artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
現代郷土作家展 吉本直子・久保健史・浅田暢夫

会期:2012/09/13~2012/10/21
姫路市立美術館[兵庫県]
姫路を中心とした播磨エリア出身の作家に出品を依頼し、美術館と作家が相互協力してつくり上げるのが特徴の本展。近年は隔年で開催されており、今年は、シャツを用いた立体やインスタレーションを制作する吉本直子、大理石の彫刻によるインスタレーションで知られる久保健史、水面ぎりぎりから撮影した海の写真などで知られる浅田暢夫の3名が選ばれた。展示はそれぞれ対照的で、浅田は同一サイズのプリントを一直線に並べ、吉本は立体とインスタレーションと原発事故の作業員が着用する防護服(同一の物かは不明)に刺繍をほどこした作品を出品、久保は展示室内にアトリエを移設し、彫刻と私物が混在するインスタレーションで自分自身の美意識を造形化した。三者三様の美学が見て取れる質の高い展示に満足するのと同時に、関西の他の美術館でも地元作家が活躍できる場を増やすべきだと痛感した。
2012/10/14(日)(小吹隆文)
宮永愛子 なかそら─空中空─

会期:2012/10/13~2012/12/24
国立国際美術館[大阪府]
ナフタリンを素材にした、時と共に形状が移ろう作品で知られる宮永愛子が、大規模な個展を大阪で行なっている。大きく4セクションに分かれた会場には、6点の作品が配置されている。導入部では、全長約18メートルのケースにさまざまな日常用具からかたどったナフタリンのオブジェが並び、その隣には天井まで伸びた糸のはしごがある(はしごには時間の経過と共にナフタリンが付着する)。次の部屋には樹脂の立方体に閉じ込められたナフタリンの椅子のオブジェがあり、さらに進むと沢山の柱が並ぶ空間(柱は本物とフェイクが混在している)にはしごとナフタリンの蝶のオブジェを配した広大な暗室が。その暗がりを通り抜けると薄明るい広間に出て、そこには金木犀の葉脈を素材にした全長約33メートルの布地のような大作と、20リットルの海水などを素材にしたもう1点の作品がたたずんでいた。特定のストーリーが示されているわけではないが、観客は会場をめぐるうちに一編の物語を読んでいるかのような感興に浸される。完成度の高い作品と、細部まで緻密に計算された空間による、見事な個展であった。
2012/10/13(土)(小吹隆文)
日本の70年代 1968-1982

会期:2012/09/15~2012/11/11
埼玉県立近代美術館[埼玉県]
埼玉県立近代美術館の「日本の70年代 1968-1982」展を見る。大阪万博や寺山修司の熱気から、ビックリハウスやこの美術館の誕生まで、横断的に文化を展示したものだ。それゆえ、黒川紀章の向かいが、サディスティック・ミカ・バンド!という部屋もある。なお、美術館の公園に移築された《中銀カプセルタワー》のユニットも同時代の産物だ。
2012/10/12(金)(五十嵐太郎)
リヒテンシュタイン──華麗なる侯爵家の秘宝

会期:2012/10/03~2012/12/23
国立新美術館[東京都]
展示室に入ると円柱とアーチがしつらえてあり、ちょっと宮廷の気分。もう少し進むと、壁も天井もバロック調に装飾された大部屋に出る。おお、これは安っぽいながらもいい感じ。きっとこんな部屋で王侯貴族どもは芸術を楽しんでいたに違いない。壁には絵画のほか装飾ゴテゴテの鏡やタペストリーが掛けられ、床にはテーブル、キャビネット、彫刻が置かれ、なんと天井にも楕円形の絵が4点はめられているではないすか。展覧会で天井に絵を飾るというのはあまり聞いたことがない。ディスプレイばかりに気をとられているが、作品もすばらしいのが来ている。クエンティン・マセイス《徴税吏たち》やクリストファーノ・アッローリ《ホロフェルネスの首を持つユディト》は、数ある同主題の絵のなかでも優品だと思うし、ブリューゲルの数点の作品はコピーとはいえ貴重なもの。しかしなんといっても圧巻なのはルーベンス。幅4メートルを超す《占いの結果を問うデキウス・ムス》をはじめ大作が4点も。額縁も絢爛豪華で、ゴテゴテの装飾が60センチくらい突き出してる額もある。これどうやって運んだんだろう。でも大作もいいが、ルーベンスの技巧を味わうには小品や下絵がいちばん。なぜなら弟子の手が入ってないし、本人の筆の勢いが直に感じられるからだ。とくにチラシやポスターにもなった《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》のような家族の肖像は、プライベートなものだけにひしひしと伝わってくるものがある。いやー満足。
2012/10/12(金)(村田真)
日本の70年代 1968-1982

会期:2012/09/15~2012/11/11
埼玉県立近代美術館[埼玉県]
同館の開館30周年を記念した展覧会。70年代の文化芸術を68年から82年までに及ぶ現象としてとらえ、美術・出版・演劇・舞踏・映画・文学など多様なジャンルの作品から振り返った。
いうまでもなく、この時代を象徴するのは雑誌をはじめとする紙媒体の隆盛である。展示の中心も、その誌面を彩っていたアートやデザイン、写真に置かれていたが、その迫力は今もってなお瑞々しい。あらゆる知識や情報をネットという手の触れることのできない空間に非物質化している現在から見ると、それらはある種のユートピアにすら思える。
だが、この展覧会の白眉は、むしろ展覧会の最後にいかにも取って付けたかのように展示されていた大量のスナップ写真であるように思われる。それらは一般から募った家族写真で、おおむね70年代に撮影されたものだ。きわめてプライヴェートな写真ばかりだから、退屈といえば退屈である。それまでの華やかな作品群とのつながりも、特にない。
けれども、そこに写し出されている個人的な歴史や風俗、文化を立て続けに見ていくと、それらこそが歴史の根底を形成していることに気づかされる。美術や文化の歴史は、そのような無名の人びとによる歴史があってはじめて成り立つものである。美術であろうとなかろうと、多くの専門家はこの厳然たる事実を忘れがちだが、本展は観覧者の眼を歴史の底流に向けさせたという点で、高く評価できる。
今後は、双方を還流する歴史の語り方が待望されるのではないだろうか。
2012/10/12(金)(福住廉)


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