artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

ラジオ広島ツアー/「建築系フォーラム2011 コンペのコツ」

会期:2011/02/19~2011/02/20

平和記念公園、平和記念聖堂、ホテルフレックス、なぎさ公園小学校、広島環境局中工場、広島市現代美術館[広島県]

今回、広島の学生団体scaleの吉岡佑樹が広島ツアーをコーディネイトしたが、バスを借り切っての予想以上に充実した内容だった。すでに何度も広島を訪れていたが、普段は見ることができない、なぎさ公園小学校と基町高校の内部、広島市現代美術館のバックヤード、村上徹と宮森洋一郎の事務所を見学したからである。
黒川紀章が設計した広島市現代美術館では、学芸員に案内していただいた。興味深いのは、ホワイトキューブが連続する企画展のための空間と、作品を想定して部屋ごとに個性がある常設のための空間を、10年ちょっと前に入れ替えたということ。つまり、プログラムを交換したのである。日本では「現代美術館」の先駆けとして登場したが、やはりアートそのものがどんどん変化していく。現在は多様なスペースを用意した方が、企画展に向くという。さて、開催中の「サイモン・スターリング 仮面劇のためのプロジェクト(ヒロシマ)」展は、その土地の物語をつむぎだす、リサーチ的な現代アートである。木の船を壊して燃料にするウロボロスの蛇的な作品をのぞくと、見るだけでは全容が理解できない、すなわち解説を必要とする作品が多い。日本では仮面劇を構想し、1985年の阪神優勝、バースの活躍、カーネル・サンダースのエピソードを用いていたが、学生がこれを架空のはなしだと思ったことに驚かされた。また飯沢耕太郎によるきのこアート研究所展も興味深い。ジョン・ケージや草間彌生から始まって、とよ田キノ子のキノコグッズコレクションまで、いかにアーティストがキノコの不思議さに魅了されてきたかをたどる。
20日の午後は、広島国際大学にて建築系フォーラム2011「コンペのコツ」が開催された。
五十嵐は「コンペと審査員」と題し、自分が審査する立場と、審査される立場との両面からコツを紹介したほか、建築系ラジオのメンバーがコンペをめぐってさまざまな切り口で語ったが、とくに南泰裕の負けることと持続することのはなしは印象深い。コンペでは、ひとりの勝者をのぞき、ほとんどの人が負けるわけで、それでもなお腐ることなく、建築家を持続することが、むしろ大事なのではないかと言う。

2011/02/19(土)(五十嵐太郎)

せんだいスクール・オブ・デザイン 2010年度秋学期成果発表シンポジウム

会期:2011/02/17

せんだいメディアテーク 1Fオープンスクエア[宮城県]

第一部は、せんだいスクール・オブ・デザインの第一期の各スタジオによる発表が行われた。Futureラボを担当した石上純也と平田晃久も駆けつけたが、二人のスタジオの成果は、それぞれ彼らの特徴がよく反映されていたのが印象的だった。五十嵐スタジオでは、文芸批評誌『S-meme』を制作したが、右から開くと、縦書きで非仙台サイドの特集「ウェブの時代に紙の媒体ができること」、逆に左から開くと、すべて横書きの仙台サイドの内容になる。受講生のグラフィックデザイナーと製本部の協力によって、手品みたいな特殊装幀の本を実現した。なお、2月4日の学内発表会では、本屋のフィールドワークで知ったビッグイシューのユニークな販売員、鈴木店長を招き、大学で実演販売を試みた。彼がすごいのは、こちらが関心あるテーマを伝えると、だったら何号と何号のこれ、と即座に返答し、バックナンバーをすぐ取り出せること。過去の内容をすべて記憶しているのだ。まさに本屋の原点であり、未来の書店を先どりしているように思われた。
その後、第二部としてパネルディスカッション「デザイン教育のグローバルビジョン」が開催された。阿部仁史はUCLA学科長として優秀な教員確保も兼ねて、外部の企業と連携していく大学の戦略を語り、アーティストの中村政人は3331Arts Chiyodaや富山のヒミングなど、地域を活性化させる大学外の活動を紹介し、文部科学省の神宮孝治は大学教育の現状を報告し、せんだいスクール・オブ・デザインをいかに継続させながら、地域とのつながりをつくっていくべきかが討議された。

2011/02/17(木)(五十嵐太郎)

カタログ&ブックス│2011年2月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

建築のあたらしい大きさ

著者:石上純也
発行日:2010年12月27日
発行:青幻舎
価格:2,625円(税込)
サイズ:186×128mm


2010年9月18日〜12月26日まで豊田市美術館にて開催された同名の展覧会カタログ。金獅子賞受賞後に初めて展開された5つのプロジェクトを紹介。展覧会では、極小から極大へ、その視点をめくるめく変化させながら、未来の建築の可能性を示唆した。各プロジェクトの会場風景や模型写真、科学的な資料を用いて、石上自身がそれぞれのコンセプトについて語る。


