2022年08月01日号
次回9月1日更新予定

artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

大阪中之島美術館「Hello! Super Collection 超コレクション展 ─99のものがたり─」展ほか

[大阪府]

大阪の新型コロナの感染者数が多かったので、準備室が設置されてから約30年、ようやく迎える開館がさらに延期になるのではと心配していたが、杞憂に終わった。1月にはすぐ美術館の長期閉館を決定した青森県とは違う対応である。実はオープン前に完成した建築の内部を一度見学する機会があったが、やはり大勢の来場者が入り、長いエスカレータや階段による人の動きや、大空間の吹き抜けのスケール感がわかった状態を体験するのが、ダイナミックでいい。立体的に人が行き交うさまは交通施設のようでもあるが、《大阪中之島美術館》(2022)は都市型の新しい巨大美術館として誕生した。設計を担当したのは、コンペで巨匠や大手設計組織を破り、最優秀案に選ばれた遠藤克彦である。次世代につながるという意味で、ようやく1970年生まれの建築家が、これだけ大きな公共建築を手がけたことも祝福したい。黒い直方体が浮かぶ外観だが、内部は外への眺望が効果的に計算されている。そしてフランスの現代建築を想起させる艶をもったデザインだ。


《大阪中之島美術館》外観



《大阪中之島美術館》5階



《大阪中之島美術館》吹き抜け



大阪中之島美術館 開館前の展示の歴史


開館記念の「Hello! Super Collection 超コレクション展 ─99のものがたり─」は、凄いヴォリュームだったが、ただ作品を並べるだけでなく、実業家の山本發次郎らのコレクションをもとにした作品収集の経緯もあわせて紹介している。もちろん、まずは大阪に関わりのある近現代の作品が見所なのだが、ほかに特徴的なのは、1992年から家具や食器などを含むデザインのコレクションも進めていたこと。そして閉館した大阪のサントリーミュージアムから預かったポスターコレクションも充実していた。メインの展示室は上部の4、5階だが、2階の多目的スペースでは、一般から提供されたホームビデオをもとに林勇気らが参加したホームビデオ・プロジェクト「テールズアウト」も開催している。また隣接する国立国際美術館の「感覚の領域 今、『経験する』ということ」展では、コロナ禍が世界共通の体験だと再認識させる大岩オスカール、壁に囲まれた空間ごと作品環境を創出する名和晃平を楽しみ、美術館の壁が動く(!)、いや来場者が押して動かす飯川雄大の作品に驚く。そして京阪電車 なにわ橋駅のアートエリアB1の鉄道芸術祭vol.10「GDP THE MOVIE〜ギャラクティック運輸の初仕事〜」は、contact Gonzoとdot architectsが共同制作し、ゆるいSF映画の撮影所兼映画館兼メイキング展示を設置していた。大阪の中之島が、現代アートの拠点として盛り上がっている。


「Hello! Super Collection 超コレクション展」の最後は倉俣史朗《ミス・ブランチ》



飯川雄大「デコレータークラブ」(2022)



鉄道芸術祭vol.10「GDP THE MOVIE〜ギャラクティック運輸の初仕事〜」展示風景


Hello! Super Collection 超コレクション展 ─99のものがたり─

会期:2022年2月2日(水)~3月21日(月・祝)
会場:大阪中之島美術館
(大阪府大阪市北区中之島4-3-1)

感覚の領域 今、「経験する」ということ

会期:2022年2月8日(火)~5月22日(日)
会場:国立国際美術館
(大阪府大阪市北区中之島4-2-55)

鉄道芸術祭vol.10「GDP THE MOVIE〜ギャラクティック運輸の初仕事〜」

会期:2021年11月20日(土)~2022年2月27日(日)
会場:アートエリアB1
(大阪府北区中之島1-1-1 京阪電車なにわ橋駅地下1階)

関連レビュー

クリエイティブアイランド中之島、大阪中之島美術館|五十嵐太郎:artscapeレビュー(2021年11月15日号)

2022/02/13(日)(五十嵐太郎)

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小田原のどか 個展「近代を彫刻/超克する─雪国青森編」ほか

