artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
関根美夫──身体から記号へ

会期:2013/01/26~2013/02/23
東京画廊[東京都]
関根美夫は具体美術協会の創立メンバーのひとり(もの派は関根伸夫)。代表的なソロバンの絵を中心に、初期のアンフォルメルな抽象画や貨車を描いた絵(開いた扉から能面や女の人がのぞいてる)なども展示されている。タイトルに倣っていうと、初期のアンフォルメル絵画が身体性を強調したものだとすれば、その後のソロバンや貨車の絵は身の回りの日用品を記号化したポップアートといえる。画廊のオーナーによれば、関根は川崎重工の経理を担当していたそうで、貨車もソロバンも彼にとっては身近なものだったのだ。ソロバンの絵は壁に横一列に隙間なく並べられているため、全体でひとつの幾何学的抽象画と見ることもできる。おもしろいのは、ソロバンの示す数が、たとえば「1986」とかその作品の制作年になっていること。なるほど、これで「デート・ペインティング」をやればよかったかも。
2012/01/31(木)(村田真)
第7回 shiseido art egg展「久門剛史」

会期:2013/01/08~2013/01/31
資生堂ギャラリー[東京都]
大小ふたつの展示室にそれぞれ4畳半ほどの台をつくり、一方は畳を敷いてこたつを置き、もう一方はフローリング仕立てでデスクを置いている。かたわらにはレンガを円筒形に積み上げた井戸のようなもの、大きなゴミ箱が設置され、天井からは照明が吊るされている。スピーカーから子どもの声や時報、ファクス音、電車の通過音などが聞こえ、急に照明やこたつが光ったり……。ちょっとおもしろいけど、もっともっとおもしろくなりそうな可能性を秘めた作品。もうひとつ時計の作品もあって、秒針に小さなルーペがつけられ、その下の文字盤にぐるっと黒い点が打たれている。黒い点は小さな文字で文章になっており、ルーペで読む仕掛けなのだが、文字が小さいうえにルーペがカチコチ動くので読みとれない。洗練された手つきだ。
2012/01/31(木)(村田真)
鶴友那「時の集積と追憶」

会期:2013/01/12~2013/02/09
目のまわりが黒ずんだ女性(と花)をモデルにした絵。女は和服を着ているものが多く、ちょっと不健康で退廃的な大正ロマンの香りを漂わせる。と思ったら、作者は関東大震災後の大正時代を東日本大震災後の現代にダブらせてるそうだ。これで女の手足を切断したら会田誠になる……ならないか。作者の鶴(名前からして抜きん出てる)は今年26歳、佐賀大の大学院を出たばかりの若手というから驚く。聞くところによると、リアリズム絵画で知られる小木曽誠が教鞭をとる佐賀大学文化教育学部からは、有望な画家がすでに何人も輩出しているとのこと。美大でないからといってあなどれない。
2012/01/31(木)(村田真)
中村哲也「フォルムズ」
会期:2013/01/18~2013/02/11
A/Dギャラリー[東京都]
中村はここ十数年、見た目がチョー速そうな(だけでじつはなんの力学的根拠もない)デザインの車体モデルと、そのスピードを誇示すべく車体に塗布する火焔パターンをつくっている。いってしまえば「ハッタリ」だが、それを徹底的に追求すればこんなにカッコいいアートになるという見本だ。壁に1メートル超の車体モデルが11台(+4メートルほどのモデルが1台)、床に5メートルほどの骨組だけのモデル(というより穴だらけの車体といったほうが正確)がドーンと1台。ほかに数十点のドローイングが展示されている。いずれもいまや死語に近い「流線型」の極致で、メタリックな火焔パターンが塗装されているのだが、驚くのはこれらがすべて「手づくり」ということだ。これぞ究極の職人芸! これぞクールジャパン!
2012/01/31(木)(村田真)
会田誠──天才でごめんなさい

会期:2012/11/17~2013/03/31
森美術館[東京都]
ネット上で「ポルノ被害と性暴力を考える会」が森美術館に抗議したと話題になっているので、念のためもういちど見に行った。問題になったのは、手足を切断され、犬の首輪をつけられた全裸の少女を描いた「犬」シリーズなどで、抗議団体によればこれらは「残虐な児童ポルノであるだけでなく、きわめて下劣な性差別であるとともに障がい者差別」でもあるとしている。たしかに「手足を切断され」と書いてるだけでも残虐とは思うが、これはあくまでフィクション=絵空事であって現実ではない(写真でも動画でもない)から、被害者はいない。実在のモデルもいないのだから「少女=児童」と決めつけるわけにもいかない。それでもなお「児童ポルノ」というのだろうか(抗議文でも「日本の児童ポルノ禁止法においては現在、実写ではない児童ポルノは違法とされていません」と認めている)。しかし違法でないとはいえ、これを「性暴力」「性差別」として不快に感じる人がいたことは事実だ。これがギャラリーのような限られた人しか訪れない場所に展示されるならまだしも、より公共性の高い美術館で公開するのだから「取り扱い」に注意する必要はあるだろう。森美術館はこうした抗議をあらかじめ見越したうえで、ネット上でもチケット売場の手前でも「性的表現など刺激の強い作品が含まれているため、事前にご了承いただきます」と告知しているし、また件の作品群に関してはいわゆる「18禁部屋」に隔離するなど幾重にも予防線を張っている。それでも抗議が来るのは、展望台と同一チケットで入れるため、アートにはなんの興味もない善男善女が大量に流れてくる森美術館ならではの宿命かもしれない。ちなみに、ぼくが「犬」シリーズを最初に見たのは「戦争画リターンズ」シリーズと同時期だったせいか、この絵のことを日本軍が中国人や朝鮮人に対しておこなった性暴力を含む蛮行の比喩だと思い込んでいたので、なんの抵抗もなく(というのも逆に変だが)受け止めたのを覚えている。個人的な意見を述べれば、この「犬」シリーズをはじめ、会田の作品はすべて人間の暗部や現代社会のねじれをきわめて的確に、諧謔的に、そして露悪的なまでに暴き出している点で高く評価しているが、同時に「性暴力」「性差別」ではないかという指摘にも(見方が狭いとは思うけど)耳を傾けなければならないと思っている。つまり芸術であり、同時にワイセツでもありうるということだ。問題は、森美術館ではどちらが優先されるか、されなければならないかということではないだろうか。ところで、この抗議団体に対して抗議内容とは別に違和感を感じるところがある。それは彼らが森美術館だけでなく、同展を紹介したNHKの「日曜美術館」や、会田誠を特集した『美術手帖』誌、同展チケットと赤ワイン付き宿泊プランを提供しているハイアットホテル、はては森美術館が加盟もしていない美術館連絡協議会や文化庁にまで抗議先を広げようとしていることだ。このなりふりかまわぬやり口は、たとえば日教組をつぶすためその貸し会場にまで圧力をかける右翼団体と変わらないではないか。たとえ抗議内容に共感しても、こんなやり方をしていているようでは同調する人は少ないだろう。
2012/01/31(木)(村田真)


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