artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
水田寛・オープンスタジオ

会期:2012/02/10~2012/02/12
桂スタジオ[京都府]
「うんとこスタジオ」を出て「桂スタジオ」へ。こちらも京都市立芸術大学卒の作家達が共同で運営しているアトリエスペース。今年は絵画作品を制作している水田寛ひとりだけが制作現場を公開していた。昨年見せてもらった作品とはまた異なる雰囲気の作品が並んでいたのだが、視覚情報と自分自身の感覚が混じり合う「見る」という体験の曖昧で不確かな性質にアプローチしながら、新たな作品制作の閃きを次々と実践し、公開する水田の姿勢も清々しく頼もしく感じられた。次回の発表がいつも楽しみになるアーティストの一人だ。
2012/02/12(日)(酒井千穂)
うんとこスタジオのフリーフリーマート
会期:2012/02/11~2012/02/12
うんとこスタジオ[京都府]
京都市立芸術大学作品展の学内展示を見終えてからアーティストの鈴木宏樹と谷澤紗和子の制作アトリエ「うんとこスタジオ」へ。2日間のオープンスタジオ企画で、鈴木と谷澤の作品、彼らのコレクション展示とともに「フリーフリーマート」というイベントも開かれていた。物品の販売でも物々交換でもなく、事前にいろいろな人から持ち寄られた品物を、来場者が無料で持ち帰ることができるという場。出品者は谷澤や鈴木と交友のあるアーティストたちが多かったのだろうか? おもに、並んでいたのはもう使わないが捨てるのはもったいないと持ち込まれた「不要品」だが、本やマンガ、衣類、楽器、金具部品、食器などに混じって、なかには展覧会で販売されていた作品集、作家の作品なども。掘り出し物が見つかるようなワクワク感も湧いてきて、どちらかというと狭い空間なのだが、この雑多な雰囲気は居心地が良かった。個人的に嬉しかったのは帰りがけ、お土産にと頂いた谷澤の切り絵作品をプリントしたシート。作品にもアーティストにも親しみを覚える素敵な機会、ぜひまた開催してほしいところ。

左=会場風景(「無料」コーナーの一部)
右=会場風景(作品展示コーナーの一部)
2012/02/12(日)(酒井千穂)
京都市立芸術大学作品展

会期:2012/02/08~2012/02/12
京都市美術館 京都市立芸術大学構内[京都府]
京都の卒業制作展のシーズン。京都市立芸術大学は毎年「作品展」として京都市美術館と大学構内の二会場で美術学部、大学院美術研究科修士課程の学生全員(約700名)が作品展示をする。学内展示は、学生一人がひとつの教室を使用している場合も多く、それぞれの個展空間のようにもなっているので、見る側もじっくりと鑑賞できて作品も印象に残りやすいのが良い。今年、思わず釘付けになり、見入ってしまったのが「アトリエ棟」で発表していた油画四回生の藤井マリーの壁面をいっぱいに使った作品。少女や乗り物、家具など小さなモチーフと模様のパターンがぎっしりと描かれた繊細なペンのドローイングには迫力もあり、混沌のなかに物語性もあって面白かった。油画修士2回生の岡田美紀、中山明日香、馬場佳那子、博士課程油画領域の黒宮菜菜の絵画など、大学院生の作品にも魅力的なものがいくつもあり、なかなか見応えがあった。美術館と大学構内、二つの会場の展示数もさることながら、会場同士がずいぶん離れているので、全部を見ようとすると駆け足になるし一日がかりになるのが毎年悩ましい。しかし今年は美術館から大学までの直行シャトルバスが最終日に用意されていて、それを利用できたので例年になく移動もスムーズで、いつもよりゆっくり見ることができたのが嬉しい。しかしこのバス、さぞいっぱいなんだろうと思っていたら乗客は6~7名しかいなかった。たいへんもったいない。
2012/02/12(日)(酒井千穂)
野口里佳「光は未来に届く」

