artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
太田祐司 個展「ジャクソン・ポロック新作展」

会期:2011/09/08~2011/11/26 ※会期延長
AI KOKO GALLERY[東京都]
2009年の五美大展で「半馬博物館」という架空のミュージアムを発表した太田祐司の個展。イタコの女性にジャクソン・ポロックを呼び出してもらい、当人に新作を描かせたアクション・ペインティングの大作と小品、そして当人へのインタビューと制作風景を映した映像を発表した。オレンジやグリーン、ブラック、シルバーなどの色彩をドリッピングによって重ねたマチエールは、いかにもポロック風。映像を見ると、床に寝かせたキャンバスに、イタコの女性が勢いよく絵筆の塗料を滴り落としているが、その身体動作が徐々に躍動していく様子がわかっておもしろい。なるほど、たしかに「ジャクソン・ポロック新作展」である。故人のアーティストをイタコに呼び出してもらう作品としては、すでにセカンド・プラネット(宮川敬一+外田久雄)がアンディ・ウォーホルにインタビューを行なっているものの、太田が優れているのは、故人と対話するだけでなく、絵画を実作させたからだ。いったい、霊魂が現世の肉体を借りて制作した絵画は真作なのだろうか、それとも贋作なのだろうか。ほんとうの作者は誰なのだろうか。「半馬博物館」や「未確認生命体(UMA)」がそうだったように、真偽や虚実のあいだを絶妙に突く、太田ならではの傑作である。かりに「ほんとう」だったとしても、具象絵画全盛の時代にあって、その愚直なアクション・ペインティングがやけに新鮮に見えたことは偽りではないし、真っ赤な「うそ」だったとしても、シャーマン絵画としてのおもしろさが減殺されるわけでもない。つまり、真偽や虚実というテーマをみずから設定しつつ、しかしその振り子がどちらに傾くかに関わらず、どっちにしろ太田の作品は評価されるのであり、ほんとうに絶賛しなければならないのは、この高度な戦略性なのだ。ところで、それはそれとして、抽象表現主義を頑なに信奉してやまない美術評論家の連中が、いったいこれをどのように評価するのか、という点が気になって仕方がない。
2011/10/06(木)(福住廉)
ベネッセアートサイト直島

直島、豊島、犬島[香川県、岡山県]
いずれも初めての訪問ではなかったが、直島、犬島、豊島など、瀬戸内海におけるベネッセが手がけた建築・美術プロジェクトをまとめて見学する機会を得た。テンポラリーなものよりも、常設で残っていくものを制作してきたことが改めてうかがえる。安藤忠雄によるミュージアムをオープンしたのは1992年であり、もうすぐ20周年。民家を改造し、宮島達男の現代美術を導入した家プロジェクトは、1998年であり、越後妻有トリエンナーレよりも早い。こうして瀬戸内国際芸術祭の成功への種をまいてきた。
写真は上から、
宮島達男《Sea of Time'98》(家プロジェクト、角屋)
森万里子《トムナフーリ》(豊島)
設計:妹島和世、アートワーク:柳幸典《眼のある花畑》、アートディレクター:長谷川裕子(家プロジェクト、犬島)
2011/10/05(水)(五十嵐太郎)
進藤環「蒔いた種を探す」

会期:2011/09/23~2011/10/16
hpgrp GALLERY 東京[東京都]
進藤環は武蔵野美術大学大学院油絵コースを修了後、東京綜合写真専門学校で写真を学び直した。2009年の新宿眼科画廊での個展「動く山」の頃から、各地で撮影した植物群の写真をつなぎあわせ、実際にはありえない奇妙な風景をつくり出すようになった。植物、岩、大地、水、空が不規則に融合し、微妙にメタモルフォーゼしていく色相に包み込まれたその場面は、天国とも地獄ともつかない独特の触感を備えている。
このような画面構築の操作は、普通はパソコン上でフォトショップなどのソフトを用いて行なうのだが、進藤はあえて鋏と糊を使って切り貼りする古典的なコラージュの手法にこだわっている。そうやって出来上がった写真を、あらためて複写して大きく引き伸ばすのだ。少しずつ画面が変容しながら完成に近づいていく、その制作のプロセスそのものが、彼女にとってはとても大事なものなのだろう。同時期にルミネ新宿で開催された「LUMINE meets ART」(9月27日~10月31日)の出品作に寄せたコメントで「室内にいるのに、ふっと外に、森にいく。異空間につながる。その掛け渡しができればなと思います」と書いている。たしかに、その「掛け渡し」の意識が、コラージュの継ぎ目のあたりから漂い出てきているように感じた。
2011/10/05(水)(飯沢耕太郎)
庭の見世物小屋 東義孝

会期:2011/09/28~2011/10/10
京都造形芸術大学 ギャルリ・オーブ[京都府]
昨年急逝した若手画家、東義孝。本展は、デビューした2005年以降の作品で彼の画業をたどる回顧展だ。東の作品は、人物や動物などのシルエットのなかにさまざまなモチーフを詰め込んだものが多く、甘美さと残酷さの同居に大きな特徴がある。画業はわずか5年ほどだが、その間にも試行錯誤が盛んに行なわれていたことが、100点余の出品作を通して伝わった。これは、彼が早くからコマーシャルギャラリーに身を置き、厳しい競争環境で切磋琢磨していたことと無縁ではないだろう。これまで作品を見る機会に恵まれなかった関西在住の美術ファンとしては、本展はせめてもの機会であった。それにしても早過ぎる死だ。残念というほかない。
2011/10/04(火)(小吹隆文)
世界制作の方法

会期:2011/10/04~2011/12/11
国立国際美術館[大阪府]
大西康明、パラモデル、青木陵子+伊藤存、鬼頭健吾、金氏徹平、エキソニモ、クワクボリョウタ、半田真規、木藤純子の9組(いずれも1970年代生まれ)が出品。今後日本の美術シーンの中心的存在として活躍するであろう作家たちが、各々の世界を存分に見せてくれた。それぞれ作風が違う彼らだが、共通するのは、素材やジャンルに対する意識が自由で、美術史上のイズムやイデオロギーからも柔軟な態度が感じ取れること。正直、意図が掴めない作品もあったが、一回り上の世代に当たる私には、彼らの軽やかな振る舞いそのものが眩しく感じられた。
2011/10/03(月)(小吹隆文)


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