青森県は感染拡大のため、美術館を閉じていたが、学芸員への取材をかねて、展示を見学させてもらった。まず「小田原のどか 個展 近代を彫刻/超克する─雪国青森編」(青森公立大学 国際芸術センター青森[ACAC])は、リサーチをもとにした鋭い切れ味の内容である。すなわち、大熊氏広による《雪中行軍記念像(歩兵第5連隊遭難記念碑)》/工部美術学校/油粘土の系譜と、高村光太郎による《乙女の像》/東京美術学校/紙粘土の系譜を対比しつつ、地方から近代彫刻史の枠組を検証し、思想的な課題としてパブリックな彫刻を読む彼女の著作『近代を彫刻/超克する』(講談社、2021)とも連動していた。それだけにとどまらず、さらに複製(同形二体の乙女像)、彫刻のアイデンティティ(土産物の劣化した縮小版)、義手(八甲田雪中行軍の負傷者)という別の視点への可能性にも拓く。ところで、狙ったわけではないかもしれないが、大雪でほとんど埋まった中庭の展示は八甲田山の悲劇を想起させ、墓を模した黒いオブジェ群の並び方が、建築空間に沿って湾曲していたことは、直線的な配置になりがちなモニュメントへの批評のようにも思われた。


《雪中行軍遭難記念像》台座のヴォリューム



奥のショーケースの中は《乙女の像》、手前台座の上はそのミニチュアの土産物



雪に埋もれたACAC



湾曲した空間にそって並ぶ墓型のオブジェ


別の部屋で同時開催していた、壁に大量のコギンを陳列する「大川亮コレクション─生命を打ち込む表現」展も、慶野結香の担当である。これは郷土の工芸に着想を得て、津軽で農閑期の副業品を生みだそうとした大川の収集物を紹介するもので、彼は木村産業研究所(日本に帰国した前川國男の最初の仕事)の創立にも関わったという。東京国立近代美術館の「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」展とあわせて見ると興味深い。


「大川亮コレクション─生命を打ち込む表現」展 展示風景


青森県立美術館もかなり雪で埋もれていたが、奥脇嵩大のキュレーションによる、すごいタイトルの展覧会「美術館堆肥化計画2021」は、美術館が文字通り、外に飛びだす企画だった。すなわち、「旅するケンビ」という目的を掲げ、先行して津軽各地の商業施設や博物館において地域資源をもとに小さな展覧会を開催し、それらの企画の成果が美術館において合流する。テーマは多岐にわたり、石器と似た形状をもつが、実際は自然に生成した礫=「偽石器」、プロの写真家ではない農家の竹内正一と外崎令子が撮影した十三湖干拓の記録写真、ラテン語の「耕す」を語源とする「colere-ON」の活動、堆肥に関わる糞やミミズの研究者の紹介などだ。つまり、生活や地域をアートにつなぎなおす企画である。なお、訪問時はちょうど設営中だったのが、アート・ユーザー・カンファレンスによる太陽や空気を題材とし、壮大な発想にもとづくコンセプチュアルな作品である。



「美術館堆肥化計画2021」展 十三湖干拓の記録写真



「美術館堆肥化計画2021」展 糞やミミズの研究


小田原のどか 個展「近代を彫刻/超克する─雪国青森編」

会期:2021年12月25日(土)~2022年2月13日(日)
会場:青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)
(青森県青森市合子沢字山崎152-6)

大川亮コレクション

会期:2021年12月25日(土)~2022年2月13日(日)
会場:青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)

美術館堆肥化計画2021成果展示

会期:2022年3月22日(火)〜2022年6月26日(日)
会場:青森県立美術館
(青森県青森市安田字近野185)

2022/02/12(土)(五十嵐太郎)

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熊本県八代市の建築

[熊本]

数年ぶりの熊本駅は、再開発のプロジェクトによって、だいぶ様変わりしていた。佐藤光彦による《熊本駅西口駅前広場》(2011)はそのままだったが、まず駅舎が建て替えられ、安藤忠雄による湾曲した黒いファサードが印象的な新駅舎(2019)が登場している。また西沢立衛の大きなしゃもじのような屋根がかかった《熊本駅東口駅前広場》(2011)も、もともと暫定形とはいえ、強い存在感は放っていたが、もっと細くうねる、鏡面効果によってまわりの風景を映しだす薄い屋根に置き換えられた。なるほど、以前の力強いデザインだと、駅舎のかたちと喧嘩するだろうから、むしろ現在は引き立て役としての建築になっている。また隣の日建設計による《アミュプラザくまもと》(2021)は、室内に垂直の立体庭園が展開し、迫力がある大きな吹き抜けをもつ。



