artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
横尾忠則 葬館@豊島へ
会期:2012/09/07~2012/10/08
SCAI THE BATHHOUSE[東京都]
アーティストにとって「老い」とは何なのだろうか。横尾忠則の同ギャラリーでの4年ぶりとなる個展を見て、思わず考えてしまった。なぜなら、横尾の新作には、以前にも増して、老いてなおますます盛んな創作意欲が明らかにみなぎっていたからだ。むろんY字路のシリーズに不穏な雰囲気がないわけではない。けれども描写された絵の根底には、それをはるかに凌駕して絵を描く喜びが充溢していた。展示されたすべての絵は、それぞれ巧妙に描き分けられている。ただ、その絵の向こう側には、嬉々として絵筆を振るう横尾の同じ姿がたしかに感じられるのだ。画家としての爛熟、いやいや、むしろ画狂と言うべきなのか。やがてどんな画境に到達するのか、今後がますます楽しみである。
2012/09/29(土)(福住廉)
TOKYO PHOTO 2012

会期:2012/09/28~2012/10/01
東京ミッドタウンホール[東京都]
4回目を迎えたTOKYO PHOTO。昨年は震災の影響もあって、やや盛り上がりを欠いたのだが、今年は会場の規模も2倍あまりにふくらみ、60あまりのブースで意欲的な展示を見ることができた。写真作品を中心としたアートフェアとして、ほぼ定着したといえるのではないだろうか。
今年の特徴は、タカ・イシイ・ギャラリー、小山登美男ギャラリー、TARO NASU、ツァイト・フォト・サロン、プォト・ギャラリー・インターナショナルなど、日本を代現するギャラリーだけでなく、ガゴシアン・ギャラリー(ニューヨーク、ロンドン、パリ等)、カメラ・ワーク(ベルリン)、ギャルリー・ヴュ(パリ)、マイケル・ホッペン・ギャラリー(ロンドン)、ギャルリー・カメラオブスクラ(パリ)、マグダ・ダニス・ギャラリー(上海)など、アメリカ、ヨーロッパ、アジアのギャラリーも多数参加するようになってきていることだ。すでに写真作品の市場価値が確立している欧米でも、日本の写真の状況への関心が高まっていることのあらわれといえる。ほかにも青幻舎、蔦屋書店、リブロアルテ、SUPER LABOなど、写真集を中心に販売しているブースがあり、石元泰博追悼展、中国・北京の三影堂写真芸術センターの選抜展、エール・フランスの秘蔵写真のコレクション展なども、会場内で開催された。若い層を中心に、観客もかなりたくさん入っているようだった。
問題は、実際に作品が売れているかどうかだが、「昨年よりはまし。だがやはり厳しい」という声がいろいろなギャラリーから聞こえてきた。総じて、すでに評価の高いクラシックな作品にくらべて、現代作家の作品はどうしても動きが鈍いようだ。日本に写真のマーケットを確立しようという主催者側の意気込みは充分に伝わってくる。観客の意識がもう少しポジティブに変わってくることが必要になるだろう。
2012/09/29(土)(飯沢耕太郎)
神戸アートマルシェ2012

会期:2012/09/28~2012/09/30
現在関西では毎年京阪神でアートフェアが開催されており、一見盛況を感じさせるものの供給過剰も囁かれている。「神戸アートマルシェ(以下、KAM)」は3つのフェアのなかで最も小規模だ。しかし、今年のKAMを観賞して、地方発の小規模アートフェアのサバイバルについて考えさせられた。KAMの選択は地元密着である。KAMでは画廊だけでなく、地元兵庫県の丹波焼の若手有志や神戸芸術工科大学の参加を受け入れている。また、販売の中心価格帯は10万円以下で、裕福なコレクターでなくても手の届く作品が多かった。主催者はKAMを、神戸に現代アートのマーケットをつくるための種まきと位置付けており、参加画廊も背伸びをしていない。この堅実な姿勢には好感が持てたし、他のアートフェア主催者にも参考になるのではないか。
2012/09/28(金)(小吹隆文)
リー・ミンウェイ展「澄・微」

会期:2012/08/28~2012/10/21
資生堂ギャラリー[東京都]
台湾生まれ、アメリカで美術を学んだアーティストによる個展。大きなギャラリーには、縁台の上にヒモで結んだ木箱が16点置かれている。縁台に上がり、ヒモを解いてフタを開けると着物がたたんである。公募で集めた布製品を、それにまつわる思い出とともに収めたもの。これは、母の縫った上着を着ることで幼稚園に行く勇気が出たという作者の幼いころの思い出が発想の原点になっているらしい。小さいギャラリーには小屋を建て、なかに机と筆記具を置き、観客が思いを伝えたい相手に手紙を書けるようにしている。封をしない手紙は壁のラックに差し込んでおけば別の観客に読んでもらえるし、宛先を書いて封をした手紙はスタッフに渡せば投函してもらうことができる仕組み。どちらもひと昔前に流行した観客参加型のコミュニケーションアートといえるが、まだこういうことやってるアーティストがいるんだあというのが正直な感想。古い新しいはともかくとして、ぼくは参加したいとは思わないなあ。他人の思い出がつまった布製品なんて興味ないし、画廊回りの途中でだれかに手紙を書きたいとも思わないし。まあ個人の好きずきですが。
2012/09/28(金)(村田真)
小村希史「新作絵画2012」

会期:2012/09/04~2012/09/29
メグミオギタギャラリー[東京都]
ブラッシュストロークを生かした人物画で知られる小村の新作展。今回はリアルな描写とブラッシュストロークの対比を強調したり、たとえば馬の顔や足を半分消して描いたり、絵画的というより映像的になった印象だ。ウルトラセブンや仮面ライダー(の仮面)をモチーフにしたかと思えば、ゲルハルト・リヒターみたいに画像を筆でぼかした作品もあり、バリエーションが増えたというか、表現の振幅が膨らんでいる気がする。
2012/09/28(金)(村田真)


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