artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
写真の現在4 そのときの光、そのさきの風

会期:2012/06/01~2012/07/29
東京国立近代美術館 ギャラリー4[東京都]
案内状などで展覧会の出品者の顔ぶれを見て、これくらいの展示だろうと値踏みをする。その予想はあまり外れないのだが、この展覧会は違っていた。どちらかといえば地味な作品を発現する写真家が多いし、展示そのものもたしかに派手ではないのだが、いぶし銀の輝きを発する充実した内容だったのだ。おそらく有元伸也、本山周平、中村綾緒、村越としや、新井卓という5人の写真家たちの作品世界が、共鳴しつつ、互いに相乗効果を発揮して絶妙のアンサンブルを奏でたということだろう。
展示のポイントは2つある。ひとつは新井を除いた4人が、いわゆる自主運営ギャラリーを拠点として写真作家としての活動を開始し、現在でもそれを継続している者が多いということだ。有元は四谷でTOTEM POLE GALLERYを運営し、本山と中村は新宿のphotographers' galleryのメンバーだった。そして村越は2009年、清澄白河にTAPギャラリーを立ち上げ、現在もそこで精力的に作品を発表している。新井のみが自主運営ギャラリーとは直接かかわりがないが、彼のダゲレオタイプという19世紀の古典技法への強いこだわりをみると、自分たちの独立した場を確保して展示活動を行なうという自主運営ギャラリーの精神を共有しているようにも思えてくる。
もうひとつは、出品作家が展示作品を制作、あるいは決定していった時期が、ちょうど「3.11」と重なりあっていたということだ。村越は福島県須賀川市の出身であり、中村は仙台に実家がある。新井卓の近作の大判ダゲレオタイプ作品は、東北の太平洋沿岸の被災地で撮影されたものだ。有元や本山も、震災を契機に自らの写真のスタイルを見直し、変えていこうとしている。この2つの要素がうまく絡み合い、写真家たちが覚悟を決めて展覧会に臨んだことが、緊張度の高い展示を実現できた最大の理由だろう。どの写真家の展示もベスト・パフォーマンスといってよい出来栄えだったが、特に本山周平が沖縄中城城跡公園で撮影した200カットを撮影順に展示した、「世界I」(2005年)の突き抜けたインスタレーションが印象に残った。
2012/06/02(土)(飯沢耕太郎)
花岡伸宏「回帰:recurrence」

会期:2012/06/02~2012/06/17
Gallery PARC[京都府]
まるで無関係なモチーフや素材を合体させた彫刻作品で、常識が通用しない“意味の真空地帯”を味わわせてくれる花岡伸宏。本展では、新作3点と近作6点が展示され、近年の彼の志向がうかがえる構成となっていた。花岡の以前の作品には、人物像の肩が脱臼していたり、円筒形のご飯の塊が木を突き抜けるなど、特徴的なパターンが見られた。しかし、新作には純然たる木彫作品もある。どうやら彼は新たな領域へ踏み込もうとしているようだ。展覧会タイトルの「回帰」が何を表わしているのか、次の個展を見ればその答えが明らかになるだろう。
2012/06/02(土)(小吹隆文)
川北ゆう個展 はるか遠くのつぶ

会期:2012/06/01~2012/06/30
eN arts[京都府]
川北といえば、水溶性シートに線画を描き、水をたっぷり沁み込ませたキャンバスに貼ることで、崩壊しながら定着する様を見せる平面作品が思い出される。本展でもそうした作品が出品されたが、同時にまったく新しいタイプの新作も披露された。それらは浅く水を張った水槽にタイルを沈め、水面にインクを垂らすと比重の重いインクが沈み、タイルの上に風紋を思わせる繊細な模様が描き出されるというものだ。どちらも水の性質を利用した作品ながら、イメージはまったく異なる。それでいて非常に魅力的だ。川北の表現に新たな方向性が加わったことを素直に嬉しく思う。今後の活躍がますます楽しみだ。
2012/06/02(土)(小吹隆文)
TRACK──西野達《ホテル ゲント》ほか

会期:2012/05/12~2012/09/16
シタデル公園周辺、ゲント大学周辺、旧市街中心部、トルハウス、マチャリハウス、ガスメーター・サイト[ベルギー・ゲント]
ゲントへ。駅を出て振り返ると、時計塔が仮設構築物で囲まれ、宿泊可能なホテルになっている。これはTRACKの最大の目玉になっている、西野達の作品だ。彼らしく、都市でもっとも目立つランドマークを巧みに使っている。TRACKは、1カ所だけを会場としたマニフェスト9とは対照的に、街なか展開のアートプロジェクトだ。ほかにも集合住宅のユニットを縮小コピーした家をツリーハウスにしたり、教会内部に作品を設置したり、歴史のある空き家を不気味な空間に変えるマーク・マンダースのインスタレーションなど、さまざまな作品がある。現在は公園内の駅舎を再利用したS.M.A.Kが拠点になっているが、箱が先にあって街なか展開ではなく、むしろ順番が逆だという。
写真:上・中=西野達《ホテル ゲント》、下=ベンジャミン・ヴァードンクによるツリーハウス
2012/06/01(金)(五十嵐太郎)
横須賀功光 展

会期:2012/05/16~2012/07/21
エモン・フォトギャラリー[東京都]
横須賀功光(よこすか・のりあき)が2003年に亡くなってから、もう10年近くになる。彼は1937年の生まれだが、同世代の森山大道、中平卓馬、荒木経惟らが元気に仕事を続けているのと比較すると、60歳代の死去はやはり早すぎたという思いが拭えない。その意味で今回の展覧会のように、彼の1970~80年代の代表作をあらためて見直す機会を持つのはとてもいいことだと思う。こんな写真家がいたということを、記憶にも記録にも留めておきたいからだ。
今回の展示作品は「壁」(1972年)と「光銀事件」(1989年)の2つのシリーズ。特に裸体の男女がコンクリートの壁の前でパフォーマンスを繰り広げる「壁」は、あらためて見て、ぴんと張りつめた緊張感が漂ういい作品だと思った。この頃の横須賀は、広告・ファッションの世界で次々とヒット作を連発する人気写真家だったが、一方でこの「壁」のように、卓越したテクニックを駆使して人間の身体の極限状況を定着するようなプライヴェート・ワークにも果敢に取り組んでいた。このシリーズはニコンサロンでの個展「壁があった」で最初に発表され、「岩」「射」「城」「亜」など他の漢字一文字のタイトルを持つ作品とともに、山岸章二編集の写真集『射』(「映像の現代9」中央公論社、1972)におさめられる。今回は1500×1500ミリの大プリントに引き伸ばされて展示されていたが、そのことによって彼の緊密な画面構成と的確な演出力がよりくっきりと表われてきているように感じた。
1980年代の「光銀事件」になると、その緊張感はやや弛み、画面全体にふわふわと漂うような浮遊感が生じてきている。ソラリゼーションの効果を巧みに活かしながら、洗練されたエロティシズムの世界が織り上げられていくのだ。どちらを評価するかは好みが分かれそうだが、僕は「壁」の荒々しい実験意識により共感を覚えた。そこには同時代の森山大道や中平卓馬の「アレ・ブレ・ボケ」の写真に通じる、ざらついた空気感が漂っている。
2012/06/01(金)(飯沢耕太郎)


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