artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

Palla/河原和彦 作品展「イコノグラフィー3 CLOUD/CROWD(クラウド)」

会期:2011/10/05~2011/10/31

Gallery Kai[大阪府]

建物や風景の画像を、向きを変えたり反転させるなどして何重にも重ね合わせ、未知の光景をつくり上げるPalla/河原和彦。新作では、大阪の地下街を行き交う群衆の足元を撮影した動画を用いて、映像と平面作品を発表した。彼が動画作品を発表したのは今回が初めて。動画特有の「時間」という新たな軸が加わったことで、新作にはこれまでにない独特の奥行き感が生じていた。3Dで撮影すれば一層不思議な世界が作れるかもしれない。新たなフロンティアを見つけ出した彼の、今後の展開に注目したい。

2011/10/08(土)(小吹隆文)

畠山直哉「ナチュラル・ストーリーズ」

会期:2011/10/01~2011/12/04

東京都写真美術館 2階展示室[東京都]

この展覧会はすぐに見なければと思っていたのだが、大阪、沖縄と移動していたのでオープニングには間に合わなかった。だが、慌ただしいなかで見るよりもじっくりと写真の前で過ごすことができてよかった。畠山の作品は、写真から発するメッセージをじっくりと受けとめ、咀嚼し、思考し、行動することを要求しているからだ。
たしかに実質的なデビュー作である、石灰岩採掘場を撮影した「ライム・ヒルズ」以来、畠山の関心は「自然と人間との関わり」に向けられてきた。今回の展示を見ると、それが、即物的な描写からゆるやかな「ストーリー」を持ち、見る者の記憶や感情の奥底を揺さぶるものへと、少しずつ生成・変化していったことがわかる。「タイトルなし(もうひとつの山)」(2005年)、「テリル」(2009~10年)、「アトモス」(2003年)、「シエル・トンベ」(2006~08年)、「ヴェストファーレン炭鉱I/IIアーレン」(2003~04年)、「ライム・ヒルズ」(1986~90年)、「陸前高田」(2011年)、「気仙川」(2002~10年)、「ブラスト」(1995年~)、「ア・バード/ブラスト#130」(2006年)の10部構成、100点を超える作品の展示は、文字通りこのテーマの集大成といってよいだろう。
個々のシリーズについて、特に1990年代の「UNDERGROUND」の発展形というべきパリ郊外、ヴァンセンヌの森の天井が落下した石灰岩採掘場を撮影した「シエル・トンベ」などについては詳しく論じたい誘惑に駆られるのだが、あまり紙数の余裕がない。そこで今回の展示において、畠山にとっても観客にとっても大きな意味を持つであろう「陸前高田」と「気仙川」についてだけ書いておきたい。
畠山が岩手県陸前高田市の出身であり、今回の震災後の津波によって母上を亡くされたということを知る者は、あえてこの時期に震災後に撮影された風景写真60点あまりを展示したことの意味について、自問自答しないわけにはいかなくなる。このことについては彼自身が、『読売新聞』2011年6月10日付けの記事や『アサヒカメラ』2011年9月号に寄せたエッセイで「誰かに見てもらいたいということよりも、誰かを超えた何者かに、この出来事の全体を報告したくて撮っている」と、これ以上ないほど明確に述べている。それに何か付け加える必要もないのではないか。「陸前高田」の写真を実際に目にして、この言葉の揺るぎのないリアリティがひしひしと伝わってきた。
驚き、かつ感動したのは、「陸前高田」と隣り合うスペースに、スライドショーのかたちで上映されていた「気仙川」のシリーズである。畠山の実家は市内を流れるこの川の畔にあった。写真に写っているのは2002~10年に折りに触れて撮影された、何気ない街の光景、夏祭り、花火、河辺にたたずむ人々の姿などだ。いうまでもなく、永遠にゆったりと流れ、そこに留まっていくはずの故郷の時間と空間は、震災によってずたずたに寸断され、その多くは文字通り消失した。そのことを、畠山は二つのシリーズを対置することで、静かに、だがこれ以上ないほどの説得力で語りかけてくる。あらわれては消えていく画像のなかに、海に向けて小さなカメラを構える老婦人を、横向きで撮影した一枚があった。その時、何の根拠もないのだが、この人は畠山の母上ではないかと思った。

