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建築に関するレビュー/プレビュー

「架空の都市の創りかた」(「アニメ背景美術に描かれた都市」展オープニングフォーラム)

会期:2023/06/16

谷口吉郎・吉生記念金沢建築館[石川県]

筆者が監修で関わった「アニメ背景美術に描かれた都市」展は、1980年代末から2000年代初頭まで、すなわち手描きしかなかった頃からCGが導入される黎明期までのSF系アニメの6作品における建築や都市の表現に注目した企画である。内覧会の後に開催されたオープニングフォーラム「架空の都市の創りかた」では、ゲストに2名の美術監督を招き、本展を企画したシュテファン・リーケレスと明貫紘子の両氏がコーディネイターを務めた。通常、こうしたイベントは登壇者が喋った後、ほとんど質問が出ないのだが、早々と質問の時間に切り換えたところ、参加者からの挙手が絶えない神回となり、まさに公開討論会としての「フォーラム」というべき場が出現した。同世代の木村真二(1962年生まれ。『鉄コン筋クリート』[2006]や『スチームボーイ』[2004]の美術監督。『AKIRA』[1988]ではスタッフとして背景を担当)と草森秀一(1961年生まれ。『メトロポリス』[2001]や『イノセンス』[2004]の美術監督。『機動警察パトレイバー2 the Movie』[1993]や『GHOST IN THE SHELL』[1995]ではスタッフとして背景を担当)の2人が喋るのは貴重な機会であり、県外から来た参加者もいつもより多く、熱心に的確な質問を投げかけていた。



内覧会の様子。シュテファン(右)、明貫さん(左)。背景は草森による『メトロポリス』の展示




木村真二による『鉄コン筋クリート』背景




『AKIRA』の冒頭シーンの背景。右は美術監督の本棚




『パトレイバー2』のパート。小倉宏昌による背景、都市攻略マップ


二人はともに東京デザイナー学院で学んだが、互いの存在を知るのは仕事を始めてからだという。木村は小林プロダクションに入社し(今回の展覧会の作画者では、ここの出身者が多い)、草森は『エイリアン』(1979)や『ブレードランナー』(1982)を見て、H・R・ギーガーやシド・ミードの影響を受けた。そして「背景美術は原作者が喜ぶものとすべき」といった話、あるいは背景が目立つべきかどうか、画面に出ない部分も描くのか、CGの時代に背景画はどうなるか、などの議論や質疑が続く。

個人的に印象に残ったのは、写真ではわからないが、オリジナルの背景画を見ると、どのような手順で描かれたかが想像できると木村が述べたこと、また草森がザハ・ハディドの競技場は建設すべきだったとコメントしたことである。ちなみに、彼は電線地中化にも疑義を唱えていた。草森は、オットー・ワグナーやフランク・ロイド・ライトにも触れたことからも、今回の展示で紹介された美術監督のなかでは一番建築が好きで、妄想度が高いように思われた。一方、生活感込みの都市表現は、木村が得意としている。「アニメ背景美術に描かれた都市」展は、異なるプロダクションによる複数の作品をまとめて紹介したことで、こうした美術監督の画風の違いが確認できる。



『GHOST IN THE SHELL』のパート(草森の絵を数点含む)




草森秀一所蔵の建築本




会場中央床の「描かれた都市の年表」



アニメ背景美術に描かれた都市

会期:2023年06月17日(土)~2023年11月19日(日)
会場:谷口吉郎・吉生記念金沢建築館 (石川県金沢市寺町5-1-18)

2023/06/16(金)(五十嵐太郎)

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アートノード・ミーティング11「8年目の健康診断 〜仙台のアート、人・場・動きをふりかえる〜」

会期:2023/6/10

せんだいメディアテーク 7階スタジオa[宮城県]

アートノード・ミーティング11「8年目の健康診断 〜仙台のアート、人・場・動きをふりかえる〜」に参加した。アートノードとは、せんだいメディアテーク(SMT)のコンセプトのひとつが「端末(ターミナル)ではなく節点(ノード)である」ことにちなみ、現代のアーティストによる作品制作など、さまざまな活動を展開する、2016年から始まったプロジェクトである。地方に乱立するいわゆる芸術祭とは、一線を画す。なお、筆者はアドバイザーとして関わっているが、会場では発言せず、一聴衆に徹した。



