artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

秋山正仁 展

会期:2012/10/01~2012/10/06

Gallery K[東京都]

会場に広がっていたのは、3つの壁面にまたがる長大な絵画。絵巻物のように右側から左側に向かって時間軸が貫かれ、それに沿って山河や建物、戦車、戦闘機などが精緻に描かれている。
驚くべきなのは、それらをすべて色鉛筆だけで描写していること。そこに費やされた膨大な時間にめまいを覚えるが、色鉛筆の目覚しい色彩にたちまち覚醒させられる。しかも、すべての図像にはそれぞれアラベスク模様のような細かい文様が重ねられているため、図像と模様がわずかに反発しあい、不思議な視覚効果を生んでいるのである。図像を把握することが著しく難しいわけではないにせよ、模様の外形を眼で追っていってはじめて図像が浮かび上がることがある。つまり、見れば見るほど、何かしら発見が期待できるのだ。
秋山の色鉛筆画は、平面性を追究してきたモダニズム絵画が禁欲的に封じてきた、絵を見る愉しみを素直に提供している。そこに、ゼロ年代以後の現代絵画の大きな特徴をはっきりと見出すことかできる。

2012/10/05(金)(福住廉)

ニュイ・ブランシュ KYOTO 2012

会期:2012/10/05

京都国際マンガミュージアム、アンスティチュ・フランセ関西、ヴィラ九条山、吉田神社、京都芸術センター、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、地下鉄烏丸御池駅、常林寺、京都市内のギャラリー[京都府]

「ニュイ・ブランシュ」とは、フランス・パリで毎年10月の第1土曜日夜から翌朝にかけて行なわれる現代美術の祭典のこと。その京都版として昨年から始まったのが、この「ニュイ・ブランシュ KYOTO」だ。今年は、美術館、画廊、アートセンター、駅、寺社など17会場がエントリー。規模の大きさは本家と比べるまでもないが、昨年の4会場と比べたら大幅な拡大だ。正直、会場を訪れるまでは一種の外国かぶれと思っていた筆者だが、いざ出かけてみると、平日夜の画廊に多くの人が訪れている様子を見て評価が変わった。普段はアートとの接点が少なそうな人たちも大勢来ていたし、あちこちで自然と歓談の輪が広がっていたからだ。予算や運営面等の裏事情は知らないが、きちんと育てればきっと風物詩的なイベントになるだろう。他エリアでも真似をしたらいいと思う。

2012/10/05(金)(小吹隆文)

material/domain 須藤圭太「ようこそ、注文の多い食器店へ」展

会期:2012/10/02~2012/10/07

Antenna Media[京都府]

須藤は陶芸家だが、器を大量生産したり、自分の世界に固執するようなことはしない。顧客から発注を受け、コミュニケーションを重ねたうえで、求めに応じた器を必要な数だけ提供するのだ。つまり食器のオーダーメイドである。本展ではそのようにしてつくられた器と、作品ごとの仕様書(病院のカルテのようなもの)、器の木型、形状サンプル、色見本、それら一式を収納するケースが展示された。一昔前までは、このような仕事が許されるのは一部の巨匠だけだったに違いない。しかし現代では、通信技術の発達により口コミの広がりやスピードがかつてない程進化している。質の高い仕事を地道に続ければ広範囲に噂が広がり、年齢・居住地・所属の如何を問わずプロの陶芸家として成立する可能性が生まれているのだ。彼の活動は、これまでの陶芸家像や職人像を覆す可能性を秘めている。今後の展開に注目したい。

2012/10/05(火)(小吹隆文)

田中一光とデザインの前後左右

会期:2012/09/21~2013/01/20

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

21_21はいつもあっさりとした展示が多いが、今回の「田中一光とデザインの前後左右」展は豊富な資料を揃えた濃密な内容だった。彼が具体美術と吉原治良の影響を受けていたことを知る。また、とくにブックデザインの紹介が楽しい。かたちがなくなる情報化時代を迎えたことで、改めて文字と写真が本というモノとしてパッケージ化されていたことを強く再認識した。会場構成とデザインは弟子の廣村正彰が担当している。

2012/10/04(水)(五十嵐太郎)

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操上和美「時のポートレイト」

会期:2012/09/29~2012/12/02

東京都写真美術館 2階展示室[東京都]

操上和美は言うまでもなく、1960年代から日本の写真界の最前線で活動してきたひとりである。広告や雑誌の仕事だけでなく、コマーシャルフィルムの制作にも積極的に取り組み、2008年には初監督作品の映画『ゼラチンシルバーLOVE』も発表した。だが、50年あまりプロフェッショナルな映像作家として活動を続けながら、彼はむしろ自分自身のための写真の撮影にこそ情熱を傾けてきたのではないか。今回、東京都写真美術館で開催された「時のポートレイト」展には、それら日々の「眼の鍛錬の記録」と言うべき写真群がずらりと並んでいた。
展示されていたのは「陽と骨」「NORTHERN」の2シリーズ。1970年代からトイカメラを使って撮影されている「陽と骨」は、粗い粒子、コントラストの強いモノクロームの画像で日常の断片を切りとっている。「NORTHERN」は、1994年の父親の死をきっかけに、故郷の北海道を集中的に撮影した写真群で、92年と94年のロバート・フランクとの旅の写真も含まれている。両者に共通するのは、光と影の交錯、生と死の気配、現実と夢の境界領域などに鋭敏に反応する、まぎれもなく写真家特有の研ぎ澄まされた生理感覚と言うべきものだ。操上の仕事の写真は、クライアントの要求に充分に応える職人的なプロフェッショナリズムの産物と言えるが、これらのシリーズでは、あくまでも自分の見方に固執し続けている。その頑固な姿勢は潔いほどであり、仕切りを全部取り払って、周囲の壁にゆったりと作品を配置した会場構成にも、「これしかない」という揺るぎない確信を感じとることができた。

2012/10/04(木)(飯沢耕太郎)

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