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美術に関するレビュー/プレビュー

館蔵品展 身体表現と日本近代美術「物語る身体」

会期:2012/05/12~2012/06/17

板橋区立美術館[東京都]

同館所蔵の日本近代美術の作品を身体表現というテーマのもとで見せる展覧会。秋山祐徳太子、阿部展也、井上長三郎、池田龍雄、中村宏らの作品や資料あわせて70点が展示された。身体を断片化した1930年代のシュルレアリスムから戦後の「肉体絵画」、そしてルポルタージュ絵画にいたるまで、同館の豊富なコレクションを物語る展観だ。身体表現という点でいえば、例えば黒ダライ児が『肉体のパフォーマンス』で解き明かした「反芸術パフォーマンス」が思い起こされる。むろんそのパフォーマンスそのものを保存することは不可能ではあるが、それらを記録した貴重な写真は、せめて公立美術館が収蔵するべきではないだろうか。同展が敷設した身体表現の系譜の先に、「反芸術パフォーマンス」が論理的に接続されることは誰の眼にも明らかだからだ。

2012/06/17(日)(福住廉)

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林ナツミ「本日の浮遊」

会期:2012/06/16~2012/07/29

MEM[東京都]

大ブレイクの予感を感じさせる写真展だった。6月16日に、僕と作者の林ナツミのトークイベントが開催されたのだが、雨模様にもかかわらずNADiff a/p/a/r/tIFの会場は超満員。林の写真への関心の高さを肌で感じることができた。彼女が「本日の浮遊」シリーズを、1年間の予定で自分のブログ「よわよわカメラウーマン日記」で公開しはじめたのは2011年1月1日だった。その「浮遊少女」のパフォーマンスは、特に海外で尻上がりに反響を呼び、台湾での写真展、写真集の刊行につながっていく。ブログやフェイスブックなど、これまでとはまったく違う回路で人気に火がついたというのは注目すべき現象だと思う。今回の個展の開催に続いて、7月には青幻舎から同名の写真集も刊行される予定だ。
林の写真の魅力は、撮影場所の設定から、実際の撮影、そしてプリントの選択、ブログへのアップに至るまでのプロセスを丁寧に、まったく手を抜かずにやっている所から来ているのだろう。1回の撮影で100回以上もジャンプすることもあるというから、体力がよく続くものだと感心してしまう。最初の頃は、まさに1日1枚のペースで発表していたのだが、あまりにも手間と時間がかかるので、自分のペースで制作することにして、現在は2011年6月の時点まで達しているのだという。なお、彼女はパフォーマンスに専念していて、シャッターを切っているのはパートナーの原久路である。「バルテュス絵画の考察」シリーズで、これまた内外の注目を集めている彼との共同作業も、「本日の浮遊」の大きな要素となっているのではないだろうか。まだ時間はかかりそうだが、ぜひ最後まで「浮遊」を全うし続けていってほしいものだ。

2012/06/16(土)(飯沢耕太郎)

新incubation4「ゆらめきとけゆく──児玉靖枝×中西哲治 展」

会期:2012/06/16~2012/07/13

京都芸術センター[京都府]

ベテランと若手が向き合い、互いに誘発し合うことをテーマにする企画展シリーズ「新incubation」の4回目。今回の出品作家は、ともに油画による表現を行なっている児玉靖枝と中西哲治。児玉は、2008年から2009年にかけての作品《気配─萌え木》《気配─芽吹き》《気配─萌黄》をはじめ、森の木々をモチーフにした2009年からの《深韻》シリーズ、海の光景や水面や水中を描いた《わたつみ》などを発表。中西は、工事現場やY字路など、ありふれた街かどの風景などを描いた13点の作品を展示。塗り重ねられた絵の具の色の深みと透明感にたたえられた児玉の作品は本当になにかが潜んでいるようで、画面の奥へ奥へと目が誘われる。逆に、中西の作品は充満するような湿度や埃っぽい空気、街中の喧噪の音を感じさせるもので、風景の既視感という記憶を刺激する。アプローチは違うがどちらも見応えのある描写力。

2012/06/16(土)(酒井千穂)

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北川雅光 展

会期:2012/06/12~2012/06/17

アートスペース虹[京都府]

自宅付近の空き地や庭などに群生する「雑草」をモチーフにした絵画作品を発表してきた北川雅光。日頃、気に留めることなどほとんどない身近な植物を丁寧に観察し、それぞれの葉が密集し生茂る様子を丹念に描き出したその作品は、これまでもおもに線描で表現され、図と地を分ける色や鮮やかな色彩などはほとんど使われていなかった。しかし今展には、赤い色面によって植物の輪郭をさらに際立たせる作品も並んでいていままでとは異なる雰囲気。画面全体には、これまでのように、密集する線から個々の(植物の)輪郭を探しだすような平坦な印象はなく、線が背景と図をはっきりと分けている。そのため植物の繁茂する様子もいっそう力強く、空間的な奥行きも感じられるのだが、ある作品には「雑草」の茂る風景のなかに無造作に転がったオブジェのような小さなモチーフも隠れていた。これが密やかで愉快。空間性に物語を喚起する時間性が加わり、見ていると想像も膨らむ。踏まれたり、雨風でなぎ倒されたりしながら生い茂る身近な植物への慈しみやその力強さを見つめる北川の眼差しもより感じられて新鮮だった。

2012/06/16(土)(酒井千穂)

笹川治子「case.A」

会期:2012/06/01~2012/06/17

Yoshimi Arts[大阪府]

ギャラリーに足を踏み入れると、防護服に身を固めた人の等身大写真や、汚れたコンピュータの端末やチューブでつながれた怪しげな機器類、原子力を想起させる「A」や核の記号が刻まれた金銀のメダルなどがところ狭しと並ぶ。一見、最近ありがちな反原発ネタかと思うが、そのわりに緊張感も悲壮感もなく、むしろちょっと間が抜けて楽しげですらある。たしかに防護服を着た人の写真はあるが、よく見ると顔は溶接工の使うマスクをつけてるだけで隙間だらけだし、チューブでつながれた機器類はたんなるハリボテでなんの用もなさない。メダルにいたっては厚さもまちまちな石膏製で、金と銀の塗料を塗ってあるだけのシロモノ。しかもそれらが雑然と置かれているのではなく、なんとなく等間隔に並べられているため、学芸会の発表のような場違いな楽しさを感じてしまうのだ。これは原発推進派はもちろん、反原発も脱原発もすべて相対化してしまう底意地の悪いインスタレーションではないか。

2012/06/16(土)(村田真)