artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:三沢厚彦「Meet The Animals──ホームルーム」展

会期:2011/04/10~2011/05/22

京都芸術センター ギャラリー北・南[京都府]

京都出身の彫刻家、三沢厚彦の京都での初めての個展。三沢作品の動物は、表面の質感、リアルな大きさ、そのユーモラスな様相などの魅力のみならず、親しみや愛らしさといった感情を喚起して見る者を惹きつける。つねに空間と作品の関係性を重視したインスタレーションによって「見ること」を超えた「出会い」の瞬間を体感させるその表現が元小学校であった会場にどのように展開するのか。とても楽しみな展覧会。

2011/04/04(月)(酒井千穂)

artscapeレビュー /relation/e_00010079.json s 1232790

湯沢英治『BAROCCO 骨の造形美』

発行所:新潮社

発行日:2011年2月25日

『BONES 動物の骨格と機能美』(早川書房、2008)に続く湯沢英治の2冊目の写真集である。前作と同様に黒バックで動物、鳥類、魚類などの骨を克明に撮影しているのだが、印象はだいぶ違う。骨のシンメトリックな構造や「機能美」を中心に撮影していた前作と比較すると、この写真集では「われわれ人間には思いもよらない、歪んだ曲線の組み合わせ」が強調されている。そこにはたしかに「不規則・風変わり・不均等」を特徴とするバロック的な美意識に通じるものがありそうだ。実際に、おそらく非常に小さなものと想像される骨の断片が、われわれの常識をくつがえす液体的とでもいえそうな流動的、有機的なフォルムを備えている様が、湯沢の丁寧な撮影によって浮かび上がってきていた。
骨というテーマに新たな一石を投じるいい仕事だが、これをもう一歩先に進めたらどうなるのかとも思う。写真集全体の造りは、あくまでも学術的な研究をベースにしており、生物学的な「正しい骨の配置」の規範を踏み越えることはない。さらに「BAROCCO」的な要素を強めて、複数の骨を組み合わせてオブジェ化し、ありえない生物の骨格をつくり出すようなところまでいけないのかとつい夢想してしまうのだ。以前、湯沢に話を聞いたところ、彼のなかにもアートと生物学との境界線を引き直すことへの葛藤があるようだ。僕はもっと思い切って、アート寄りの作品に向かってもいいのではないかと思うのだが。

2011/04/02(土)(飯沢耕太郎)

小林孝一郎 展「白とよこは、縦」

会期:2011/04/01~2011/04/21

竜宮美術旅館[神奈川県]

久々にわくわくする新人の個展に出会った。アフロアメリカンのポートレートを白い絵具で描いたり、凹凸のある白い壁に凹凸のある白い絵を掛けたり、ウミガメ(剥製)の甲羅にウミガメの甲羅模様を描いたり、チャブ台にチャブ台の表面の大理石(?)模様を描いて壁に掛けたりと、同義反復的なことをやっている。ウミガメを使うのは会場が「竜宮」だからというだけでなく、かつてカメの甲羅は吉凶を読みとるための視覚メディアでもあったからだろう。また、チャブ台は英語でテーブルだが、テーブルの語源は「タブロー」と同じなので、この作品はタブローの上にタブローを描いた「純粋タブロー」といえなくもない。フォーマリズムの盲点を突くような作品。でも売るのは難しそう。

2011/04/02(土)(村田真)

加藤芳信 展

会期:2011/03/22~2011/04/02

ギャラリー川船[東京都]

「点を打ち続けて40年」、加藤芳信の個展。主に80年代に制作された点描によるモノクロームの細密画と、柔らかな曲線による木彫作品などを展示した。一口に点といえども、その形態はさまざまで、墨のかたちと濃淡を使い分けながら、画面に独特のマチエールを生んでいることがわかる。点描という手法はえてして画面に偏執的な内向性をもたらすものだが、加藤のそれは同時に果てしない外向的な拡がりを感じさせるところが大きな特徴だ。艶めかしさを感じさせる木彫は、空間を支配する強いフォルムを獲得しながらも、ぽっかり空いた穴の内奥に誘い込まれるようなエロスを覚えさせる。

2011/04/02(土)(福住廉)

MOT アニュアル2011「Nearest Faraway──世界の深さのはかり方」

会期:2011/02/26~2011/05/08

東京都現代美術館[東京都]

11回目の「MOTアニュアル」。今年は池内晶子、椛田ちひろ、木藤純子、関根直子、冨井大裕、八木良太の6人の作家が紹介された。カラフルなスーパーボールやキッチン用のスポンジを用いた冨井大裕の作品、池内晶子の白い糸を張り巡らせた空間、ボールペンの夥しい筆致の迫力と細やかさに目を見張る椛田ちひろの巨大な作品、光と影の穏やかな移ろいを密やかに提示した木藤純子のインスタレーションなど。身近にある素材やさまざまな物事を手がかりにシンプルな手法で作品を展開する作家達の展示は、どれもそれぞれに繊細で、些細であってもなにかしらの「気づき」や驚きを与えるものであった。こちらが積極的に作家の意図や心中を推し量って想像力をフルに働かせることではじめて堪能できるというデリケートな要素も強い展覧会で、会場全体に静かな緊張感が満ちている。順路最後は、カセットテープが巻き付けられたボールをプレイヤーにセットし、そのテープの音に耳をかたむけるという八木良太の作品空間だったが、ここで少しほっこりと気分が和んだ。とても良い順番だったし興味深い内容の展覧会であった。ただ、開館時間が短縮されていると美術館に着くまで知らず、同時開催の田窪恭治展を断念してしまったのは心残り。

2011/03/30(水)(酒井千穂)

artscapeレビュー /relation/e_00012283.json s 10001363