artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

思想地図β vol.2 緊急出版 東日本大震災と思想の言葉シンポジウム「東日本大震災とこれからの思想」

会期:2011/05/21

せんだいメディアテーク 1Fオープンスクエア[宮城県]

朝に仙台駅で思想地図のメンバーを出迎え、彼らとともに市内の被災地をまわる。卸町のエリアは、津波が届かず、純粋な地震の被害によるもので、完全倒壊や部分破損の倉庫やオフィスなどが目につく。東浩紀は、見えるものをすべて読む習性のせいか、街の風景の「がんばろう東北」の文字があまりに多いことに驚いていた。多賀城や仙台港のエリアは一カ月半前に比べ、だいぶクルマが片付いている。蒲生の廃墟は門や塀だけが残り、ポンペイのような風景だった。まわりから見ると、唯一高台の中野小学校と荒浜小学校を訪れる。いずれも二階まで浸水し、体育館は避難場所として機能していない。構造は大丈夫だったが、人がいない街の学校になっている。
さて、思想地図のシンポジウムだが、東は福島の小学校で目撃した時間の断絶、瀬名秀明は被災地と東京の距離や情報過多への戸惑い、石垣のり子は非常時に刻々と変動したラジオの役割と状況、鈴木謙介は経済では計算できない失われた時間の流れなどについて話す。東は、今回の一連の出来事を記録し、海外でも読まれるために翻訳を出すという。終了後、せんだいスクール・オブ・デザインの『S-meme』2号の特集「文化被災」のために、東浩紀にインタビューを行なう。もともと作品の強度を失いながらも、コミュニケーションのネタとして盛り上がりを持続していたアニメを代表とするオタク・サブカルチャーが、3.11以降は厳しい状況になるだろうとの見解を示す。

2011/05/21(土)(五十嵐太郎)

『民芸運動と建築』

著者:藤田治彦ほか
発行日:2010年11月
発行:淡交社
価格:3,800円
サイズ:159ページ

「それまで見過ごされてきた日常の生活用具類などに美的価値を認めようと、柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司らによって大正末年・昭和初年に始められた運動。短く辞書風に書くならば「民芸運動」はこのように紹介されるだろう」とはじまる本書は、こうした民芸運動と建築との関係を、広い視野で展望したもの。「濱田庄司邸」「日本民藝館」「河井寛次郎記念館」「倉敷民藝館」など、民芸運動に関わりのある建物や調度品が豊富な写真とともに紹介されている。また、1998年に発見され話題となった、「三国荘」や「高林兵衛邸」など、書籍として初公開の建築も多い。民芸運動や建築の専門家5人による最新の研究成果や情報も充実している。「民芸の建築」を楽しめる写真集として、あるいはこれまで部分的にしか語られなかった「民芸運動と建築との関わり」を知る研究書として、意味のある一冊だ。
[金相美]

2011/05/20(金)(SYNK)

日台新鋭建築家交流展 自然系建築展

会期:2012/04/14~2012/08/26

府都 KIANTIOK[台湾 台南市]

ドイツから台南に移動し、府都という建設会社のギャラリーの「日台新鋭建築家交流展 自然系建築」展へ(会期は8/26まで)。謝宗哲がキュレーションを行ない、筆者はアドバイザー的に関わったものである。日本からは藤本壮介、平田晃久、大西麻貴、台湾からは劉國滄(あいちトリエンナーレ2013に参加)、曾瑋、莊志遠が参加した。藤本、平田、大西の三名は1/1で空間を体感できる大型のインスタレーションを制作し、とくに二重螺旋の家は、空間を一部再現する大がかりなものである。劉は自作の軌跡、曾は身体性の強い作品を紹介していた。また莊は大学修士を卒業したばかりの最若手で、日本の影響を強く受けている。全体としてギャラリー間の2回分くらいの規模と密度はあるだろう。5月19日は、大西麻貴のレクチャーと、台湾のリトルピールアーキテクツのメンバーも参加して建築家創作交流(Pecha Kucha Party)が行なわれた。これで台湾でも大西人気に火がついたのではないか。

写真:左上=藤本壮介、右上=平田晃久、左下=大西麻貴、右下=台湾

2011/05/19(土)(五十嵐太郎)

赤レンガ卒業設計展2011

会期:2011/05/13~2011/05/16

横浜赤レンガ倉庫 1号館2階[神奈川県]

震災で延期していた赤レンガ卒業設計展が、二カ月遅れで開催にこぎつけた。審査員は、ヨコミゾマコト、藤村龍至、谷尻誠、中山英之、五十嵐ら。午前の審査で3つの作品を推薦した。隙間に充填されたコンクリートの壁がインフラとして残り続ける東京都市大学の矢野健太「都市の型枠」、私の空間を追求した日大の石原愛美「わがスーパースターの家」、そして地図を変異させるプログラムを提案した前橋工科大の神田大紀「東京bug:model」である。審査員に評価軸を提示することを要求する卒計イベントの風潮に、違和感を覚えていることもあり、あえてまったく共通項のない、ばらばらの作品群を選んだ。そして全体討議の結果、矢野の案が最優秀賞となる。講評を経て、五十嵐賞は、魅力的な敷地と産業遺産に絡めて、詩的な風景を創造する稲垣志聞「タネの図書館」に出す。
後半は「建築の方向性に関するシンポジウム」だった。それぞれの審査員が学生時に影響を受けたもの、いまどきの学生観、そして震災以降の建築を語る。筆者としては、今回のテーマが「directions」と複数形になっていたように、震災だからといって、みなが同じ方角に向く必要はないと思う。価値観はばらばらでかまわない。

2011/05/15(日)(五十嵐太郎)

柏木博『探偵小説の室内』

発行日:2011年2月
発行: 白水社
価格:2,400円
サイズ:四六判、246ページ

デザイン評論家・柏木博による、「人々の存在あるいは内面と結びつくものとして、〈室内〉を主題とした」意欲作。本書は、ヴァルター・ベンヤミンの『パサージュ論』に記された、「推理小説が室内の観相学となっている」という指摘から着想されている。また柏木は、「19世紀が〈室内の時代〉であって、ブルジョワジーたちが室内に幻想を抱き続けるようになった」というベンヤミンの記述を挙げ、近代的な個人主義の成立と「室内へのこだわり」との結びつきを強調する。確かにインテリアは持ち主の人となり、内面や精神までをも表わす。だから、部屋(=事件現場・手掛かり)から犯人像を読み解く推理小説においては、室内表象のされかたがどうなっているかについての考察は興味深いし、著者の着眼点はとてもユニークだ。ただ『探偵小説の室内』というタイトルから期待されるほど、純粋な推理小説作家が多く扱われていないのが少し残念だ。ポール・オースターやベルンハルト・シュリンク等々の作品を考察した章は、それはそれでもちろん面白いのだが。例えば現代ミステリ・ファンにあってみれば、女性探偵を主人公とした作品や女性作家の眼がもう少し取り上げられていたら、より楽しみが増えただろう。[竹内有子]

2011/05/15(日)(SYNK)