artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
北川貴好「フロアランドスケープ──開き、つないで、閉じていく」

会期:2012/01/14~2012/02/05
アサヒ・アートスクエア[東京都]
あいちトリエンナーレ2010や横浜トリエンナーレ2011に出品した北川も、武蔵野美術大学の建築出身のアーティストである。穴、水、植物を使った、これまでの集大成的な作品だった。ただし、屋外だとラディカルな手法が、室内だと少し違う意味をもつように思えた。個人的には、2フロアを展示に使ったことで、おそらくバックヤードで普段は見られない階段を体験することができたのがよかった。それにしても、しばらく訪れていなかったが、スタルクのスーパードライホールは強力な存在感を放つ。背後に見える東京スカイツリーのように一番高くなくても、純粋にかたちと色だけで、一度見たら忘れられないインパクトをもっている。ここまできたら、バブル期の遺産として長く残って欲しい。しばらく、日本はこういうデザインをつくらなそうだし。
2012/01/27(金)(五十嵐太郎)
試写『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』

会期:2012/01/27
ブロードメディアスタジオ[東京都]
1994年に南仏で発見されたショーヴェ洞窟の壁画は、約3万2千年前に描かれた世界最古の絵とされている。壁画保護のため入場を制限しているこの洞窟に、初めて3Dカメラによる撮影を許可されたのがヴェルナー・ヘルツォーク監督だ。この映画のおもしろさは、もちろん第一に洞窟壁画を3D映像で体感できること。洞窟壁画には凹凸がある、というより壁の凹凸に沿って描かれているのに、われわれが目にすることができるのは図版だけなので、それを実感できなかった。この映画では、とくに後半に思うぞんぶん絵の立体感(この矛盾に洞窟壁画の秘密がある)を体験することができるのだ。第二のおもしろさは、洞窟に入るのに撮影機材やスタッフの人数まで厳しく制限されたため、とくに前半では洞窟に入って撮影するというみずからの行為自体をドキュメンタリーの対象にせざるをえなかったこと。つまり、メタドキュメンタリーという自己言及的な事態を引き起こしているのだ。そして第三は、これを見る観客がいる暗い映画館内と、映像内の洞窟空間とがひと連なりにつながって感じられるということ。とくに試写室という狭い密室空間ではなおさら自分が洞窟内にいると感じられる。ともあれ、洞窟壁画ファン(少ないだろうけど)には垂涎の映画であることは間違いない。[TOHOシネマズ日劇、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかで、3週間限定 春休み特別ロードショー(3/3~)]
2012/01/27(金)(村田真)
宮川香山 眞葛ミュージアム

宮川香山 眞葛ミュージアム[神奈川県]
ジャポニスムの調査のため、明治期に横浜で活躍した陶芸家・宮川香山の美術館へ。横浜ポートサイド地区のビルの一画という、駅から行きにくいうえにわかりにくい場所にあるので、さんざん迷ったあげく到着。着いてみればわかりにくい場所ではないんだけど、表示が少ないので行き着けなかったのだ。さて、宮川香山といってもいまやほとんど知られてないが、京都出身で維新後に輸出用の陶磁器をつくるため横浜に移住した眞葛焼の陶工。初期のころは花瓶に鳥やカニがくっついたような、レリーフどころではない超立体的なハイパーリアリズム陶器で人気を博し、欧米の万博で賞を総ナメ。ところが10年もたたないうちに欧米人の好みの変化を目ざとく読み、作風を一転させてシンプルな磁器を制作。これがまた立体陶器に輪を掛けて海外で人気となった。したがって作品のほとんどは海外に流れてしまったので、ミュージアムをつくるために欧米各地で買い戻さなければならなかったという。ミュージアムといってもビルの一角を占める小さな施設だが、かつて横浜に窯があり、世界的な陶工が活動していたことを知るだけでも意義のある美術館だ。
2012/01/27(日)(村田真)
東北を開く神話 第1章 鴻池朋子と40組の作家たちが謎の呪文で秋田の古層を発掘する