この日のSMTはファサードが開く日で気持ちよく外とつながっていた


アートノードミーティングのアンケート結果


気がつくともう8年ということで、公開で事業を振り返る場が設けられた。みんなの橋を目標とする、川俣正の貞山堀運河沿いのプロジェクトも持続的に動いているが、芸術祭のようなピークの期間がないため、認知度は高くない。ただ、当初の目的として、人を育てることや場をつくることが含まれていたことを改めて確認し、時間がかかるのは仕方ないと感じた。

例えば、あいちトリエンナーレ2013の芸術監督を担当したとき、なぜこれを支える人や環境があるのかと考えたら、桑原知事が1950年代に県立美術館の前身、1960年代に愛知県芸を設立したことが重要だったのではないかと思う。これに触発され、ほかの美大、芸大も生まれ、半世紀かけて培われた土壌の上に、国際展を支える人のネットワークが成立しているからだ。ただ、宮城県内には残念ながらファインアートの大学がなく、仙台から一番近いのは山形の東北芸術工科大学となる。


東北リサーチとアートセンター(TRAC)で開催された「とある窓」展(2018)



地下鉄東西線国際センター駅でのKOSUGE1-16による展示「アッペトッペ=オガル・カタカナシ記念公園」(2016)



川俣正/仙台インプログレス《新浜タワー


光州ビエンナーレのメイン会場ではひっきりなしに学校参観が行なわれていたが、アートノードもこうした学校の課外教育に使ってもらうと良いのではないか。即物的には、教育系に関心のある議員の支持も得られるが、アートノードの存在が知られる回路は増やした方が良い。光州は民主化運動の地として強いアイデンティティの意識をもち、それがビエンナーレにもつながり、おそらく学生に自分の街がアートの街だという気持ちを醸成している。アートに目覚める学生は僅かかもしれないが、市がアートの場をつくっていることが、少しでも記憶に刻まれたら、それで十分ではないだろうか。

会場では、アートノードの「ワケあり雑がみ部」を手がける藤浩志から、公募の提案が寄せられた。これは注目される可能性もあるし、参加する作家が多様化するためにも、また若手を育成するためにも、ぜひやったら良いと思う。


「雑がみ部」の活動スペース



「雑がみ部」部員による展示「展示で雑がみ部」Vol.3の様子(2023/会期終了済み)



アートノード・ミーティング 11「8年目の健康診断 〜仙台のアート、人・場・動きをふりかえる〜」:https://artnode.smt.jp/event/20230502_10917/

2023/06/10(土)(五十嵐太郎)

ドットアーキテクツ展 POLITICS OF LIVING 生きるための力学

会期:2023/05/18~2023/08/06

TOTOギャラリー・間[東京都]

乱暴な言い方かもしれないが、ドットアーキテクツの活動を一覧し、大阪らしさをとても感じた。1990年代に大阪に住んでいたことのある私は、彼らの独特の勢いや熱意のようなものに触れ、じんわりと懐かしい気持ちに包まれたのだ。大阪市南部の廃工場跡に拠点を構えるドットアーキテクツは、建築設計をはじめ現場施工、さまざまなリサーチやアートプロジェクトの企画に携わる会社である。ユニークなのは自社のある廃工場跡を「コーポ北加賀屋」と名づけ、分野を横断して人々や組織が集まる「もうひとつの社会を実践するための協働スタジオ」としていることだ。映画や舞台、パフォーマンス、バーの運営、畑仕事など多岐にわたる活動を通じて、誰もが参加できる場づくりを行なっているのだという。


展示風景 TOTOギャラリー・間 ©Nacása & Partners Inc.


