artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
川内倫子「照度 あめつち 影を見る」

会期:2012/05/12~2012/07/16
東京都写真美術館 2階展示室[東京都]
明らかに川内倫子の写真の世界が変わった。大きく成長し、力強く翼を広げたその姿は目にまばゆいほどだ。むろん、1997年に第9回写真ひとつぼ展でグランプリを受賞してデビューした頃から、彼女の才能は際立っていたわけだし、その後も第27回木村伊兵衛写真賞受賞(2002)、ICPインフィニティ・アワード受賞(2009)と順調にキャリアを伸ばしてきた。だが、昨年日本とアメリカで同時刊行した写真集『ILLUMINANCE』(FOIL/Aperture)のあたりから、階梯がひとつ上がったように感じる。日本の写真という枠組みを超えて、彼女の仕事は、21世紀前半の世界の写真表現の最尖端の部分を担いつつあるのではないだろうか。
今回の展示は、「Illuminance」「Iridescence」「ある箱のなか」「あめつち」「影を見る」の5部構成。「うたたね」「Cui Cui」「AILA」そして「Illuminance」といった旧作を再構成した展示の前半部分も、見事なインスタレーション、巧みな編集の技を見ることができるのだが、やはり注目すべきなのは新作の「あめつち」と「影を見る」だろう。阿蘇山の野焼きの場面を中心に構成された「あめつち」では、初めて4×5判の大型カメラを使用して撮影している。川内の写真といえば6×6判の真四角な画面というイメージが強かったのだが、そこから大胆に、だがなんの気負いもなく新たなフォーマットに踏み出していった。そのことで、展示されているプリントの大きさはもちろんだが、内容的なスケール感が格段に違ってきている。まさに「あめつち」=天と地の境界にどっしりと大判カメラを据え付け、神話的、始源的な世界のイメージを捕獲しようする気魄が伝わってくるのだ。
もうひとつ注目してよいのは、その「あめつち」のシリーズだけでなく、イギリスの海岸に飛翔してくる渡り鳥の群れを捉えた「影を見る」、また「Illuminance」のパートにおいても、動画による映像作品が積極的に導入されていることだ。特に面白かったのは、2面マルチスクリーンで上映された「Illuminance」の映像である。撮影されている場面は、日常と非日常、生の世界と死の世界とを軽やかに往還する、いつもの川内の写真の被写体そのものだ。だが、時間の経過が映り込み、音(微かなノイズ)がかぶせられることで、彼女の微視的でありながら遥か彼方までも見通すことができる優れた視力と、そのスコープを精妙にコントロールしていく能力の高さが、さらに際立ってきているように感じた。川内は写真=静止画像という固定観念をも突き崩そうとしているのだろうか。
2012/05/17(木)(飯沢耕太郎)
マリンコング

会期:2012/05/11~2012/05/26
メグミオギタギャラリー[東京都]
1960年にテレビ放映された『怪獣マリンコング」をモチーフに、フランク・トランキナ、ニナ・リッツォ、廣江友和、大森準平らが競作した作品展。うーん、そういわれればそんな怪獣いたような……とぼくでさえ記憶があやふやなのに、もっと若いアーティストや海外のアーティストは知っているはずもなく、いったいどうすればいいのだ。いや、知らないからこそ勝手に想像をふくらませて描けるのかもしれない。実際、フランク・トランキナやニナ・リッツォの作品はノドから手が出そうなくらい魅力的でした。たぶんマリンコングじゃなくても魅力的な絵だと思うけど。
2012/05/17(木)(村田真)
レディ・ディオール・アズ・シーン・バイ

会期:2012/04/22~2012/05/20
和光並木館1F[東京都]
近ごろ有名ブランドショップが次々と現代美術に触手を伸ばしているが、同展はクリスチャン・ディオールの婦人用バッグ「レディ・ディオール」をモチーフに、立体、写真、映像などのコミッションワークを公開するもの。出品はブルース・ウェーバー、ナン・ゴールディン、デヴィッド・リンチらに加え、日本から名和晃平、鬼頭健吾、宮永愛子らが参加している。こういう場合、お調子者は商品をヨイショする作品をつくりがちだが、それではたんなる宣伝にしかならないし、主催者もそんなものを望んではいないだろう。だからといって商品を告発するような作品が歓迎されるはずもないが、しかしどこかで批評精神は保っていたいみたいな。そんな条件下でアーティストがどんな解を出すのかが見どころとなる。写真にはそのまま広告として使えそうな作品もあるが、たとえば、商品(レディ・ディオール)を片手に血を流して路上に横たわる女性を撮ったコートニー・ロイのようなキワドイ写真もある。立体にはもっと過激な作品もあって、半透明の樹脂製のバッグを銃で打ち抜いた瞬間をそのまま固めたようなオリンピア・スカリーの作品や、もともとワニ皮製だったのか、透明樹脂でかたどったバッグのなかにワニの頭蓋骨を入れたウェン・ファンの作品もあって、けっこうスリリング。
2012/05/17(木)(村田真)
傍嶋崇 展──オモイオモイオモウ

会期:2012/05/08~2012/05/29
第一生命南ギャラリー[東京都]
大作7点の展示。うち6点に人物らしきかたちが見えるけど、とても人物画とはいえない。絵具は全体に厚く色面として塗られているが、表面はフラットではなく刷毛の跡をくっきり残している。ところどころかいま見られる下地の赤やグレーが意外と効果的だ。キャンヴァス代と絵具代だけでン十万円はかかってそうな大作だが(最近そっちのほうが気になる)、それでいて重厚感を感じさせず、むしろ軽快でユーモアさえ感じられる点が最大の特徴だろう。
2012/05/17(木)(村田真)
アートアワードトーキョー丸の内2012

会期:2012/04/28~2012/05/27
行幸地下ギャラリー[東京都]
全国の美大の卒業・修了制作展から選ばれた30人が出品。うち東京藝大が半数近い14人を占め、以下、武蔵美5人、名古屋芸大3人、京都芸大と東北芸工大が各2人と続き、東京造形、京都造形、金沢美大、愛知芸大が各1人ずつとずいぶん偏っている。多摩美や女子美は一人も入ってない。今年の「五美大展」を見た限り、多摩美は豊作だと思ったのになあ。中園晃二、水野里奈、吉田晋之介の3人はペインティングのツボをよく心得ている。とくに中園の画力は圧倒的。2台の戦車の砲を1本につなげた潘逸舟の模型と映像、義足を軸に細々したモノを集積した片山真理のインスタレーション、美の規範であるギリシャ彫刻を脱臼させた奥村昂子の布のオブジェなど、時流に流されない骨太さを感じさせる作品も印象に残った。ちなみにグランプリは片山真理、準グランプリは潘逸舟でした。
2012/05/17(木)(村田真)


![DNP Museum Information Japanartscape[アートスケープ] since 1995 Run by DNP Art Communications](/archive/common/image/head_logo_sp.gif)