会期:2012/01/18~2012/01/29
秋田県立美術館[秋田県]
アーティストの鴻池朋子による企画展。秋田の土地に伝わる民話のなかから言葉を抜き出し、それらを無作為に組み合わせた「呪文」を、秋田在住の美術家たち40組にそれぞれ割り当てる。美術家たちは、その謎の言葉から想像力を膨らませて作品を制作し、それらを同美術館内のひとつの会場でいっせいに展示した。広い会場の奥には鴻池による《アースベイビー》が鎮座し、そこから噴出した縄が秋田の地形を描きながら、その地名を含んだ作品がそれぞれの場所に設置されているという構成だ。たとえば「羽鳥沼のさびしね爺んじが口が耳まで裂けでしまて鬼の赤んぼ産んでしまった」という「呪文」のそばには、坊主頭の老人が耳まで大きく裂けた口から勢いよく金色の縄を吐き出し、その縄の中にかわいらしい赤ん坊を描いた平面作品が置かれている。図として描かれた金色の縄と地のターコイズブルーの対比が美しい。しかもその平面自体を本物の縄で何重にも巻きつけているので、《アースベイビー》から伸びた長大な縄との連続性がじつに効果的に強調されている。会場には、玉石混交の作品が散りばめられていたにもかかわらず、全体としては独自の世界観によって統一されており、それゆえ見る者は、実際にはありえない、いやいや、もしかしたらありえたかもしれない未知の「神話」に、想像力を存分に及ばせることができたのである。展示の設定、というよりむしろ遊びのルールを、明快かつ徹底的に行き届かせた、鴻池ならではの企画展で、存分に楽しんだ。さらに、展覧会として優れているばかりでなく、この企画はある種の教育プログラムとしても非常に有効なのではないかと思えた。というのも、「呪文」という縛りを設けることによって、現在の美術教育で自明視されている野放図な「自己表現」を、ある程度抑制することが期待できるからだ。実際、多くの参加作家たちは「呪文」という外部の偶然性といかに折り合いをつけるかに苦心していたようだし、その反面、専門的な美術教育を受けていない者にとっては、「呪文」が逆に効果的なステップボードになっていたように見受けられた。展示には「呪文」だけ記載されており、作者名は一切見当たらなかったが(会場の外に出てはじめて、作者名を記したマップを手にとることができた)、ここには専門的な教育を受けた者もそうでない者も、すべて等しく参加でき、さらには同じ参加作家として均等に見せようとする、企画者の賢明な判断があったように思う。美術教育の改革を望むのであれば、鴻池朋子から学ぶべきことは多い。
2012/01/26(木)(福住廉)
佐藤信太郎「東京|天空樹 Risen in East」

会期:2012/01/13~2012/02/25
フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]
写真集と展示の違いが際立って見える作品があるが、佐藤信太郎の「東京|天空樹 Risen in East」はそのいい例だろう。青幻舎から刊行された写真集を見たときには、前作の『非常階段東京─TOKYO TWILIGHT ZONE』(青幻舎、2008年)の延長線上の仕事に思えた。ところが、フォト・ギャラリー・インターナショナルの展示を見て、遅まきながら、その方法論自体が大きく変化していることに気づかされた。
まず最大で3,139×311ミリという画面の大きさが圧倒的だ。横が極端に長いパノラマサイズのプリントは、当然ながらデジタルカメラの画像をつなぎあわせたものだ。最大30枚以上の画像が使われているという。ということは、佐藤は4×5判の大判カメラを使っていた前作から、撮影とプリントのシステム自体を完全に変えてしまったことになる。結果として、ある特定の時間(黄昏時)、特定の眺め(ビルの非常階段から)にこだわっていた前作と比較して、表現の幅がかなり広がりをもつものとなった。それだけでなく、複数の時間、複数の視点がひとつの画面に写り込むことによって、あたかも絵巻物を見るように、伸び縮みする視覚的体験が生じてきている。
その中心に写り込んでいるのが、言うまでもなく建造中の東京スカイツリーである。この「天空樹」の出現は、誰もが気づかざるをえないように、東京の東半分の地域の眺めを大きく変えつつある。特に浅草の街並みや墨田区京島の戦前から残っている古い長屋などとくっきりとしたコントラストを描き出すことで、新たな景観が生み出されようとしている。まさに都市の生成途上の姿を捉えたドキュメントとしても、意味のある仕事と言えそうだ。
2012/01/26(木)(飯沢耕太郎)


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