会期:2011/09/11~2012/03/04
IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]
静岡県長泉町のIZU PHOTO MUSEUMの展覧会は、会期は長いのだが、遠いので油断していると行きそびれてしまう。2011年9月から開催されていた野口里佳展も、なんとか間に合って見ることができた。
野口は1995年、写真ひとつぼ展と写真新世紀でグランプリをダブル受賞してデビューした。当時から評価が高かったわけだが、そのテンションをその後15年以上も持続しているのは凄いことだと思う。勢いで走るだけではなく、その間にインプットとアウトプットのシステムを自分のなかで確立しなければならないからだ。今回の展示は、その野口のデビュー作、建築工事現場をモノクロームで撮影した「創造の記録」(1993~96)から近作までを、8つのパートに分けて展示している。その多面的な作品群を見ていると、「フジヤマ」(1997)や「飛ぶ夢を見た」(2003)などで、距離を置いて被写体を見渡すスケール感のある風景写真のスタイルを確立したあと、彼女がむしろ自分の作品世界を拡大、再構築する方向に進みつつあることがよくわかる。ピンホールカメラやシルクスクリーンなどの手法の冒険、レンズのついていないスライドプロジェクターを使った映像作品など、意欲的に作品の領域を広げつつ、そのクオリティは保ち続けている。
もともとインスタレーションのうまさには定評があり、写真を使う現代美術作家と見られることも多い(本人もそう思っているかもしれない)野口だが、こうして見ると彼女のバックボーンはやはり「写真家」なのではないだろうか。つまり手法が一人歩きするのではなく、身体─カメラ─現実という関係のあり方が、しっかり確立していて揺るぎがないのだ。しかも「アフリカのコウノトリ」からライトボックスの上の虫まで、日常的な出会いを自分の作品世界のなかに取り込んでいく柔らかな視覚のシステムを構築している。野口の15年間の歩みを見ると、2000年代以降に登場してきたより若い世代にとってのいい目標になるのではないかと思う。彼女の後に続く「写真家」たちには、さらに厚みのある仕事を展開していってほしいものだ。
2012/02/12(日)(飯沢耕太郎)
Viewpoints いま「描く」ということ

会期:2012/02/04~2012/02/26
横浜市民ギャラリーあざみ野[神奈川県]
最近、充実した展覧会を立て続けに催している横浜市民ギャラリーあざみ野の企画展。「描く」という手わざを共通項に、淺井裕介、椛田ちひろ、桑久保徹、吉田夏奈による作品を、それぞれ自立した空間で展示した。泥絵で知られる淺井は、マスキングテープや紙ナプキンなどの日用品を素材にしたドローイングのほか、近頃熱心に取り組んでいるという陶芸作品や、既成の文字を切り貼りしたレタリングの作品などを発表して新境地を開いてみせた。ボールペンの描線を無限反復させることで、シンプルな楕円を描き出す椛田は、それらを描いた長大なロール紙を周囲の壁面に張り巡らせた。吉田もまた無限に増殖させることが可能なパノラマ絵画のほか、会場を瀬戸内海に、立体模型を小豆島に見立て、その表面に島の風景を描き込んだ新作を発表した。そして近年評価が高まっている桑久保は、夢幻的な海岸の光景を描いた新作のほか、アトリエを再現したインスタレーションも見せた。モダニズム絵画論が明らかな失敗に終わり、新たなムーブメントに突破口を見出すこともできずにいる今日の絵画の状況は、絵を描く者にとっても絵を見る者にとっても、「描く」という単純明快な原点に立ち返る機運を高めつつある。そうしたなか、手の赴くまま自然に描く淺井や、偏執的かつ求心的に描く椛田、分裂的かつ遠心的に描く吉田、そして戦略的に考え抜いたうえではじめて描くことを正当化する桑久保という4つのアプローチをバランスよく見せた企画者の手腕は、高く評価したい。
2012/02/12(日)(福住廉)


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