artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

解剖と変容:プルニー&ゼマーンコヴァー チェコ、アール・ブリュットの巨匠

会期:2012/02/04~2012/03/25

兵庫県立美術館[兵庫県]

フランス・パリの、非営利団体abcdが所蔵する世界有数のアール・ブリュット・コレクションから、チェコ人のアンナ・ゼマーンコヴァーとルボシュ・プルニーの作品を展覧。併せて、アール・ブリュットの歴史や作家を紹介する長編ドキュメンタリー映画『天空の赤』の上映と同作品に登場する作家の作品展示を行なっている。ゼマーンコヴァーは普通の主婦だったが、子育てを終えた後の虚無感を埋めるかのように絵画制作を始め、独自の花や植物を描いた。プルニーは、内臓や骨格などへの関心を表現した平面作品を制作し、尋常ならざるテンションと反復に満ちた世界を構築している。2人の質の高い作品と映画を組み合わせることで、アール・ブリュットの魅力と本質をわかりやすく伝えているのが本展の見どころだ。記者発表時にabcdのブリュノ・ドゥシャルムは「作品の選択はあくまでコレクター目線で審美的に行なっている」と明言した。その意味で本展は、美術と教育と福祉の価値観が混在している日本のアール・ブリュットに対するひとつのメッセージとも言えるだろう。

2012/02/03(金)(小吹隆文)

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宮永亮 "scales"

会期:2012/01/14~2012/02/11

児玉画廊[京都府]

昨年秋に東京のgallery αMで発表した映像インスタレーション《arc》から、映像だけを抜き出したものと、新作《scales》を出品。宮永は国内外各地を訪れては映像を撮影し、そのストックを組み合わせて作品を制作している。《arc》は震災前と後の東北の情景と大阪のビル街や高速道路などが混然一体となったもので、《scales》はスウェーデンを訪れた際に撮った映像を巻物のような横長の画面に縦横に展開していた。どちらも夢幻的な作風で、人間の記憶はこういう形で保存されているのかな、と思ったりもした。

2012/02/02(木)(小吹隆文)

没後150年 歌川国芳展

会期:2011/12/17~2012/02/12

森アーツセンターギャラリー[東京都]

会期も終盤だったため、平日の昼間だというのにかなりの人出。しかもこうした展覧会場に大量発生しがちな有閑おばちゃんより、なぜか若いカップルやおっさんが多い。これは国芳ならではの特異性なのか、単に仕事のないヒマ人が増えただけなのか。おそらく両方でしょうね。出品作品421点は尋常な数ではないが、前期・後期でほとんど入れ替わるため実際に展示されているのは200点強。それでも多いな。困ったのは、大半が浮世絵版画だからサイズが小さいうえ図柄も細かく、おまけに今日は混んでいるため頭越しにしか見られないこと。国芳の活躍した江戸時代(幕末)には浮世絵はひとり手にもってながめるもので、美術館みたいな会場に展示することを前提に描いてなかったからな。もともと巨大な空間で大人数に見せるものではないのだ。だから《宮本武蔵の鯨退治》や《鬼若丸の鯉退治》など大判三枚続の大画面があるとホッとする。バケモノの絵にホッとするというのも妙なものだが。

2012/02/01(水)(村田真)

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今道子「IMPACT」

会期:2012/01/26~2012/02/12

B GALLERY[東京都]

マッチ&カンパニーの「M/Light」レーベルから出た『IMPACT』は、今道子のひさびさの写真集。1970年代のキャベツのシリーズから2010年の近作まで35点が、大判のページにゆったりとおさめられている。その刊行を記念して新宿BEAMS JAPANのギャラリー・スペースで開催されたのが本展。写真集に収録された作品に加えて、2011年12月の飯沢耕太郎との二人展(銀座・巷房)で初めて公開された新作「鰯+眼+障子」のシリーズと、「めまいのドレス」も展示されていた。
今道子は一貫して、魚や野菜などの食物を素材にしてマニエリスティックな「ありえないオブジェ」をつくり上げて撮影してきた。その食感と触感を刺激しつつ、観客をリアリスティックな幻想の世界に引き込んでいく強度は、まったく衰えていないどころか、さらに強まっているようにも見える。だが、新作にはこれまでにない要素も加わってきている。「鰯+眼+障子」の障子の格子模様はどこか和風のテイストだし、「めまいのドレス」にはこれまでの彼女の作品には考えられない「ブレ」が効果的に使われているのだ。今はプライベートな事情もあって、2000年代のはじめから10年あまりほとんど作品を発表できなかった。その間に蓄積していた表現のエネルギーが、いま一挙に解放されようとしているのではないだろうか。基本的な制作の姿勢は変わらないだろうが、これまでにない要素が加わってくることで、作品世界のスケールが一回り大きくなってくることが期待できそうだ。

2012/02/01(水)(飯沢耕太郎)

安田佐智種「AERIAL」

会期:2012/01/13~2012/02/29

BASE GALLERY[東京都]

安田佐智種は1968年生まれ。東京藝術大学大学院修了後に渡米して、現在はニューヨークを拠点に活動している。彼女の初期作品に、透明なガラスの板のようなものに支えられた足の裏から、上空を見上げるアングルで撮影されたシリーズがあり、その身体を介した視点の転換の鮮やかさを印象深く覚えている。この新作「AERIAL」も、その延長線上の作品と言えなくもない。今度は旧作とは逆に、高層ビルのような高い場所から下を見おろす視点をとる。しかもそうやって撮影された300~500枚の画像を、コンピュータによる画像処理でコラージュし、ビル群が針の山のように地面から空中に突き出ている様を、圧倒的な視覚効果で定着している。安田のアイディアを形にしていく能力の高さがよく示されている作品と言えるだろう。
ただその処理の仕方が、あまりにも手際がよすぎるので、高所から下を見おろしたときの目眩や恐怖をともなう身体感覚が、やや希薄になっているように感じられた。画像処理がパターン化して、デザイン的に見えなくもないのだ。よく見ると、針のように突き出ているビル群の根元のところに、四角い空白のスペースが残っている。これがつまり、安田が下を見おろす基点となる場所ということだろう。足場となる場所が不在の空白として表現されてしまうというのは、なかなか面白いパラドックスだ。そのことを逆手にとって、その真白のスペースをより強調する表現のあり方も考えられるのではないだろうか。

2012/02/01(水)(飯沢耕太郎)