artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

LOVE展──アートにみる愛のかたち

会期:2013/04/26~2013/09/01

森美術館[東京都]

地下鉄日比谷線の吊り広告にジェフ・クーンズのパクリを発見! と思ったら、六本木ヒルズ10周年の広告で、その記念として開かれる森美術館の「LOVE展」の出品作品、つまりホンモノだった。広告をアートに採り込んだジェフくんの作品を再び広告に利用するとは、さすが森美術館もしたたかっつーか、なんかタヌキとキツネの化かし合いのような気がしないでもない。さて、「ラヴ」といえば恋愛から家族愛、郷土愛、人類愛、そしてセックス、心中、別れまで含めてこれまでつくられた美術品の大半、とはいわないまでも2~3割は「愛」がテーマだといえるのではないか。極端な話なんでも「愛」に結びつけることができるし。だから第1章では広告にも使われたジェフ・クーンズをはじめ、デミアン・ハースト、ジム・ダインらのハート形の作品や、ロバート・インディアナやバーバラ・クルーガーらの「LOVE」の文字を使った作品を集めて、いかにも「LOVE」らしさを強調しなければならなかったのだ。まあテーマなんかどうでもいいわけで、問題はどれだけいい作品と出会えるかだ。おとぎ話に秘められたエロスを刺繍で表現したチャン・エンツー、白人女に迫られコンドームを手にする日本男児を浮世絵風に描いた寺岡政美の《1,000個のコンドームの物語/メイツ》、ラブドールを使ったローリー・シモンズの写真などは優れた選択だと思うし、ジョン・コンスタブル、デ・キリコ、フランシス・ピカビア、フリーダ・カーロ、デイヴィッド・ホックニーらの「古典的絵画」もこんなところで見られるとは思わなかった。別れた男に復讐するTANYの映像《昔の男に捧げる》を見ていたら、横に主演の会田誠が立っていたのも森美術館のオープニングならではのこと。さて、開館記念展が「HAPINESS」、10周年が「LOVE」と来たら、20周年は「PEACE」か、それとも「DEATH」か。まあそれまで美術館が存続していることを祈りたい。ぼくもそれまで生きていたいデス。

2013/04/25(木)(村田真)

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サイモン・フジワラ

会期:2013/03/29~2013/04/27

タロウナス[東京都]

なにやら高そうなコース料理の写真と英語のレシピが貼り出され、足下に建築の設計図が置いてある。嫌だなこういう思わせぶりのインスタレーションは。と思いつつ奥の部屋に行くと、バーの一部が再現され、カウンターの上に英語のメモが置かれている。メモを読むと、1968年8月8日に男女が出会い、このバーで親しく語らったようだ。もういちど前の部屋に戻って設計図を見直すと、それは旧帝国ホテルの図面で、その日の男女の行動が時間軸に沿って糸で跡づけてある。それによると、男は日本人のバンドマスター、女は白人のダンサーで、ふたりは45年前の夏の夜、帝国ホテルのショーで出会い、バーで飲み、一緒に部屋に泊まったらしい。その行動が何時何分という分刻みで記されているのだ。サイモン・フジワラは日本人の父とイギリス人の母をもつハーフなので、これは両親の出会った1日を克明に再現しようとしたものだろう。あるいは架空の物語かもしれないが、いずれにせよここまで細かく示されると、若き日の両親の艶かしい情景まで浮かんできてなにやら切ない気分に襲われる。最初の印象を裏切って、まるで映画1本見たような気分で帰れた。

2013/04/25(木)(村田真)