西沢立衛による旧広場



熊本駅と西沢立衛による広場



《アミュプラザくまもと》


熊本駅から電車に乗って、八代に移動し、伊東豊雄の《八代市立博物館未来の森ミュージアム》(1991)を久しぶりに訪問すると、ちょうど開館30周年を祝っていた。今では世界各地にプロジェクトを抱える建築家になったが、実は彼にとって初の公共施設であり、ここから快進撃が始まった記念すべき作品だ。軽やかな屋根と手前の丘のようなランドスケープのデザインで知られているが、あらためて下の展示空間を観察すると、間仕切りといっても透明なガラスを使い、ワンルームにも見え、特殊な什器が並ぶユニークなものである。おそらく、この博物館のために設計された特別仕様の什器は、日本にお金があった時代の展示デザインといえるかもしれない。エントランスや常設展示室では、妙見祭の行列や 亀蛇 きだ を紹介していたが、これがユネスコの無形文化遺産に登録されたことを契機に、隣に祭りの笠鉾などを保管・展示する施設としてつくられたのが、伊東豊雄建築設計事務所出身の平田晃久の《八代市民俗伝統芸能伝承館(お祭りでんでん館)》(2021)である。これはくまもとアートポリス事業のラインナップには入っていないが、現代のデジタル技術と木材を使う伝統的なかたちを融合させて、うねうねした屋根をはりめぐらせる。ちなみに、DOCOMOMO Japanによって、重要な建築に選定された芦原義信の《八代市厚生会館》(1962)も隣接し、博物館とともに、お祭りでんでん館を挟む。正確にいうと、本館と同じく両端部に斜めに反り上がった屋根をもつ厚生会館の別館跡地にでんでん館が建設されている。ともあれ、このエリアでは、奇しくもそれぞれ昭和/平成/令和の時代を反映した三つの屋根の違いが観察できるのだ。



《八代市立博物館未来の森ミュージアム》



《八代市民俗伝統芸能伝承館(お祭りでんでん館)》



《八代市民俗伝統芸能伝承館(お祭りでんでん館)》



芦原義信《八代市厚生会館》

2022/01/26(水)(五十嵐太郎)

「❒³LE(キュービクル):最低限のシェルター空間国際設計コンペ」ほか

[宮城]

ちょうど仙台において、東北大学の五十嵐研が関係する展示が三つ同時に開催されていた。ひとつはせんだいメディアテークの「くまもとアートポリス巡回展─みんなの家、後世へつなぐ復興─」展である。これは昨年12月に熊本市現代美術館で見た展示の巡回展で3.11と熊本の災害後の活動を紹介する企画だ。最初のセクションにおいて、さまざまな建築家から寄せられたみんなの家のイメージがあり、そのなかに芳賀沼整の依頼を受けて、五十嵐研が南相馬の仮設住宅地で設計した塔がある集会所のドローイングも含まれている。実現したものは有限の塔だが、ここでは無限バージョンを提出した。なお、熊本のみんなの家は、当初の役割を終えた後、移転合築がなされ、集会所などに転用されている事例が少なくない。また熊本地震震災ミュージアムのコンペの最優秀案となった、o+h・産紘設計Jvなども紹介しており、次世代を担う建築家の活躍が期待される。



「くまもとアートポリス巡回展─みんなの家、後世へつなぐ復興─」展 左下が五十嵐研




「くまもとアートポリス巡回展─みんなの家、後世へつなぐ復興─」展 o+hコンペ案


定禅寺通り沿いの東京エレクトロンホール宮城では、「宮城県芸術選奨受賞者作品展~みやぎ芸術銀河作品展~」に菊池聡太朗が出品していた。彼は志賀理江子のアシスタントをつとめたことがきっかけで、アーティストとしての活動を開始した研究室のOBである。そしてギャラリースペースがつくられた仙台フォーラスの7階では、やはりOBの吉川彰布が企画した国際コンペの結果を展示していた。彼は前述した塔がある集会所などを契機に、アーキテクチャー・フォー・ヒューマニティをサポートし、この組織が消滅した後は、防災と復興支援を行なう一般社団法人ヒトレン(AHA)を自ら立ち上げ、3.11から10年という節目に避難所を想定した「❒³LE(キュービクル):最低限のシェルター空間国際設計コンペ」を企画したのである。その結果、世界53ヶ国から114案が集まり、最終審査にのぞむ優秀8作品は、1/1の実物(2m角のキューブにおさまるヴォリュームが規定)によって制作・展示していた。てっきり会場はパネル展示のみだと思っていたので、木材や段ボールなどを使った力作のキューブが並ぶ風景は、なかなか見ごたえがある(佳作などは、パネル展示)。審査は、アストリッド・クラインや東北大学災害科学国際研究所のリズ・マリーらが担当し、最優秀賞には畠和宏らによる「ふだん木のまち」が選ばれた。



