artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

絵画、それを愛と呼ぶことにしよう Vol.8 田中功起

会期:2013/01/19~2013/02/02

ギャラリーαM[東京都]

絵画を巡る10組の連続展の8回め。ほかの作家たちは会期が1カ月前後あるのに、田中だけは2週間と短い。本人の都合によるものだろうけど、すでに差異化が図られている。案内状にはその2週間のスケジュールが載っていて、たとえば「ペインティング・トゥ・ザ・パブリック(東近美からαM)」「写生旅行」「持ち寄った絵について話す」といった予定が書かれ、最後に「会期中、会場を訪れるすべてのひとは自分が持って来たほとんどの絵を他のひとと共に展示することができます」と締めくくられている。つまり会場には田中功起の作品だけでなく、さまざまな人たちの持ち寄った絵が飾られてるらしいのだ。アンデパンダン個展とでもいうか。ちなみに「ペインティング・トゥ・ザ・パブリック…」とは、東京国立近代美術館からギャラリーαMまでみんなで絵を持って歩くという参加型のイベント。幸田千依の「歩く絵のパレード」と同じではないか。ま、絵を持って歩くだけならだれでも考えつくことだけどね。会場には少し空きがあるものの思ったよりたくさんの絵が並んでいた。まともに自分の作品を持ってきた人のほか、祖父の絵、なぜか長新太の絵、会田誠展のチラシにチョコッと書いたイタズラ書き、それに田中自身の10代のころの絵まであって、けっこう楽しめた。会田誠で思い出したが、もっとカゲキで、不謹慎で、えげつない絵もあるかと予想(期待)していたけどあまりなかったのは、展示するのが持って来た「すべての絵」ではなく「ほとんどの絵」と限定されていたせいか。展示を拒否された絵があったとしたら見てみたいもんだ。いずれにせよ、「絵画」への愛にあふれたメタ個展だった。

2012/01/23(水)(村田真)

土佐正道 絵画展

会期:2012/01/23~2012/01/29

Chapter2[神奈川県]

明和電機会長の土佐正道による絵画の個展。太陽の塔、瀬戸大橋、厳島神社、東京タワー、みなとみらい地区など、おもに大規模な建造物を描いたグワッシュ画が10点ほど。これらは約10年前に、昭和40年会のメンバーの指導を受けながら半年間で集中的に描いたものだという。それまでほとんど絵筆をにぎったことがなかったらしいが、そのわりにはウマイというか、理数系のきっちりした絵である。なによりおもしろいのは、たとえば太陽の塔なら正面ではなく裏側の黒い顔だけをアップで描いたり、厳島神社なら大鳥居を横から(つまり1本の柱として)描いたり、鳥取砂丘ならラクダに乗るための台をポツンと描いたりしていること。そのユニークな視点と、描写技術のギャップがおもしろいといえばおもしろいが、もう少し制作を続けていればどうなったか見てみたかった。これらの絵を肴に昭和40年会のメンバーが講評する記録映像も上映している。

2012/01/23(月)(村田真)

長船恒利の光景 1943~2009

アートカゲヤマ画廊/ギャラリーエスペース/gallery sensenci[静岡県]

会期:2012年1月16日~22日/1月9日~22日/1月14日~2月12日
長船恒利は1943年北海道小樽市の出身。1964年から静岡の県立高校の教員となり、70年代半ばから写真家としても活動し始めた。ちょうど写真家たちによる自主運営ギャラリーが活性化し始めた時期であり、彼も藤枝で「集団GIG」を結成、1980年からは静岡のジャズ喫茶JuJuを舞台に積極的な展示活動を行なった。1980~90年代にはコンピュータ・アートを実験したり、プリペアド・ピアノの演奏を披露したりするなど、写真家の枠を超えた活動を展開、2003年に教職を離れてからは、チェコ、スロバキア、ポーランドなど中欧諸国の美術や建築のモダニズムを本格的に研究し始めた。その成果がようやく実り始めた矢先、腎臓癌を患い、2009年に逝去する。今回藤枝のアートカゲヤマ画廊、ギャラリーエスペース、静岡のgallery sensenciの3カ所で開催された「長船恒利の光景 1943~2009」は、遺族や友人たちが準備を重ねて、3年後に開催された追悼展である。
長船の写真の仕事は、写真そのものの根拠を問い直す「写真論写真」の典型と言える。1970年代後半~80年代に自主運営ギャラリーや企画展を中心に発表していた若い写真家たちの、写真を通じて「見る」ことや「撮影する」ことの意味を検証しようとする試みのなかで、長船の作品は最も高度なレベルに達していた。代表作である、4×5判の大判カメラで静岡や藤枝の日常的な光景を定着した「在るもの」(1977~79年)のシリーズなどを見ると、ほぼ同時代のドイツのベッヒャー派の写真家たちの仕事に通じるものがある。長船を含めた同時期の写真家たちの仕事は、美術館レベルの展覧会で再評価されていいと思う。
長船はまた、写真家の枠を超えた活動も展開していた。最晩年に手がけていた石を磨き上げた彫刻作品など、詩情と強靭な造形力が溶け合った見事な出来栄えである。音楽やパフォーマンスなどを含めた「表現者」としての長船の像も、もう一度再検証していくべきだと思う。追悼展を機に美術家の白井嘉尚の編集で刊行された、箱入り、7冊組の作品・資料集『長船恒利の光景』が、その最初の足がかりになるだろう。

