artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

植松奎二 展 軸─重力・反重力

会期:2012/05/26~2012/06/23

ギャラリーノマル[大阪府]

ベテラン作家の植松奎二が、1970年代から80年代初頭に集中的に制作していた木材とジャッキによるインスタレーションを再構成した。画像を見ると3本の木材に黄色い布地をくくりつけたように見えるが、実際は木材2本を縦に並べた状態×3であり、布地は木材の接続面に挟まれている。木材とジャッキが放つ剛性のテンション(push)と、布地の柔らかな曲線が醸し出す柔性のテンション(pull)の対比が美しい。また、紡錘形の鉄板を10枚積み上げた形の大作や、ドローイング、小品、記録映像も展示されていた。このような企画は本来美術館で行われるべきものだが、残念なことにいまの関西ではそうした企画はほとんど行なわれない。意義深い企画を実行した画廊に拍手を送りたい。

2012/05/26(土)(小吹隆文)

荒木経惟「過去・未来 写狂老人日記1979年-2040年」

会期:2012/05/25~2012/06/23

Taka Ishii Gallery[東京都]

荒木経惟が元気だ。このところ、以前にも増して精力的に写真集を刊行し、写真展を開催している。IZU PHOTO MUSEUMでも、これまで刊行した写真集450冊(!)あまりを一堂に会する「荒木経惟写真集展 アラーキー」(2012年3月11日〜7月29日)を開催中だ。72歳の誕生日のお祝いを兼ねた「過去・未来 写狂老人日記1979年-2040年」のオープニングにも、元気な姿を見せていた。2008年に前立腺癌の手術を受けて以来、お酒や肉を控え、健康に気を使うようになっているようだ。まだまだ、やりたいことがたくさんあるということだろう。
今回の個展に展示されているのは、お馴染みの「写狂老人日記」のシリーズ。だが、単純に近作を並べているだけでなく、その構成には工夫が凝らされている。「過去」のパートでは、1970〜90年代の日付入りモノクローム・プリントが並ぶ。『荒木経惟の偽日記』(1980)、『写狂人日記』(1992)などに収録された名作のオンパレードだが、あらためて見直してみると荒木の前を通過していった人、事、物の膨大な集積が、実に味わい深い各時代の見取り図を描いていることが見えてくる。
「未来」のパートは、6,000枚近いというカラー・ポジフィルムを、自ら鋏でカットし、並べ直した三面マルチ作品。巨大なテーブルに蛍光灯を仕組み、内側からフィルムを透過光で照らし出すようになっている。これだけの量、しかも小さな35ミリポジフィルムの群れを見続けていると、頭がクラクラしてくる。女、空、食事、花、バルコニー、そしてふたたび空──飽きもせず同じ被写体を撮り続けるエネルギーには驚嘆するしかないが、ここにもいかにも荒木らしい仕掛けが凝らされている。最後のあたり、日付入りコンパクトカメラで撮影されたカットの、その日付の表示が「2040」になっているのだ。2040年といえば、荒木が100歳の誕生日を迎える年。ぬけぬけと「未来の写真」まで展示しているわけだが、それがあながち冗談とも思えなくなってくる。100歳の荒木が、なおも淡々と「写狂老人日記」を撮り続けていそうな気もしてくるのだ。

写真:荒木経惟「過去・未来 写狂老人日記」2040年、35mm カラーポジフィルム
Courtesy of Taka Ishii Gallery

2012/05/25(金)(飯沢耕太郎)

安村崇「1/1」

会期:2012/05/13~2012/06/10

MISAKO & ROSEN[東京都]

安村崇のデビュー作「日常らしさ」(1999)はとても興味深いシリーズだった。彼の身の回りの日常の場面で見慣れた事物を、大判のカラーフィルムで精密に撮影・プリントする。ところが、それら蜜柑、ケーキ、ホッチキス、ホースなどは、あまりにも本物らしいがゆえに、逆にどこか偽物めいた雰囲気(「日常らしさ」)を露にし始めるのだ。視覚的に正確に撮影すればするほど、心理的な真実からは隔たってしまう──そんな写真特有の二律背反が見事な手際で暴かれていたといってもよい。
それから10年あまりが過ぎ、安村は淡々と、だが着実に写真の「見え方」の探求を続けていった。その成果がひさびさの新作として発表されたのが、今回のMISAKO & ROSENでの個展「1/1」である。壁に並んでいる11点の作品は、いわば「色面の研究」の成果といえる。赤、緑、青、黒など壁面、階段、柱などの一部が、抽象的なパターンとして切り取られて画面の中に配置されている。タイトルの「1/1」というのは、「現実とそれを表わしたものとの関係」ということのようだ。つまり、被写体と写真の画像がほぼ同じ大きさであるというだけではなく、「カメラを通したもうひとつの『1』」として定着されているのだ。奥行きのある三次元空間を捉えた「日常らしさ」とはかなり違っているようで、この一見平面的、装飾的なシリーズでも、安村のアプローチは一貫している。ここに浮かび上がってくる「色面」も、その微妙な陰影やテクスチャーへのこだわりによって、やはり「色面らしきもの」に置き換えられているのだ。
ただ、今のところ、その探求の道のりはまだ半ばであるように感じた。「日常らしさ」のような鮮やかなどんでん返しに至るまでには、もう少し別な(細やかな)操作が必要になってくるのかもしれない。

2012/05/25(金)(飯沢耕太郎)

國府理 展「水中エンジン」

会期:2012/05/22~2012/06/03

アートスペース虹[京都府]

画廊の展示室は巨大な白い水槽で占拠されていた。水槽には鎖で吊られ、多数のパイプやコードが接続された自動車のエンジンが沈められている。始動させると、くぐもった音を発しながら生き物のように蠢くエンジン。その姿は捉えられた未知の生物のようだ。また、福島第一原発の現状を暗喩していることは誰の眼にも明らかであろう。エンジンを水中に沈めるという荒業ゆえ、会期前半にはトラブルが頻発したが、後半には見事に持ち直して本来の姿を観客に見せることができた。昨年来、多くの美術家が原発事故にコミットした作品を発表してきたが、本作は私が見たなかでは最良の表現物である。

2012/05/24(火)(小吹隆文)

SSD 2012年度春学期 Interactiveレクチャー「境界線上のインテリアデザイン」♯1|SSDハウスレクチャー「倉俣史朗論」鈴木紀慶

会期:2012/05/24

阿部仁史アトリエ[宮城県]

せんだいスクールオブデザインにて、編集者の鈴木紀慶さんを招き、彼の手がけた2冊の倉俣史朗本をベースにレクチャーをしていただく。高松次郎や横尾忠則など、60年代におけるアートとのコラボレーションを行なったインテリア、ミニマリズム的な展開、カラフルでセンスあふれるポストモダン、後の建築界の動向に大きな影響を与えたであろう軽さと透明感への志向など、経験に頼らず、彼が新境地を開拓した軌跡/奇蹟を追う。

2012/05/24(木)(五十嵐太郎)