2023年02月01日号
次回2月15日更新予定

artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

「Windowology: New Architectural Views from Japan 窓学 窓は文明であり、文化である」展

会期:2022/09/18~2023/02/28

ヴィラム・ウィンドウ・コレクション[デンマーク、コペンハーゲン]

ヴィラム・ウィンドウ・コレクションは、北欧を中心にヨーロッパの歴史的な窓を数多く収集しているが、日本を含むアジアの窓はほとんどない。そこで3年前に「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」が東京国立近代美術館でオープンした際にディレクターらが来日し、古材店から障子などを少し購入したらしいが、この分野を強化すべく、筆者が監修した窓研究所の展示「Windowology: New Architectural Views from Japan 窓学 窓は文明であり、文化である」を招待することが企画された。同施設では、こうした外の展示を受け入れる巡回展は初めての試みらしい。

なお、この展覧会はもともと窓学10周年を記念し、東京のスパイラルで開催した「窓学展」が原形であり、ジャパンハウスの巡回枠に採択されたことを受け、海外向けに内容を再編したものだった。もっとも、開催期間がコロナ禍でロサンゼルス、サンパウロ、ロンドンの3会場とも、窓学チームは現地入りができず、オンラインでの設営となった。ロサンゼルスにいたっては、期間中に開館もできなかったため、完全に無観客の展示である(ただし、オンライン上では詳しく鑑賞可能)。したがって、ヴィラム・ウィンドウ・コレクションでの延長戦がなければ、「Windowology」展の現場を海外で目にすることはできなかった。

さて、スパイラルのときからただの学術発表にならないよう、現代アートを組み合わせていたが、巡回展では津田道子に参加を依頼している。会場ごとに異なるインスタレーションを行ない、コペンハーゲンでは展示への導入として、フレームと鏡と映像による迷宮的な空間を出現させた。展示の内容は以下の通り。環境の面からは東工大の塚本研による手仕事の作業場における開口部と小玉祐一郎による近代建築のシミュレーション、表象の視点では東北大の五十嵐研による漫画における窓(『サザエさん』)と物語の窓、そして現代住宅の窓については、ジェレミー・ステラが撮影した写真群を用いている。日本建築の特徴を示すものとしては、建築家の言葉を壁に記したほか、早稲田大の中谷研による掬月亭の映像を流し(可動の開口部によって、空間の表情が劇的に変化)、リアルサイズに拡大した起こし絵図によって再現され、内部に入ることもできる別名「十三窓席」の擁翠亭を展示のハイライトとした。ヴィラム・ウィンドウ・コレクションがモノとしての窓に焦点をあてるのに対し、「Windowology」展は窓がどのように人々のふるまいに影響を与えたか、またメディアにおいてどのように表象されたか、といったアプローチを導入したことに違いが認められるかもしれない。



津田道子の展示




前川國男自邸、聴竹居などの環境シミュレーション




漫画に描かれた窓、手仕事の環境における開口




ジェレミー・ステラが撮影した現代日本の住居




建築家の言葉、物語の窓




茶室の1/1インスタレーションと起こし絵図




茶室の内部


Windowology: New Architectural Views from Japan

会期:2022年9月18日(日)~2023年2月28日(火)
会場:ヴィラム・ウィンドウ・コレクション(Maskinvej 4, 2860 Søborg, Denmark)

2022/09/15(木)(五十嵐太郎)

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ヴィラム・ウィンドウ・コレクション

ヴィラム・ウィンドウ・コレクション[デンマーク、コペンハーゲン]

コペンハーゲン郊外にあるトップライトのプロダクトで知られる世界的なメーカーVELUXが2006年に設立したヴィラム・ウィンドウ・コレクションを訪れた。市の中心部からは電車とバスを乗り継いで40分弱、かつての社屋をリノベーションし、窓の歴史の展示や創業者ラスムッセン一族と企業の多面的な活動を紹介している。正面の上部にあるデザインは、天窓を通過する光をイメージしたかつてのロゴだという。エントラスの横の部屋では、窓をモチーフとする絵画も飾られていた。窓のイメージに囲まれた階段を降りると、紀元前から現代まで窓の歴史を一気にたどる通路が始まる。古代ローマ、ゴシックのステンドグラス、バロック期のヴェルサイユ宮殿、古典主義、アール・ヌーヴォーなどを経て、VELUXが誕生した1941年を含むモダニズムが続く。