2012/01/22(日)(飯沢耕太郎)

おとなが学び合うこどもの声&フォーラム「研修バスツアー──メリーゴーランド(三重県四日市)へ行こう」事前勉強会

会期:2012/01/22

中之島4117[大阪府]

国立国際美術館のすぐ近くで、アーティストや、アートNPO、市民のためのアートインフォメーション&サポートセンターとして活動している施設「中之島4117」。アートにまつわる講座や子どものためのワークショップなど、さまざまなプログラムを実施している。そのひとつに、月に一度、子どもやアートについて参加者が自由に情報や意見を交換し合う「おしゃべり会」を開いている「こどもとアートとその周辺のためのプロジェクト「RACOA(らこあ)」というプログラムがある。この関連企画で、四日市市にある子どもの本専門店「メリーゴーランド」を訪問するという研修バスツアーがあり、私も申し込んだ。とてもユニークな書店だと聞いたことがあり、以前から興味があったのだ。この日は、ツアーの参加者の事前勉強会が「中之島4117」で行なわれて出席。勉強会といっても、それぞれが自己紹介をしたあと、「メリーゴーランド」のオーナーである増田喜昭さんの著作より抜粋されたテキストを皆で順番に読み回していくというものなのだが、これがなんとも良い時間になった。本には「メリーゴーランド」に関することのみならず、店舗の2階で行なわれている「あそびじゅつ(遊美術)」という子どもの造形ワークショップのこと、町の人たちや学校を介しての子どもたちとの交流エピソードなど、増田さんのこれまでの活動が数々記されていたのだが、それがどれも魅力的な内容で想像が掻き立てられていく。文章そのものの説得力も凄いのだが、すべて読み終える頃には、この勉強会の場もすっかり和やかなムードになっていた。なにかコメントしたい!というイキイキした表情の人たちによってその後の話も弾む。学生から60代の方まで、年令も職業もさまざまな方が出席していたのだが、この勉強会がなかったならば、翌週のバスツアーの雰囲気も違っていただろう。じつを言うとはじめは事前勉強会なんて面倒くさい、と思いながら出向いたのだが(すみません)、RACOAのスタッフに感謝。

2012/01/22(日)(酒井千穂)

京都・京町家ステイ・アートプロジェクト vol.1

会期:2012/01/21~2012/01/27

和泉屋町町家、筋屋町町家、石不動之町町家、美濃屋町町家[京都府]

京都の四条河原町に程近い4軒の町家を舞台に、畠中光享(絵画)、福本潮子(染色)、大西宏志(映像)、近藤高弘(陶芸)によるアートプロジェクトが実施された。単に町家に作品を並べる展覧会なら新味はないが、このプロジェクトでは4作家がそれぞれ1軒の町家を担当し、もてなしの空間をつくり上げたのが斬新だった。たとえば、福本潮子は家具や寝具などインテリアの一部としても作品を用いていたし、畠中は自作品と自身が蒐集したアンティークを持ち込んで細部まで心遣いが行き届いた空間を演出していた。会場の町家も元々のよさを保ったままリノベーションされており、伝統と現代を兼ね備えた高級和モダン住宅の趣。室内でくつろいでいると本当に贅沢な気持ちになり、上質な生活とは何かを体感することができた。なお、当プロジェクトは展示終了後も継続しており、現在は「アート町家ステイ'12」と題して1日1組の滞在を受け付けている(3/4まで)。もちろん4作家の展示状態のまま、である。

2012/01/22(日)(小吹隆文)