artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
宗廣コレクション:芹沢 介 展
会期:2012/04/07~2012/06/03
京都文化博物館[京都府]
柳宗悦や浜田庄司、河井寛次郎らとともに民芸運動を主導した作家で、型絵染の人間国宝として知られる芹沢 介(1895~1984)。この展覧会は、郡上紬の作家である宗廣陽助(むねひろ・ようすけ)氏が所蔵する芹沢作品を紹介するもので、代表作の屏風や暖簾、反物、染め絵をはじめ、ガラス絵、素描など150点が展示された。文字自体を文様化した《風の字文のれん》や《丸紋伊呂波屏風》、文字の周囲に草花や鳥を配した飾り文字作品《春夏秋冬》など、色彩と遊び心に溢れた型絵染作品の楽しさもさることながら、会場にはこれまであまり目にする機会のなかったガラス絵や板絵、肉筆絵、下図なども数多く展示されており、作家の人となりや日頃の視点が伝わってくるような内容だったのが嬉しい。また、芹沢がよく好んで描いていたモチーフや、色違いの作品なども紹介されていた今展。一人のコレクターの、作家と作品への慈しみがいたるところに感じられる素敵なものだった。
2012/05/24(木)(酒井千穂)
眞壁陸二「time after time」

会期:2012/04/06~2012/05/31
ベイスギャラリー[東京都]
画面を縦や横に分割し、樹木のシルエットを描いた作品。2010年の「瀬戸内国際芸術祭」では男木島の路地に壁画を描いて話題になったが、たしかにこれは装飾的に見えるせいか、タブローより木塀などに描いたほうが見映えがする。それを意識したのか、細い木の板を並べた作品もあるが、これは遠目には、かつての彦坂尚嘉の「ウッド・ペインティング(PWP)」シリーズを想起させる。まだまだ展開の余地はありそうだ。
2012/05/24(木)(村田真)
門田光雅「Trope」

会期:2012/05/12~2012/06/02
SATOSHI KOYAMA GALLERY[東京都]
絵具をこってりキャンヴァスにおいてヘラでぐいぐいなすりつけたような絵画。その大胆きわまりないタッチと、なかば偶然に生じる鮮やかな色彩のコンビネーションは、なにか具体的イメージを喚起させないでもないが、すぐに視線を絵具そのものに戻してくれる。新作では一つひとつのタッチにゆるいS字型のカーブが見られるようになったせいか、画面が整理されてカオス感が弱まり、イメージの喚起力も減ったように思う。言いかたを換えれば、抽象性が増したともいえるが。
2012/05/24(木)(村田真)
第5回東山魁夷記念日経日本画大賞展

会期:2012/05/19~2012/06/03
上野の森美術館[東京都]
全国の美術館学芸員や美術評論家らが推薦した58作品から入選した30作品を展示し、このなかからさらに大賞や特別賞を決めていくという。会場や選考委員長(高階秀爾)も含めて「VOCA展」がモデルになっているのは明らかだが、異なるのは対象作家が55歳以下とやや高いこと、推薦作品からさらに展示作品が選ばれること、そしてなにより「日本画」という曖昧な枠があることだ。この「日本画」がどこからどこまでを指すのかがよくわからない。たとえば、鴻池朋子や淺井裕介は現代美術ではよく知られているが、だれも彼らの作品を日本画だと思わないだろう。今回、鴻池は襖絵を出したから日本画なのか。淺井の泥絵はさらに日本画から遠く、どっちかといえばミティラー画のようなインドの土着絵画に近い。これらを日本画と呼ぶには無理がある。なのに鴻池が大賞に選ばれているところを見ると、選考委員たちもそれが「日本画であるかどうか」などもはやどうでもいいと考えているに違いない。いっそタイトルから「東山魁夷記念」と「日本画」を削除すれば、すっきりするぞお。
2012/05/24(木)(村田真)
縄文人展

会期:2012/04/24~2012/07/01
国立科学博物館 日本館1階企画展示室[東京都]
国立科学博物館で開催された「縄文人展」は、なかなか興味深い「写真展」だ。近年、1万5千年前から一万年以上も続いた縄文時代を、日本文化の最古層を形成する時期として捉えるという見方が強まってきている。縄文期の暮らしや文化への関心の高まりを受け、若海貝塚人(茨城県出土の男性)と有珠モシリ人(北海道出土の女性)の、二体の発掘人骨の展示を中心に構成されたのが本展である。
展示全体のインスタレーションを担当したのは、グラフィック・デザイナーの佐藤卓、そして写真撮影は上田義彦である。この二人の関与によって、30数点の写真パネルによる、すっきりとした会場構成が実現した。上田はこのところ、東京大学総合研究博物館のコレクションを撮影したシリーズを、展覧会や写真集のかたちでさかんに発表しており、今回の作品もその延長線上にある。黒バック、あるいは白バックの画面のほぼ中央に被写体を置き、注意深いライティング、ボケの効果を活かしたフォーカシングで撮影するスタイルは、すでに完成の域に達している。「縄文人」の骨の撮影においても、広告の仕事で鍛えた完璧なテクニックを駆使することで、被写体の細部がクリアーに、写真特有の映像的な魅力をともなって定着されているといえる。
ただ、その会場構成にしても、写真の見え方にしても、あまりにもすっきりと整い過ぎているのではないかという思いも残った。被写体となった骨のなかには、頭骨に損傷が見られたり、おそらく通過儀礼によるものと思われる抜歯の痕が残っていたりするものもある。骨から浮かび上がってくる、「縄文人」の生活の厳しさ、生々しさを、もう少し強めに打ち出していってもよかったのではないだろうか。
2012/05/23(水)(飯沢耕太郎)


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