2011/10/07(金)(飯沢耕太郎)

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スマートイルミネーション横浜

会期:2011/10/07~2011/10/09

象の鼻パーク+山下公園+元町ショッピングストリートほか[神奈川県]

横浜港発祥の地にある象の鼻テラスが、「都市観光とアートの融合」を目指して展開する光を用いたアートプロジェクト。都市の夜景を彩るイルミネーションといえば、阪神大震災の起きた1995年に始まる神戸ルミナリエがまず思い浮かぶ。地震後にイルミネーションが発想されたのは、犠牲者の鎮魂と都市の復興にふさわしいと考えたからだろう。この「スマートイルミネーション」にも、きっとそんな思いが込められているに違いない。もちろん「ブルー・ライト・ヨコハマ」からの連想もあるが。プレスツアーは、イルミネーションスーツをまとった日下淳一がうろつく象の鼻からスタートし、藤本隆行らがライトアップする通称キング、クイーン、ジャックの3塔を見ながら、高橋匡太による《ひかりの実》を設置した元町商店街や山下公園などをバスで巡回。いったん象の鼻に戻り、今度は船に乗って海から夜景をながめる約1時間のナイトクルーズ。これは快適、まさに「観光」。でも全体的にイルミネーションはちょっとさびしかったなあ。とくに元町商店街ではほとんど目立たない。鎮魂と復興が隠れテーマならもっとハデに繰り広げてほしかったけど、震災と津波だけでなく原発事故まで引き起こしてくれたおかげで、消費電力を抑えなければならない事情もある。目立ちたいけど目立っちゃいけない──この矛盾を解決する最終兵器が、省エネのLEDだ。タイトルの「スマート」にも省エネの意志が組み込まれている。

2011/10/07(金)(村田真)

中島麦「悲しいほどお天気」

会期:2011/09/09~2011/10/10

gallery OUT of PLACE[奈良県]

中島麦が新作を発表していた。大通りから少しだけ離れた静かな住宅街の路地にあるギャラリーの、外から見えるガラスのショーケースに木漏れ日をイメージさせる絵画が展示されていたのだが、そこに実際に木漏れ日が当たり、ざわざわと揺れ動く葉の影が重なっていた。画面の表情が豊かに変化して見えるその光景が美しい。今展では、ギャラリー内の壁全面に描かれた壁画も新たな試みの大作で見どころだった。青や水色の色面が印象的なその壁画を見て、一緒に訪れた母が「クジラのような海の大きな生き物に見える」「停泊した船と穏やかな湾」と、私には想像もつかなかったイメージを語っていたのが新鮮だったが、さらにファイルに収められたドローイングや、ずらりと並んだ壁画と同形の小作品を見ながら「ダイナミックだけど日本画のような繊細な趣き」と言っていて興味深く思った。また今回は、夏に東北を旅した際に撮影した写真を繋ぎ、映像にした作品も発表。会場全体が風景、時間、季節、天気といくつもの要素が連関して成り立つ作品となっていた。

2011/10/07(金)(酒井千穂)

石塚源太─たゆたうさかいめ─

会期:2011/10/01~2011/10/29

ARTCOURT Gallery[大阪府]

円盤の支持体に金属部品やワイヤーなどを置いて研ぎ出した漆作品を中心に、お盆状の作品、優美な曲線を帯びた小オブジェなどを出品。円盤の作品は、漆黒の平面内にさまざまな模様が並んでおり、まるで夜空に輝く星座のようだ。本展では、それらを広い空間に点在させることで、今までの個展では味わえなかった醍醐味が得られた。画廊の広大な展示室が、作家のポテンシャルを引き出したと言えよう。

2011/10/06(木)(小吹隆文)