artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

鬼海弘雄 写真展 PERSONA 東京ポートレイト、インディア、アナトリア

会期:2011/12/15~2012/01/29

山形美術館[山形県]

鬼海弘雄は2011年8月に東京都写真美術館で、浅草・浅草寺の境内で撮影し続けている人物写真と、東京周辺の街々を歩き回りながら撮影した6×6判の風景のシリーズをあわせて「東京ポートレイト」展を開催した。今回の山形美術館での展示はその拡大版と言うべきもので、その「東京ポートレイト」の作品群に加えて、「インディア」と「アナトリア」のシリーズをあわせて見ることができた。
この35ミリカメラによるスナップショットの2つのシリーズも息の長い仕事だ。インド各地を撮影した「インディア」は1980年代から、トルコの黒海沿岸の村々を中心に撮影した「アナトリア」は1990年代から、何度も現地に足を運んで続けられている。「東京ポートレイト」の2作品が、かなり厳密に方法論を定めて撮影しているのと比較すると、こちらは被写体との出会いの偶然性に依拠しながら、人々のさまざまな表情や身振りを、柔らかな、だが精確な眼差しで捉えた写真が並ぶ。むろん、どちらも鬼海弘雄の写真家としての姿勢をよく示すものであり、両者があわさって、はじめて彼の作品世界の広がりを見通すことができるとも言えるだろう。その意味では、文字通りの代表作を集成した回顧展と言うべき展示が、彼の故郷である山形県寒河江市に近い山形市の美術館で実現したのはとても素晴らしいことと言える。
少し残念だったのは、予算の関係もあってか、今回の「PERSONA 東京ポートレイト、インディア、アナトリア」展の出品作をすべて収録したカタログをつくることができなかったこと。いつか、ぜひ実現してほしいものだ。

2012/01/16(月)(飯沢耕太郎)

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細江英公写真展 第1期 鎌鼬

会期:2012/01/06~2012/01/29

BLDギャラリー[東京都]

この1月から5月にかけて細江の仕事を6期に分けて振り返る回顧展。その第1期が「鎌鼬」だが、読めるかな。カマイタチね。舞踏家土方巽を故郷の秋田の農村で撮ったモノクロ写真集で、1970年に芸術選奨文部大臣賞を受賞した不朽の名作。東北を舞台にした土方の奔放なパフォーマンスを細江のカメラが見事にとらえているのだが、写真集はこのふたりだけでなく、ブックデザインの田中一光、文を寄せた瀧口修造や三好豊一郎、そして被写体となった東北の人々の力が結集された空前のコラボレーション作品になっている。ぼくもほしかったけどなかなか手に入らず(たまに古本屋で見かけてもきわめて高価)、たまたま立ち寄った古書市で安く入手。本の価値を知らない古書市というのは、うれしいけど悲しい。数年前には復刻版も出ている。出品作品は、一辺90センチほどの正方形の黒いパネルにプリントを貼ったもの。周囲に銀が浮き上がっているヴィンテージプリントだ。

2012/01/16(月)(村田真)

CHISATO TANAKA“FLASH BACK NIGHT”

会期:2012/01/10~2012/01/21

ギャラリー現[東京都]

田中千智がアルファベット表記になってる! もともとアルファベット名のアメリカ人でも日本のメディアに出るときはカタカナ表記になるのに、漢字名をもつ者が日本メディアにわざわざアルファベット名で出るのはヘン、という立場ですが作家の意向も尊重しなければなりませんね。とここまでに約130文字を費やしてしまったではありませんか。作品は黒い地に人物や風景や乗り物をザックリ描いた絵が10点ほど。人物はマフラーを巻いてひとりポツンと描かれてる絵が多くてどこか寂しそうだ。いやそれは乗り物にもいえて、船や飛行機は背景がほとんどなく遠望した情景になっており、円形キャンヴァスの作品などは国境を越えて攻撃を受ける北朝鮮の漁船を想起させる。風景はさすがに画面の真ん中にポツンと描くわけにはいかないけれど、背景が黒いので夜景に見え、独特の情感を醸している。福岡と釜山の風景だそうだ。これらのことを彼女自身の心境に結びつけることができるかもしれないし、名前をアルファベット表記に変えたのもそのことと関係しているのかもしれない、などと結論づけるのは早計だが、そのように見るのもひとつの楽しみ方ではある。

2012/01/16(月)(村田真)

白井忠俊 展──千年螺旋

会期:2012/01/07~2012/01/28

INAXギャラリー2[東京都]

あ、この人も名前にトシがついてる。ギャラリーには大きな円筒が2体デーンと置かれていて、表面には半透明のジェッソでウロコを描いた細長い生き物が円環状にのたうっているので、てっきり辰年にちなんで龍だと思ったら、顔はヘビ。なんだろう、ウロボロスか。壁には緑色の三角形が規則正しく貼りつけてある。螺旋を数学的に図表化したものかもしれないけど、理解するだけの知能も気力もない。

2012/01/16(月)(村田真)

新生2012 Vol. 1

会期:2012/01/10~2012/01/21

ギャラリーなつか[東京都]

銀座から京橋に移転後、初めて訪れる。ビルの8階から1階へ。人通りは少なくなったが、作家にとっては作品を搬入しやすくなっただろう。展示室は大中小に分かれていて、銀座より少しコンパクトになったようだ。その第1弾は小泉俊己、高浜利也、母袋俊也の3人展。それぞれ彫刻、版画、絵画とジャンルは異なるが、おそらくトシのつく名前で集めたんじゃないの?

2012/01/16(月)(村田真)