窓の歴史をたどる通路。古代ローマのエリア




VELUX創業者や企業の展示




ヴィラム・ウィンドウ・コレクション。玄関上が天窓の断面をイメージしたかつてのロゴ


そのあと美術館の収蔵庫にある引き出し型の絵画ラックのように、各時代の実際の窓が時代順に並ぶ。17世紀以降の歴史建築だけではなく、バウハウスの校舎から譲り受けたものも含まれていた。なるほど、これならコンパクトに多くのコレクションが入るだけでなく、両面から確かめることもでき、窓ならではの収納の手法である。なお、共通の色分けによって、歴史の通路、窓のラック、年表の時代が示されていた。



引き出せる窓ラック


ノコギリ屋根ゆえに、上部から光が差す明るい室内には、わざわざ引き出さなくても、常設で数多くの古い窓や関連する部材、あるいは制作するための工具、材料、ガラス製法の歴史なども展示している。掃除がしやすいように、表と裏がぐるっと回転するなど、実にさまざまな開き方をする窓が存在することに感心させられた。またさまざまなタイプの窓を紹介するコーナーでは、防弾ガラスもあり、説明のボタンを押すと、ロビン・フッドがリンゴを射抜く場面さながらに、女性が顔の前に小さなガラスをもち、そこに男性が銃を撃って性能を示すという現代では信じられない白黒の資料映像が流れた。



ノコギリ屋根の下の展示


特筆すべきは、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展2014において、中央館のエレメント展示で壁一面を使って紹介されたイギリスの建築史家チャールズ・ブルッキンズの窓コレクションが、現在ここに展示されていることだろう。彼とこのときの全体ディレクターだったレム・コールハースの会話の映像も見ることができる。ヴィラム・ウィンドウ・コレクションは約300の歴史的な窓を所有しており、やはり実物そのものを直接鑑賞できるのが、この施設の強みだろう。



チャールズ・ブルッキンズの窓コレクション


2022/09/15(木)(五十嵐太郎)

コペンハーゲン中央駅近くの展示施設

[デンマーク コペンハーゲン]

およそ2年半ぶりの海外となるデンマークに入り、コペンハーゲン駅の近くのホテルから徒歩圏内の施設をまわった。国立博物館の正面から右側に展開する歴史部門は手堅くまとめていたが(植民地の奴隷たちの声といった新しい切り口のコンテンツも含む)、左側のいわゆる民族展示は什器も含めて実験的である。特に企画のバイキング展は、ドラマの実写映像や歴史的人物のアニメ風イラストなど、明らかに若者層を狙った演出だったが、部屋全体が暗くなっていたために、肝心の展示物は逆に見えにくい。驚かされたのは、日本のコスプレ文化(とデンマークの交流)を2室も使って紹介していたこと。これはアラスカ、メキシコ、アフリカの民族展示のフロアと同列に並んでおり、文化人類学的に興味深いテーマとして捉えられていた。



国立博物館


ニューカールスベア美術館の外観は古典主義風だが、よく観察すると、かなり様式を逸脱した表現も見受けられるように、やはりそれほど古いものではなく、1897年にオープンしている。これはデンマークを代表するビール会社の実業家が創設したもので、エジプト、ギリシア、ローマなどの古代からフランスの近代絵画までのコレクションをよく揃えていた。魅力的な空間として感心したのは、ガラスのドーム屋根を架けた中庭である。手法自体は必ずしもめずらしいデザインではないが、中央に噴水を置き、大きな椰子の木が囲み、温室のような空間となっていることにより、まるで本当の公園のように来場者がくつろいでいる事例を初めて目撃した。これに隣接してカフェがあるのも素晴らしい。なお、ヘニング・ラーセンが背後の増築棟を設計しており、挿入された展示空間のヴォリュームのまわりにある階段をのぼると、屋上につながっていて、隣のチボリ公園など、街並みを眺めることができる。



ニューカールスベア美術館




温室のような中庭




ヘニング・ラーセンの増築


ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展2018でも紹介されていたOMAによる《BLOX》(2017)は、パズルのようにさまざまなプログラムを組み合わせた水辺の複合施設である。マッチ箱を積み上げたような外観に対し、地上レベルでは車道が貫通したり、デンマーク建築センターの展示場からジムが見えるなど、思いがけない遭遇をもたらし、まさに都市を埋め込む。またヤコブセンらの家具を展示する大階段の横に、スパイラル状の滑り台を併設する遊び心も忘れない(若者がこれを選択し、楽しみながら帰路についていた)。建築センターでは、空間が伸び縮みする宇宙建築、ならびに近代以降のデンマークの女性建築家の歴史や国外の女性建築家によるインスタレーションの展示をしていた。後者のテーマは、日本でもそろそろ本格的に大きな企画展を行なうべき内容だろう。