本展のタイトル「POLITICS OF LIVING」とは、「小さな自治空間を生み出す力学」のこと。つまり間接民主制による中央集権的な仕組みに対し、もっと局所的な自治空間を自分たちの意志と妥協をもって創造する力であると解説する。暮らしや余暇に必要なモノやサービスを「この程度なら自分たちでできるじゃないか」と考えてもらうことが、本展の狙いだという。したがって、彼らはこの会場を「自主管理のオルタナティブスペースとするならどう使うか」をテーマとし、通常の作品展示のほか、バー、博物館、ライブラリー、工房、ラジオ局、映画館などと名づけたスペースを設ける試みをした。


展示風景 TOTOギャラリー・間 ©Nacása & Partners Inc.


江戸時代に「天下の台所」と呼ばれ、商業都市として発展してきた大阪は、いまも昔も、国家政府に対して面従腹背の傾向がある。また東京に対するライバル心が強く、何かにつけて大阪が一番と思いたがる節がある。だからこそ、自分たちで何か新しいことを創造したいという意欲も強い。人と人との距離感が近いこともあいまって、庶民の間での盛り上がりが自然と生まれやすいのだ。そうした独特の空気をドットアーキテクツは持っているように感じた。それを彼らは「POLITICS OF LIVING」という言葉で上手く表現したのだ。

ちなみに彼らが手掛けた作品のなかで、「千鳥文化」という一戸の文化住宅をリノベーションした施設(バーや農園)があり、食い入るように見てしまった。そう、関西では文化住宅と呼ぶ、昭和時代に建てられた長屋のような住居に私もかつて住んでいたことがある。大胆にも外壁を取っ払い、躯体を剥き出しにするだけで、そこに新しい空間が生まれることを証明していた。こうした起爆力が大阪以外の都市でも欲しい。


展示風景 TOTOギャラリー・間 ©Nacása & Partners Inc.



公式サイト:https://jp.toto.com/gallerma/ex230518/index.htm

2023/05/27(土)(杉江あこ)

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「ホーム・ストーリーズ:100年、20の先駆的なインテリア」展

会期:2023/04/06~2023/10/01

ヒョンデモータースタジオ釜山[韓国、釜山]

15年以上ぶりに釜山を訪れた。高速鉄道の駅のまわりに、2030年の万博招致の看板が掲げられ、目の前ではスノヘッタによるオペラハウスが建設中である。また新市街では、コープ・ヒンメルブラウによる国際映画祭の基幹施設となる巨大な《映画の殿堂》(2011)やダニエル・リベスキンドが参加した再開発、《海雲台アイパーク》(2011)など、ランドマーク的な建築が増えていた。また郊外では、チョ・ビョンスが設計したケーブルメーカーの展示場、《キスワイヤ・センター》(2014)と、その工場を複合文化施設にリノベーションした《F1963》(2016)に足を運んだ。



《映画の殿堂》(2011)




F1963で開催されていたジュリアン・オピー展


これらに隣接するヒョンデ・モータースタジオ釜山には、ヴィトラ・デザイン・ミュージアムで2020年から21年にかけて開催された「ホーム・ストーリーズ:100年、20の先駆的なインテリア」展が巡回してきていた。これは20世紀のインテリアの歴史を振り返るものだが、特に20のトピックを重視している。なお、驚くべきことに、入場は無料だった。展示が始まる手前のスペースに、ヒョンデが独特のインテリアを提案する新車「セブン」を設置し、ブランド・イメージを向上させるプロモーションを兼ねていたからだろう。



ヒョンデの新車「セブン」


興味深い展覧会だったので、その内容を紹介しよう。全体の構成は、以下の通り。最初のパートは、2000年から今日までの「リソースとしての居住空間」(アッセンブルやイケアなど)であり、過去に遡っていく。次は1960年代から80年代のラディカルな変化を扱う「インテリアの分裂」(マイケル・グレイヴス、メタボリズム、ヴェルナー・パントンなど)、そしてミッドセンチュリーの「自然と技術」(リナ・ボ・バルディ、フィン・ユールなど)、最後は1920年代から40年までの「モダン・インテリアの誕生」(アドルフ・ロース、ミースのトゥーゲンハット邸、フランクフルト・キッチンなど)だ。もっとも、機能主義や標準化をめぐる教科書的なラインナップだけでなく、冷戦下のモスクワで展示されたアメリカのインテリア、「斜めの機能」で知られるクロード・パラン、著述家のバーナード・ルドフスキーが手がけたハウス・ガーデンなど、ひねったセレクションが楽しめる。さらにアンディ・ウォーホールのシルバー・ファクトリー、ジャック・タチの映画『ぼくの伯父さん』の劇中のモダン住宅、写真家のセシル・ビートンが自ら装飾した部屋など、異分野の事例も含む。またおそらく韓国バージョンとして、展示の後にスタジオ・スワインによる実験的な空間インスタレーションが加えられていた。

