artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

竹原義二/原図展 素の建築

会期:2011/03/09~2011/04/10

大阪くらしの今昔館[大阪府]

展覧会場に入ると、どこからともなく木の香りが漂う。久しく忘れていた匂いだ。続いて、無垢の木材からなる剥き出し=「素」の架構空間、素材と構造それ自体が目の前に立ち現われ、リアリティをもって迫ってくる。建築家自身が言うように、ここには「逃げ」がない。材質の魅力・木組みの技(本展では建築に用いられている木組み工法を実際の映像でみることができる)言うなれば竹原義二の美学が集約されている。建築家と職人の仕事すべてを集約する、ありのままの顕わな「構造」が生み出す迫力を、架構空間の中を歩き、柱を触って確かめた。竹原の事務所ではいまでも手で図面を引くという。たくさん展示された竹原の手描き原図には、建築家の熟慮と苦労の痕跡が刻み込まれている。スチール模型(100分の1スケール)の多さは、竹原のこれまでの設計活動の長きを感じさせる。もうひとつ展示のなかで興味深かったのは、造形作家・有馬晋平のスツール《スギコダマ》。これもまた、一つひとつ異なる素材が活かされ、手の技が根幹を成し、使い込むことで味わいを増す点で、竹原の「素の建築」の思想と重なりをみせている。簡素でいて有機的なフォルムは、スギの「木霊(木魂)」を宿した「小玉」を意味する。すべすべとした柔らかなテクスチュアは、作り手の確かな技術に裏打ちされている。いすに刻まれた年輪は見た目にもうつくしいばかりか、手で触れれば自然が創りだす刻みを感じ取ることができる。「全ては無に始まり有に還る」「建築は何も無い場所から立ち上がる」。これは竹原の設計思想だが、建築が建ちあがるまでのすべての営み──ことに人との協働──年月と共に生き続ける建築のあるべき道を彷彿とさせるその構えには、胸を打たれる心地がする。思考と素材と手技が織りなす美のありようを実感した展覧会だった。[竹内有子]

2011/04/06(水)(SYNK)

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「20世紀日本建築・美術の名品はどこにある?」第19回アート・スタディーズ

会期:2011/04/04

INAX:GINZA 8階セミナールーム[東京都]

アート・スタディーズとは、彦坂尚嘉の声がけにより、2004年にスタートし、建築と美術の20世紀を振り返るべく、5年ごとに区切り、全20回が企画された連続シンポジウムである。本当に完結するのかと思われていたが、いよいよ第19回を迎え、ついに8年目に突入した。とりあげる時代は、1975年~1984年。美術は「前衛の終焉から保守への回帰」、建築は「都市住宅の時代」をテーマとし、編集者の植田実と安藤忠雄事務所出身の建築家、新堀学が住吉の長屋について語る。植田は、当時の建築家の住宅作品が理念的かつ自閉的になったことを指摘し、新堀はヴォイドのデザインの系譜から位置づけた。筆者は、住吉の長屋を見学した経験をもつが、想像以上に小さい空間であり、理念的な幾何学形態ながら、身体に親密なスケール感をもっていることに驚かされた。

2011/04/04(月)(五十嵐太郎)

南洋堂書店企画の建築トランプ第二弾「ARCHIBOX in JAPAN」(選者:倉方俊輔、イラスト:TOKUMA)

発行所:南洋堂

発行日:2011年3月

南洋堂の建築トランプ第二弾。第一弾は、筆者による建築のセレクションと『日経アーキテクチュア』の編集者、宮沢洋のイラストで作成したが、完売につき、第二弾の近代建築トランプ「アーキボックス・イン・ジャパン」が新しく大阪市立大に赴任した建築史の倉方俊輔による選定とTOKUMAの図柄で発売された。とりあげる建築は、大浦天主堂から東京スカイツリーの最新物件まで。今回のトランプでは、市役所、美術館、図書館、小学校、ビル、自邸など、13のビルディングタイプを数字に対応させ、4種の絵柄は、スペード=1924年以前/ハート=1925-49年/クラブ=1950-74年/ダイヤ=1975年以後という時代区分のマトリクスを使う。ジョーカーには、建築のユニークなディテールを用いる。全部を知っていれば、建築ツウを自慢できるだろう。ちなみに、こうした建築トランプは、すでに海外で90年代につくられており、モダニズム、ポストモダン、ディコンストラクティヴィズムなどを類型化していた。

2011/04/01(金)(五十嵐太郎)

建築講演会 沖縄建築の可能性について

会期:2011/03/18

聖クララ教会[沖縄県]

震災翌日に予定されていた日本郵船歴史博物館の「船→建築」展に関連した遠藤秀平との対談など、幾つも仕事のキャンセルが続き、震災後の初仕事となったのが、東日本から遠く離れた沖縄での講演会。素晴らしきモダニズム建築の聖クララ教会にて、「沖縄建築の可能性について」のレクチャーを行なう。ゲニウス・ロキや批判的地域主義などの基本概念をレビューしつつ、赤い瓦や沖縄構成主義などについて語る。続いて、入江徹の司会により、対談と質疑応答。めずらしく、若手の出席者から多くの質問があり、その後の懇親会でも熱い議論が続く。批判的に掘り下げると、これはとても面白いテーマである。沖縄は震災とは無関係の地と思いきや、東北の建材メーカーの被災により、部材が入手しにくくなっているという。また国際通りの路上では、義援金集めの活動が始まっていた。

2011/03/18(金)(五十嵐太郎)

「著者が語る、建築本の楽しみ方─お部屋編─」(第4回)家具から見える日本の住文化

会期:2011/03/11

ハウスクエア横浜[神奈川県]

子ども部屋、トイレ、浴室など、部屋ごとに講師を招いたシリーズの第四回は、「家具から見える日本の住文化」と題して、小泉和子さんをお招きした。いかにインテリアや家具の視点から歴史研究を行なう人材がいないか、またその後継者を育てるのが大変なのかを最初に指摘していたが、なるほど、建築の隣接分野でありながら、現代においてもインテリアデザインの研究者やその歴史分析がほとんどない。その後、日本の住文化において、家具が建築化し、家具がないことを語っていたところで、大地震が発生し、レクチャーは即座に中断となった。地震の後、ハウスクエア横浜の建物の前でしばらく避難していたが、通常は見知らぬ他人として帰宅したはずの受講生同士、あるいは講師とのあいだで、不思議な一体感が生まれる。受講者は高齢の方が多く、関東大震災後の生まれなので、東京に住んで、生まれて初めてこの規模の地震を経験したと語っていた。

2011/03/11(金)(五十嵐太郎)