松江泰治『jp0205』

発行所:青幻舎

発行日:2013年03月15日

以前の松江泰治の写真集は、地表や都市を一定の距離を置いて撮影したモノクローム写真を素っ気なく並べただけだった。だが、2000年代以降、そのあり方が大きく変わってきている。一作ごとにスタイルを変え、遊び心、サービス精神が発揮されるものになっているのだ。この『jp0205』も、ページをめくっていくたびに、目の前にあらわれてくる眺めを追うだけで実に愉しい。
本作は2006年に刊行された『jp-22』(大和ラヂヱーター製作所)の続編にあたるもので、静岡県を舞台にした前作に続いて青森県(jp-02)と秋田県(jp-05)の各地を空撮している。写真集の解説の清水穣の文章(「無限遠と絶対ピント──松江泰治の空撮写真」)の言葉を借りれば、「晴天、順光、低空、真正面、絶対ピントという五つの条件を全て満たしうる」本作は、「jp」シリーズにおける松江のスタイルが、完全に確立したことを示している。その最大の見所は、彼が試行錯誤の末に見出した絶妙な視点の取り方によって、それぞれの土地の原像とでも言うべきものが鮮やかに立ち上がってくることだ。秋田県象潟の水田の風景は、雨期になると日本の農村の地表が水の膜によって覆い尽くされることを示す。あらゆる場所に点在する春の桜のピンク色の塊、小さな矩形の石がちらばっているような墓地も日本独特の眺めだろう。三内丸山の縄文遺跡と石油コンビナートが、共通の構造を持つように見えるのも面白い。一枚一枚の写真から発見の歓びが伝わってくる。こうなると最終的な目標は、47都道府県すべての「jp」シリーズがそろうということになるのだろうか。

2013/04/24(水)(飯沢耕太郎)

レオナルド・ダ・ヴィンチ展──天才の肖像

会期:2013/04/23~2013/06/30

東京都美術館[東京都]

上野ではラファエロ(国立西洋美術館)に続いてレオナルドの作品も見られる。なんとゼータクな。でも昨年も「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」やったけど、記憶に薄いなあ。覚えてるのは裸のモナ・リザが来ていたことくらいだ。今回もレオナルドの油彩は《音楽家の肖像》1点のみで、あとは素描とメモの「アトランティコ手稿」22葉と周辺の画家の作品。もちろんこれだけ来るのも大変なもんだが、しかし「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」という看板の重さに比してインパクトは弱い。これまで何度かレオナルドの作品がやって来たけど、それらを集めてひとつの展覧会にしたらかなりイケるんじゃないか。《モナ・リザ》をはじめ、《白貂を抱く貴婦人》《受胎告知》《ほつれ髪の女性》《音楽家の肖像》、そして数々の手稿類。これらが一堂に会せば「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」の名に恥じないけど、たぶんその規模はルーヴル美術館を除くほかのすべての国のすべての美術館でも不可能でしょうね。

2013/04/22(月)(村田真)

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梅佳代 展

会期:2013/04/13~2013/06/23

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

梅佳代が東京オペラシティアートギャラリーで個展を開催すると知って、ちょっと心配になった。彼女の、時々画面の右下に日付の表示が入っているようなスナップショットは、雑誌や小型サイズの写真集なら目に快く飛び込んでくるが、あの天井が高く広い会場にはうまくおさまらないのではないかと危惧したのだ。ところが、実際に展示を見て、その不安は見事に吹き飛ばされた。梅佳代の写真から伝わってくる生命力の波動は、写真を大きくプリントしようが、額縁におさめようが、変わりがないどころかさらにパワーアップしているようにすら感じられたのだ。会場全体のアートディレクションを担当したグラフィック・デザイナーの祖父江慎の力量もあるだろうが(カタログも素晴らしい出来栄えだ)、彼女の写真にもともと備わっている「巻き込み力」の強さをあらためて思い知らされた。
展示全体は「シャッターチャンスPart1」「女子中学生」「能登」「じいちゃんさま」「男子」「シャッターチャンスPart2」の6部、約390点で構成されている。2001年にキヤノン写真新世紀で佳作を受賞した「女子中学生」のあっけらかんとした野放図なカメラワークにも度肝を抜かれたが、今後の彼女を占ううえで重要なのは、現在も撮り続けている「能登」シリーズ(新潮社から写真集『のと』も刊行)ではないだろうか。生まれ育った石川県能都町、そこに住む家族と故郷の人々を愛おしさと批評的な距離感を絶妙にブレンドして撮り続けているこの連作は、梅佳代にとってライフワークとなるべきものだろう。だがそれだけではなく、地域社会と写真家との関係のあり方を、志賀理江子などとは別な形で切り拓きつつあるのではないだろうか。写真を目の前にして対話の輪が生まれ、それが周囲を巻き込みながら波紋のように広がっていく、そんな楽しい未来図が予測できそうな写真群だ。

2013/04/21(日)(飯沢耕太郎)