「ホーム・ストーリーズ」展は、コンパクトだが、多視点からインテリア・デザインの変化を読み解く試みである。




1960〜80年代ポストモダンを紹介するパート(「ホーム・ストーリーズ」展より)



フランクフルト・キッチン(「ホーム・ストーリーズ」展より)




映画『ぼくの叔父さん』の劇中のモダン住宅(「ホーム・ストーリーズ」展より)




資源としての居住空間(「ホーム・ストーリーズ」展より)



ホーム・ストーリーズ:100年、20の先駆的なインテリア:https://motorstudio.hyundai.com/busan/cotn/exhb/homeStories.do

2023/05/06(土)(五十嵐太郎)

ソウル都市建築展示館

[韓国、ソウル]

シェルター・デザインの展覧会に参加したり、オープニングのイベントでレクチャーも行なったソウル都市建築展示館を4年ぶりに再訪した。これは景福宮から南に伸びるメインストリートの世宗大路に面する施設であり、向かいが市庁舎だから、ロケーションは抜群である。それだけソウル市が建築に力を入れているということだろう。ただし、すべての展示空間は地下に展開し、全体の高さを抑えることで、背後のソウル主教座大聖堂が通りからよく見えるように、デザインが工夫されている。また日本統治時代に建設された以前のビルの一部も、遺跡のように残されており、今回はこの建築がどのように計画されたかを振り返る展示もあった。さて、メインの企画展「プロジェクト・ソウル:ソウル・スタイルの公共建築の誕生」では、公共建築の選定プロセス、さまざまなコンペとその実現作、これからの建設される作品などを紹介していた。建築を市民に理解してもらうのに必要な内容であり、こうした市の施設は日本にも欲しい。



ソウル都市建築展示館を横から見る/右が教会




背後の教会、右は旧ビルの柱の痕跡




「プロジェクト・ソウル展」展示風景



「プロジェクト・ソウル展」展示風景


ほかにもいくつかの展示を同時開催していた。例えば、都市建築展示館にどう介入するかというコンペで選ばれたプロジェクトの記録である。これまでこのコンペは二度行なわれており、初回に実現したSTUDIO HEECHのデザインは秀逸だった。地上の斜面となった低い屋根をピンボールに見立てるインスタレーションであり、この建築の特徴を見事に生かしている。そして何より楽しそうだ。また「建築家たちのパースペクティブ」展(META BOXなどの作品紹介)、ソウル建築賞の歴代受賞作を紹介する企画、MVRDVによる都市への野心的な提案(彼らが手がけたソウル路7017の周辺エリア)、都市建築を提案する子供向けのインタラクティブな展示などもあり、盛りだくさんだった。また今年の秋に開催する第4回ソウル都市建築ビエンナーレの予告とテーマ「ランド・アーキテクチャー、ランド・アーバニズム」のパネルが、ライブラリーの横に掲げられていた。なお、2021年にオープンしたアーカイブ室が素晴らしいソウル工芸博物館の近くでも、野外の大型インスタレーションによって都市建築ビエンナーレを告知している。



ソウル都市建築展示館のコンペ関連展示。STUDIO HEECHによるピンボールのインスタレーション




ソウル建築賞の歴代受賞作を紹介する企画




子供向け企画。都市建築を提案するインタラクティブな展示



関連レビュー

《ソウル都市建築展示館》|五十嵐太郎:artscapeレビュー(2019年04月15日号)

2023/05/05(金)(五十嵐太郎)