artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

伊吹拓 展「“ただなか”にいること」

会期:2013/03/15~2013/05/05

the three konohana[大阪府]

大阪市此花区にできた新しいギャラリー「the three konohana」の第一回目の展覧会として伊吹拓の個展が開催されていた。なによりも約10メートルあるというこの会場の壁面に展示された3点の大作が圧倒的な存在感と迫力だったのに吃驚。色彩やタッチなどその表現はこれまでに見た伊吹の作風とも異なるもので、作家の新たな挑戦とその気概を感じさせる力強さも印象的だった。大通りに面した窓辺には小作品が並び、奥にある6畳の和室では、会期中も加筆し続けられて変化しているという大作も。このギャラリーは独特の空間も活動コンセプトも興味深い。今後開催される展覧会へ足を運ぶのを楽しみにしている。




展示風景

2013/04/27(土)(酒井千穂)

「From Postwar to Postmodern, Art in Japan 1945-1989」出版記念イベント

会期:2013/04/26

国際交流基金JFICホール[さくら][東京都]

筆者も戦後日本住宅論のエッセイを寄稿した戦後日本美術史のアンソロジーである「From Postwar to Postmodern, Art in Japan 1945-1989」の出版記念イベントが開催され、1960年代のセッションにおいて、磯崎新とともに参加した。ここではネオダダ、学生運動、メタボリズムなど、都市に出ていくラディカリズムの時代がテーマになる。その後は李禹煥の興味深い回想、今年のヴェネチア・ビエンナーレ日本館の構想に関するトークなどが続く。筆者はコミッショナーを決める委員会のメンバーでもあり、決める側だったが、田中功起の展示がさらに楽しみになった。それにしても、こうしたアンソロジーが日本よりも先に海外で刊行されてしまうのは、どうしてなのだろう。

2013/04/26(金)(五十嵐太郎)

富山妙子「現代への黙示──9.11と3.11」

会期:2013/04/11~2013/05/19

東京アートミュージアム[東京都]

富山さんの文章は読んだことあるけど、作品をまとめて見るのはこれが初めてのこと。もう90歳を超えているんですね。炭坑問題をはじめ、従軍慰安婦、戦争責任、9.11同時多発テロ、そして3.11大震災による原発事故まで、一貫して社会問題をテーマに描いてきた。「蛭子と傀儡子・旅芸人の物語」シリーズは、9.11に端を発する戦争と劇場型社会を批判した油彩やコラージュ。とくに油彩は魚やクラゲの漂う海中のイメージで、そこにエビスさまや中国の仮面などが顔をのぞかせなんとも不気味。ちょっとジブリのアニメを思わせるシュールな世界だ。「現代の黙示・震災と原発」シリーズは3.11以降の騒動を表わしたもの。ここでは風神雷神やIC回路を比喩的に用いるほか、上半分が吹き飛んだ原子炉建屋をキーファーばりに描いた油彩もある。ほかにもチリの軍事クーデターや光州事件を扱ったシリーズも出ていたが、年代が近いのか山下菊二の「ルポルタージュ絵画」を彷彿させる作品もあった。もともとシュルレアリスムの影響が強いようだが、それを社会的テーマに結びつけることで独自のスタイルを生み出したのだろう。いま見れば、キッチュでアナクロなその画風がとても新鮮に映る。それにしてもコンクリート打ちっぱなしのこの「アートミュージアム」、こうした作品展示にはまったくふさわしくない。

2013/04/26(金)(村田真)

ニューシティー・アートフェアOSAKA

会期:2013/04/24~2013/04/28

阪急うめだ本店9階 阪急うめだギャラリー[大阪府]

日本の現代アートを紹介するアートフェアとして、ニューヨークや台北で行なわれてきた「ニューシティー・アートフェア」が、国内でも始動。東京、大阪、京都、金沢、札幌の17ギャラリーが出店し、それぞれのおすすめ作家たちの作品を展示・販売した。内容はオーソドックスなれど、交通至便な会場、ギャラリーや作家の質の高さなど、評価すべきイベントだったと思う。しかし、内容に比して反響が小さかったように思えるのはなぜか。その理由は広報の遅さ。ネットでの情報配信が主流となったいま、広報も直前の露出が増えている。しかし、広範な地域や人々に周知させたいなら、もっと早い時期からの広報が必要だ。また、百貨店でアートフェアを行なう以上、外商のお得意様を対象としたプレビューやパーティーなどは行なわれたのだろうか。私は真相を知らないので断言できないが、ちぐはぐな印象が拭えなかった。

2013/04/25(木)(小吹隆文)

口枷屋モイラ/村田タマ「少女ロイド」

会期:2013/04/17~2013/04/28

神保町画廊[東京都]

口枷を使ったフェティッシュな写真とオブジェの作品を発表してきた「口枷屋モイラ」と、写真家・村田兼一のモデルからスタートして、自分も「大人の童話」のような作品を制作し始めた村田タマによるコラボレーション展である。
「少女ロイド」というのは、「2XXX年、ゆるやかに滅びつつある世界でなき主人のインプットした情報により、2体のアンドロイドが想像で“女子高生”の日常を演じるというSFストーリー」を元にしたシリーズだ。いかにもありがちな設定に思えるが、彼女たちはいたって真剣。豊富なアイディアを、玉手箱を開けるように次々にイメージ化してみせてくれる。特に、写真といろいろなオブジェを箱額に一緒におさめた作品がうまくいっていると思う。1980年代生まれの彼女たちにとって、コスチュームを身につけ、何かのストーリーを演じるという行為が、まったく特別なものではなく、日常の延長で軽々と成し遂げられるものであることがよくわかる。その無理のなさ、屈託のなさはやや拍子抜けしてしまうほどのものだ。
とはいえ、この「少女ロイド」の世界には、単なる絵空事ではない切実さがあるように思えてならない。「2XXX年、人類は緩やかに滅んでいった。人類の現象に伴い、学校や社会は機能しなくなった」という彼女たちが考えた舞台設定が、この国では決して現実からかけ離れたものではないことを、彼女たちもわれわれ観客も身に染みて実感しているからだろう。この二人のコラボレーション、一回で終わらせるのはもったいない気がする。「少女ロイド」の続編でも、新作でもいいから、あと何回か続けていってほしいものだ。

2013/04/25(木)(飯沢耕太郎)