《BLOX》




《BLOX》の滑り台




女性建築家によるインスタレーション


2022/09/13(火)(五十嵐太郎)

みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2022 会場めぐり

会期:2022/09/03(土)~2022/09/25(日)

[山形県]

山形ビエンナーレは市の中心部に複数の会場があり、がんばれば1日ですべてまわることは可能だが、「現代山形考~藻が湖伝説~」はゆっくり見るべき内容なので、1日半くらいは必要だろう。以下に各会場について記したい。駅前のやまぎん県民ホールでは、松村泰三による《風の花》が、風を受けてぐるぐる回る。第77回山形県総合美術展を開催中の山形美術館は、出口付近に「現代山形考~長瀞想画と東北画~」(過去の小学生と現代のアーティストの絵画が並ぶ、時空を超えた出会い)が展示されていた。



現代山形考〜長瀞想画と東北画



遊学館における「現代山形考~日本のかたち~」の展示は、オリンピックの会場となった明治神宮外苑の建設に3人の山形人(伊東忠太、佐野利器、折下吉延)が関わっていたことに注目している。そして同館の縣人文庫の常設展示や図書館の資料と合わせ、3人を紹介するほか、岡崎裕美子+ナオヤによる短歌・イラストの作品もあった。BOTA theaterでは、「現代山形考〜山形のかたち〜」としてアメフラシによる金井神ほうきや草鞋の継承プロジェクト、ならびに朝日辿による長瀞猪子踊りをもとにした絵本を紹介する。その近くの郁文堂では、建築学生のポートフォリオ、山形銀行旧本店の仮囲いでは、原高史による未来山形の七日町通りの色鮮やかな街並みグラフィックがあった。仏壇屋の長門屋の脇から奥に入ると、2つの蔵を用いた展示、すなわち浅野友理子「草木往来」と内藤正敏・草彅裕の師弟による暗室での写真展「二つの自然」が出迎える。前者は削り花をモチーフとした新作、ならびに家庭菜園や食用植物などの大きな絵画(今回は木に描くことにも挑戦したという)、後者はともに光の表現が印象的だった。


現代山形考〜日本のかたち




BOTA theaterにおけるアメフラシの展示




山形銀行旧本店の仮囲いにおける原高史のグラフィック




蔵を用いた浅野夕理子の展示


ぎゃらりー・らららにおける、きざしとまなざし2022 企画展「さわる/ふれる 〜共振するからだ〜」展は、障害と表現をつなぐワークショップを言葉と写真で紹介し、分身ロボットOriHimeも登場する。なお、防火建築帯が残るすずらん通りでは、夜にアートイベントを開催していたが、こちらはタイミングがあわなかった。



ぎゃらりー・ららら


特筆すべきは、すでに完成していたが、山形ビエンナーレのスタートにあわせて、本格的にオープンしたやまがたクリエイティブシティセンターQ1の施設だろう。ここではセンスの良いショップに混じって、ビエンナーレのイベントとして、陶器市、おくすりてちょう、まちのおくゆき、ピンクパブリック・プロジェクトの紹介、アトリエ公開などが展開していた。Q1とは「旧一」でもあり、OpenAによって、昭和初期の旧第一小学校を再リノベーションしたものだ。日本のリノベーションはどうしても小ぎれいになってしまうが、二階より上のフロアはコンクリートむき出しのワイルドな空間とし、未完成のような雰囲気が強い存在感を放つ。



再リノベーションされたQ1の室内



公式サイト:https://biennale.tuad.ac.jp

第77回山形県総合美術展

会期:2022/09/03(土)~2022/09/19(月・祝)
会場:山形美術館(山形県山形市大手町1-63)


2022/09/04(日)(五十嵐太郎)

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Transfield Studio『Lines and Around Lines』

会期:2022/09/01~2022/09/04

元映画館[東京都]

私の足下にあるこの土地を規定しているものは何か。建築家の山川陸とパフォーミングアーツマネージャーの武田侑子によるユニットTransfield Studioの『Lines and Around Lines』(企画・構成:Transfield Studio[山川陸+武田侑子])は、「水の流れ」をキーワードに観客の土地への視線と想像力を更新する試みだ。パフォーマンスはレクチャーパフォーマンスとツアーパフォーマンスの二部構成。観客は会場となった元映画館でシンガポールの水の流れに取材したレクチャーパフォーマンスを鑑賞した後、簡易な地図とそこに付されたQRコードからアクセスできるオーディオガイドを頼りに隅田川へと向かうツアーパフォーマンスに旅立つことになる。


