磨別邸(1903)というほぼ同時期につくられた2作品を中心に、図面やイギリスでのスケッチを交え紹介する。手で建築を考える時代だと実感する。なるほど、イタリア的な端正なプロポーションではなく、イギリス的なピクチャレスクなデザインだ。なお、野口は日建設計の祖でもある。

2016/10/29(土)(五十嵐太郎)

BankARTスクール2016 高橋一平「横浜国立大学中央広場について」

BankART Studio NYK[神奈川県]

磯達雄と共同で開催しているBankARTスクール「横浜建築家列伝vol.3」にて、高橋一平をゲストに迎える。彼の経歴を振り返り、東北大→横浜国大→西沢立衛事務所で担当した分棟形式の《森山邸》や《十和田市現代美術館》、そして、独立後の《七ヶ浜保育園》や《Casa O》、《横浜国立大学中央広場》に至る一連の流れが語られた。これらを貫くのは、単体のオブジェとしての建築ではなく、つねに周囲との関係から群として考えることであり、現在、彼が興味を持って中国の各地でも観察している集落的な構成だった。

2016/10/27(木)(五十嵐太郎)

柳幸典 ワンダリング・ポジション

会期:2016/10/14~2016/12/25

BankART Studio NYK全館[神奈川県]

大空間をインスタレーションで思い切り使いきった力作が続く回顧展である。これだけまとめて、彼の作品群を見たのは初めてかもしれない。三分一博志が入って、現在の犬島の美術館ができる以前の1995年頃から柳が考えていた構想の全容もきちんと紹介されていた。そして、犬島の美術館の空間体験を再現したイカロス・セルの通路を抜けると、奥に巨大なゴジラの目が睨みをきかせている。

2016/10/27(木)(五十嵐太郎)

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Chim↑Pom個展「また明日も観てくれるかな?」

会期:2016/10/15~2016/10/31

歌舞伎町振興組合ビル[東京都]

歌舞伎町に行くのはもう20年ぶりくらいだろうか、とんと足が遠のいたなあ。劇場や映画館もすっかりなくなっちゃったし。その歌舞伎町のほぼど真ん中に建つビルをまるごと舞台にしたChim↑Pomの展覧会。入場料1000円とるが、これは見て納得。まずエレベータで4階まで昇り、各フロアの展示を見ながら降りていく。このビルは1964年の東京オリンピックの年に建てられ、2020年のオリンピックを見据えて取り壊すことになったため、約半世紀の時間がテーマになっているようだ。例えば4階は壁を青くしているが、これは半世紀前には建築を設計する際に活用された青写真(青焼き)に由来するという。おそらくその発想源であるこのビルの青焼きも展示。床には正方形の穴が開き、下をのぞくと1階までぶち抜かれている。これは壮観。3階には、繁華街で捕まえたネズミを剥製にしてピカチュウに変身させた《スーパーラット》や、性欲のエネルギーを電気に変換する《性欲電気変換装置エロキテル5号機》といった初期作品に加え、歌舞伎町の風俗店で働くみらいちゃん(18歳)のシルエットを青焼きにした《みらいを描く》も。2階ではルンバみたいな掃除ロボットの上に絵具の缶を載せ、ロボットが床に自動的に色を塗ると同時に掃除するというパラドクスをインスタレーション。そして1階では、ぶち抜かれた4階から2階まで3枚の床板のあいだに椅子や事務用品などを挟んで、《ビルバーガー》として展示している。これは見事、これだけで見た甲斐があった。ちなみにタイトルの「また明日も観てくれるかな?」は、お昼の番組「笑っていいとも」で司会のタモリが終了まぎわに言う決めゼリフで、2年前の最終回の終わりにもこのセリフを吐いたという。このビルの最終回に未来につなぐ言葉を贈ったわけだ。

2016/10/26(水)(村田真)

THE PLAY since 1967 まだ見ぬ流れの彼方へ

会期:2016/10/22~2017/01/15

国立国際美術館[大阪府]

1967年に結成され、関西を拠点に活動している美術家集団「プレイ(THE PLAY)」。彼らの特徴は、パーマネントな作品をつくることではなく、一時的なプロジェクトの計画、準備、実行、報告を作品とすることだ。例えば《現代美術の流れ》という作品は、発泡スチロールで矢印型のいかだをつくり、京都から大阪まで川を下った。また《雷》では、山頂に丸太で約20メートルの塔を立て、避雷針を設置して、雷が落ちるのを10年間待ち続けた。中心メンバーは池水慶一をはじめとする5人だが、これまでの活動にかかわった人数は100人を超えるという。彼らの作品は形として残らないため、展覧会では、印刷物、記録写真、映像などの資料をプロジェクトごとに紹介する形式がとられた。ただし、《雷》《現代美術の流れ》《IE:THE PLAY HAVE A HOUSE》など一部の作品は復元されていた。資料展示なので地味な展覧会かと思いきや、彼らの独創性や破天荒な活動ぶりがリアルに伝わってきて、めっぽう面白かった。プレイの活動のベースにあるのは「DO IT YOURSELF」の精神と「自由」への憧れではないだろうか。時代背景が異なる今、彼らの真似をしてもしようがないが、その精神のあり方には憧れを禁じ得ない。

2016/10/21(金)(小吹隆文)

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