artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

カタログ&ブックス│2012年2月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

深読み! 日本写真の超名作100

著者:飯沢耕太郎
発行日:2012年1月11日
発行所:パイ インターナショナル
定価:2,625円(税込)
サイズ:A4判

artscapeレビューの執筆者でもある、写真批評家・飯沢耕太郎の最新著作。1850年から2011年までの、究極の、絶対に見ておきたい写真101点を収録。彼の手で丁寧に選び取られた「日本写真」の超名作と、それぞれに付された「深読み」が、150年にわたる壮大な写真史の広がりを浮かび上がらせる。



MP1 artist's book Expanded Retina│拡張される網膜

編集:MP1
発行日:2012年1月21日
発行所:BAMBA BOOKS
価格:1,500円(限定500部)
サイズ:A4判

写真を主とした制作活動を行う美術家エグチマサル・藤本涼・横田大輔・吉田和生と、批評家・星野太(表象文化論)によるプロジェクト「MP1」初のアーティストブック。2012年1月21日よりG/P gallery(恵比寿)にて開催された同名の展覧会に合わせての出版された。MP1メンバーと飯沢耕太郎(写真評論家)・後藤繁雄(編集者)・粟田大輔(美術批評)・天野太郎(横浜美術館主席学芸員)との対談、伊藤俊治トークショー等を収録。




地域社会圏主義

著者:山本理顕、上野千鶴子、金子勝、平山洋介、仲俊治+末光弘和+Y-GSA、松行輝昌
発行日:2012年1月10日
発行所:INAX出版
定価:2,415円(税込)
サイズ:182mm×240mm 並製 152頁

高齢者や一人世帯がさらに増えていくすぐそこの未来、私たちは自身の生活とそれを受け止める器である住宅をどのようにイメージし、また獲得していくことができるのか。2010年春に刊行され、話題をよんだ『地域社会圏モデル』から大きく一歩踏み込んで、2015年のリアルな居住像を提案する。上野千鶴子(社会学)、金子勝(経済学)、平山洋介(建築学)との対談も収録。[INAX出版サイトより]


富士幻景──近代日本と富士の病

著者:小原真史
刊行日:2011年12月30日
発行所:IZU PHOTO MUSEUM
価格:3,780円(税込)
サイズ:B5判変、244頁

古来から日本人の崇敬を集めた富士山が、幕末以降の近代化と対外戦争のプロセスの中で国家の山へと変容していく様子を写真や印刷物340点から辿る。IZU PHOTO MUSEUMで2011年に開催された「富士幻景──富士にみる日本人の肖像」展関連書籍。


あなたとわたし わたしとあなた──知的障害者からのメッセージ

文:谷口奈保子
写真:寺澤太郎
発行日:2012年1月23日
発行:小学館
価格:1,470円(税込)
頁数数:63頁

みんな、生きているんだ。──東京・恵比寿で約30年間、知的障害者の生活支援を続けている特定非営利活動法人ぱれっと。そこで、働き、くらし、遊ぶ、知的障害者の人たち。それぞれが人として一生懸命生きている姿を、60点を超える写真から感じ取っていただけたら。そして、障害のあるなしではなく、全ての人があたり前に生きていける社会を考えるための写真絵本です。[小学館サイトより]

2012/02/15(水)(artscape編集部)

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畑直幸「Pelletron new no.4」

会期:2012/02/06~2012/02/23

ガーディアン・ガーデン[東京都]

畑直幸はかなり面白い経歴の持ち主だ。プロの美容師として活動しながら写真を撮り始め、ホンマタカシのワークショップで学ぶ。2011年に第4回「1_WALL」でグランプリを受賞したのをきっかけに、本格的に写真家として作品を発表し始め、現在はオランダのアート・スクールに留学中である。こういう横道からひょいと飛び込んでくる者の方が、面白い仕事をすることが多い。畑も将来的には多いに期待できそうだ。
だが、ガーディアン・ガーデンでの「1_WALL」受賞作品展を見る限り、その才能をまだ活かしきれていないように感じた。「中性子核データ測定」のための加速装置、特にそのうねり、もつれ合い、絡み合うコード群を撮影するというアイディアは悪くないし、画像の処理も的確だ。だが、それが会場内に展示されている様子を見ると、うまくまとめようという意識が強く出過ぎているように感じてしまう。コードやチューブの現物を写真とともに配置したインスタレーションも、予測の範囲に留まっていて、かえって小綺麗にまとまっているように見える。一度センスのよさをかなぐり捨てて、もっと極端な方向に走ってもらいたい。さもないと「悪くない」という範囲におさまってしまうのではないだろうか。幸いなことに、オランダという環境は彼自身を大きく成長させる可能性を持っていると思う。むしろ、ヨーロッパのギャラリーや美術館に、日本人の写真家として認められるような活躍をしてほしい。