[写真:金田幸三]


[写真:金田幸三]


ところで、なぜシンガポールなのだろうか。実はTransfield Studioはシンガポールの劇場Esplanadeが主催するレジデンスプログラムContemporary Performing Arts Research Residencyの参加アーティストとして2022年の4月から6月までシンガポールに滞在しており、『Lines and Around Lines』はそのときのリサーチをもとにした作品となっている。公演期間中には関連イベントとしてシンガポールでの滞在制作の報告会も実施され、滞在制作の様子とシンガポールのパフォーミング・アーツ事情を知ることのできる貴重な機会となった。なぜシンガポールなのか、という問いに対するひとまずの答えは、たまたまTransfield Studioがそこに滞在する機会があったから、という身も蓋もないものになるだろう。

Transfield Studio​はこれまでもフェスティバル/トーキョー19公式プログラムの『Sand (a)isles(サンド・アイル)』では池袋を、豊岡演劇祭2020フリンジに参加した『三度、参る』では豊岡を舞台に、その場所に関するリサーチからツアーパフォーマンスを立ち上げることを試みてきた(いずれも発表時は別名義)。そもそも特定の場所を歩くことが作品の根幹をなすツアーパフォーマンスにおいて、その場所に関するリサーチから創作が出発することはあまりにも当然のことであるようにも思えるが、しかしここにはある種の二重性がある。ツアーパフォーマンスはまず創り手がそこを歩き、次に観客が歩くことで成立するものだからだ。ならばそこにはズレを導入することもできるはずだ。未知の土地を訪れた者は、無意識のうちに自分の知る土地とその場所とを比較し、そこにある共通点と差異からその土地のありようを測るだろう。『Lines and Around Lines』は日暮里/荒川エリアを歩く観客に、シンガポールを歩いたTransfield Studioの視点をインストールする。


[写真:金田幸三]


[写真:金田幸三]


前半のレクチャーパフォーマンスではスクリーンに映し出される画像や映像に山川の声が重なり、シンガポールにおける水の流れを追っていく。やがて明らかになってくるのは、水資源の貴重なシンガポールにおいては、その流れのあり方こそがある面において国を「定義」しているということだ。山川の語りのなかに繰り返し登場する「定義」という言葉。シンガポールでは湾の出口は水門で塞がれ、そこはreservoir=貯水池として定義される。湾を堰き止めた水門はそのまま、国の輪郭を定める線の一部となるだろう。山川はスクリーンの手前に置かれたポールにロープを巻きつけていくことでその輪郭線を示す。線の内側、国土の9割はcatchment、雨水を集める場所と定義されているのだという。そして水が流れるための傾きの存在。 レクチャーパフォーマンスを聴き終えた観客は会場を出て、方位磁針を手に隅田川を目指す。地図には目的地である隅田川へと真っ直ぐに伸びるラインと、それと交差するJR常磐線、明治通り、都電荒川線、そして隅田川の4つのライン。その交差地点につく度に再生を促されるオーディオガイドは、ときおりシンガポールについての語りとも響き合いながら、東京という土地の来し方とそこに流れる水へと観客の意識を向かわせる。


[写真:金田幸三]


ところで、今回のツアーパフォーマンスに詳細なルートの設定はない。あるのは隅田川という目的地と北北東という大まかな方向だけ。レクチャーパフォーマンスを終え、おおよそ同時に街へと出た観客は、最初のうちこそ同じようなルートを辿るものの、住宅地の入り組んだ路地を進むうち、徐々に異なるルートへとバラけていく。それでも時おり、曲がり角を曲がった先にほかの観客の背中が見え、同じ方向へと向かっていることが確認されるのだった。複数の流れはときに合流し、ときに分かれ、そしていずれにせよ川へと至る。観客の歩みは水の流れと重なり合う。自らの身体をもって、目には見えぬ東京の水の流れを体感すること──。


[写真:金田幸三]



Transfield Studio:https://www.transfieldstudio.com/


関連レビュー

JK・アニコチェ×山川 陸『Sand (a)isles(サンド・アイル)』|山﨑健太:artscapeレビュー(2020年03月15日号)

2022/09/02(金)(山﨑健太)

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