建築とは〈からまりしろ〉をつくることである

著者:平田晃久
発行日:2011年2月1日
発売元:INAX出版
価格:1,890円(税込)
サイズ:210×148mm


世界の階層性について、ヒトの生物学的進化について、農耕の始まりについて、自然と人工について、生命と倫理について等々、これまで建築家が視野の外に置いてきた大きなテーマを取り込みながら、平田晃久が構想する新しい建築観。bilingual。[INAX出版サイトより]


建築とは何か──藤森照信の言葉

著者:藤森照信
発行日:2011年1月28日
発売元:エクスナレッジ
価格:1,890円(税込)
サイズ:192×138mm


「X-Knouledge HOME」誌に掲載された、藤森照信氏の言葉を「建築とは何か」をテーマに再編集。さらに藤森ケンチクを代表する傑作「高過庵」の構成から完成までに描かれた全スケッチを特別収録。藤森氏の考える「建築」がこの1冊で分かります。[エクスナレッジサイトより]


建築家・松村正恒ともうひとつのモダニズム

著者:花田佳明
発行日:2011年2月28日
発売元:鹿島出版会
価格:7,140円(税込)
サイズ:214×154×52mm


戦後間もない愛媛県八幡浜市役所の一職員として、珠玉の学校建築や病院関連施設を設計した建築家、松村正恒。本書は、著者花田の博士学位論文をもとに構成された、松村とその建築に関する初の本格的論考。600頁を超える大著。


アーキテクチャとクラウド──情報による空間の変容

著者:原広司、池上高志、吉村靖孝、塚本由晴、藤村龍至、柄沢祐輔、掬矢吉水、森川嘉一郎、南後由和、大山エンリコイサム
発行日:2010年10月1日
発売元:millegraph
価格:1,575円(税込)
サイズ:256×180×6mm


建築・都市・空間について、それぞれ専門の著者による、対談・インタビュー・リサーチを編集した一冊。

2011/02/15(火)(artscape編集部)

MESH環境デザインセミナー第78回「建築とインテリアの関係性について」

会期:2011/02/11

東桜会館[名古屋]

1998年に名古屋で始まり、もう70回以上も開催しているMESH環境デザインセミナーに呼ばれた。そこで「建築とインテリアの関係性について」と題して、最近、飯島直樹や森田恭通の論考を書いたので、これをベースとしながら、二つの分野の類似と差異について語った。その後、第二部として、加藤和雄、堀越哲美、村上心らとともに鼎談を行なった。ゼロ年代において、若手建築家がすぐれたインテリアデザインを発表するようになったことは、インテリアの業界にとっても無視できないらしい。基本的にはインテリア関係の講師を招くが、建築家もときどきレクチャーしていたという。しかしながら、建築とインテリアの関係を議論したのは初めてらしい。実際、講演の準備をしながら、改めてインテリアデザインの現代史を知るための基本的な文献、あるいは情報がほとんどないことに気づいた。業界人にとっては常識のことも、部外者にはアクセスできる文字情報になっておらず、きわめて参入障壁が高いのである。もっとも、内田繁がこうした本を準備しているときく。建築とインテリアを横断する議論が本格的に開始されるのは、これからだろう。

2011/02/11(金)(五十嵐太郎)

グザヴィエ・ヴェイヤン展「FREE FALL」

会期:2011/01/15~2011/05/08

エスパス ルイ・ヴィトン東京[東京都]

以前は、一般に非公開だったルイヴィトン表参道の7階スペースが、アートの空間として開放された。その下の外壁とは違い、ガラスに囲まれた空間は、まわりの都市を眺めるのに絶好の場所だ。ヴェイヤンは、コンストラクティヴィズム、モビールなどを踏まえ、青木淳が設計した白く塗られた鉄骨の部屋とばっちり似合うインスタレーションを展開している。つまり、建築的な作品であると同時に、建築とも調和するのだ。もっとも、床にベニヤ板を敷き詰め、工事現場のような雰囲気に変えるなど、ラグジュアリーな建築にも介入している。彼はヴェルサイユ宮殿で「建築家」展(2009)を開催しているが、村上隆のヴェルサイユ展も空間と作品の相性が抜群だった。ヴェイヤンの自由落下をテーマにした作品群でも、自らの落下のイメージを表現した「FREE FALL」(2011)はとくに興味深い。ただの画像に見えて、実はピンによって多数の紙片をとめており、個別のサイズよりも重さのバランスによって、必要なピンの数が決まっている。

2011/01/22(土)(五十嵐太郎)