「宮城県芸術選奨受賞者作品展~みやぎ芸術銀河作品展~」展 菊池聡太朗の作品展示風景



「❒³LE(キュービクル):最低限のシェルター空間国際設計コンペ」展 会場風景



「❒³LE(キュービクル):最低限のシェルター空間国際設計コンペ」優秀作品



「❒³LE(キュービクル):最低限のシェルター空間国際設計コンペ」優秀作品



「❒³LE(キュービクル):最低限のシェルター空間国際設計コンペ」最優秀案

せんだいメディアテーク「みんなの家、後世へつなぐ復興」

会期:2022年1月24日(月)〜2022年1月26日(水)
会場:せんだいメディアテーク
(宮城県仙台市青葉区春日町2-1)

宮城県芸術選奨受賞者作品展

会期:2022年1月24日(月)〜2022年1月30日(日)
会場:東京エレクトロンホール宮城
(宮城県仙台市青葉区国分町3-3-7)

「❒³LE(キュービクル):最低限のシェルター空間国際設計コンペ」

会期:2022年1月15日(土)〜2022年1月27日(木)
会場:仙台フォーラス7階 even

2022/01/26(水)(五十嵐太郎)

小松一平《G町の立体廻廊》、銀閣寺ほか

[京都]

京都において、奈良を拠点とする小松一平が設計した《G町の立体廻廊》(2020)を見学した。これは築100年の大きな邸宅のリノベーションであり、直前まではアパートとして使われ、部屋が小割りになっていたのに対し、2階の床を抜いて、吹き抜けをつくり、1階レベルを多世帯家族のための共同の広いダイニング・キッチンのスペースに変えている。興味深いのは、1.5階レベルの裏庭から屋根の上にスチールパイプのブリッジを架け、2階の開口(あえてドアではなく、窓のようなデザイン)にアクセスし、そのままぐるりと吹き抜けのまわりを回転しながら、1階に降りていく動線を付加したこと。すなわち、木造の家屋に鉄の通路を貫通させることで、隣接しつつも、急な段差があるためにアクセスしづらかった裏庭とつなぎ、新しい動きをもたらしている。大胆なデザインだが、道路側のファサードは変化していない。以前、U-30の建築展において彼の作品を見たとき、擁壁を崩して建築化するプロジェクトが印象的だったが、ここでも高さの調整が主題になっている。小松による《あやめ池の家》(2015)でも、擁壁を操作しつつ、周辺環境との応答を試みた。



《G町の立体廻廊》



《G町の立体廻廊》


たまたま、この住宅の近くに銀閣寺があったので、10年以上ぶりに立ち寄った。肝心の二つの建物(《観音殿》と《東求堂》)の内部に入れないだけに、むしろくねくねと歩きながら、丘を登る広い境内を散策し、あちこちから眺めることで、日本建築にとっての庭の重要性をあらためて感じる。また以前はなかったと思う《観音殿》の色彩復元のモックアップ展示があり、やはり昔はカラフルで、いまの渋い、日本的な(?)感じとだいぶ違うのは興味深い。続いて南下し、庭と襖絵が有名でさまざまな天井の形式をもつ方丈の部屋のある《南禅寺》を訪れた。すぐ横にある明治期につくられたアーチが連なる《水路閣》(ローマの水道橋と同じ働きをする組積造)がカッコいい。禅宗の古建築と当時の最新土木インフラの対比は、首都高と日本橋より強烈かもしれない。それぞれの特性をさらに引き立てる異なる時代の共存、もしくは衝突は、《G町の立体廻廊》における木造家屋とスチールパイプの動線が想起される。



散策路から眺める銀閣寺


室町時代の銀閣彩色の再現



南禅寺



水路閣



水路閣


2022/01/24(月)(五十嵐太郎)

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