2012/02/14(火)(飯沢耕太郎)

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ヘレン・ファン・ミーネ「Dogs and Girls」

会期:2012/02/10~2012/03/31

GALLERY KOYANAGI[東京都]

ヘレン・ファン・ミーネは1972年生まれのオランダの女性写真家。1990年代半ばに、魔物に取り憑かれたような、やや畸形的な少女のポートレートを発表して広く知られるようになった。日本でも何度か個展を開催している。
今回のシリーズでは、タイトルのとおり「犬と少女」のカップリングを試みている。犬たちは古風なカーペットの上でポーズをとる愛玩犬で、まさにオーソドックスな「犬のポートレート」として撮影されている。少女たちの方は、いかにもファン・ミーネの好みの蝋人形のような静謐な雰囲気を醸し出しているが、これもまた撮り方としてはやや古風なものだ。だが、「犬と少女」が組み合わされたときに(ほかにウサギとニワトリの写真も1点ずつある)、そこに魔術的な暗合が生じてくるように感じる。隣り合ったイメージにとりたてて関連性はないのだが、少女たちだけのシリーズを見るときよりも、禍々しさ、猛々しさが強まっているように感じられるのだ。少女のなかに潜んでいた動物的なエロスが、犬の存在によって触発されるのかもしれない。犬の写真を大きめに、少女の写真を小さめにプリントした展示も効果的だった。ファン・ミーネの作品世界において、この試みが単なるエピソードになるのか、それともこれから大きく育っていくのかはわからないが、今後の展開を注意深く見守っていきたい作家のひとりであることは間違いない。

2012/02/14(火)(飯沢耕太郎)

松井冬子 展──世界中の子と友達になれる

会期:2011/12/17~2012/03/18

横浜美術館[神奈川県]

横浜美術館では毎年のように30代前後の若手作家の個展を開いているが、いつも気がかりなのは広い会場が埋められるかどうかということ。たかだかキャリア10年程度で人さまにお見せできる作品がどれだけあるのか、横浜美術館の大空間に耐えうる作品がどれほどつくれるのか、疑問に思わないでもない。実際だれとはいわないが、展示室を進むにつれ作品が間延びし、最後はかろうじて埋めました的なツライ展示もあった。とりわけ今回は日本画で、しかも寡作といわれる松井冬子だけに、スカスカにならないか心配だったが、杞憂に終わりましたね。しかも一作一作かなり入魂の様子で、展覧会全体に異様な緊張感がみなぎっている。さすが松井さん、伊達ではありませんね。でも、作品のほとんどがモノクロームに近く、テーマやモチーフにも幅がない(よくいえばブレない)ため、見終わったあと、たくさんの作品を見たとか、いろんな作品を見たという印象が薄い。ある意味、全体でひとつの作品みたいな。それはそれでスゴイが。

2012/02/13(月)(村田真)

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サカイトシヒロ:ティーヴィーショウ

会期:2012/02/13~2012/02/25

天野画廊[大阪府]

映像作家のサカイトシヒロが、約25年前の初期作を含む自作品をオムニバスにした作品集(約30分)と、彼がネットで検索して見つけ出した注目作品をまとめた作品集(約30分)の2本立てで展覧会を開催した。珍しいパッケージの展覧会なので、まずはそのこと自体に感心。映像作品は可変性があるので、工夫次第でさまざまな見せ方ができる。本展はその見本と言えるだろう。肝心の作品では、サカイが本展のために制作した新作《レンズ》が素晴らしかった。新種のインテリアとして家の壁に投影したいと思ったほどだ。今後は展覧会と同時にDVDの制作・販売を行なう手もあるだろう。

2012/02/13(月)(小吹隆文)